「師匠。本当にイノセンスがあるのですか?」
「いいだろマリ。あってもなくても、ここにはアクマがよく出現するんだからな。」
「神田の言う通りじゃん。イノセンスがなくてもアクマが出るんなら破壊するだけじゃん。」
雨の中、師匠のフロワ・ティエドールと兄弟子のノイズ・マリ、デイシャ・バリーとともにオレは歩く。
今回、師の元について初めてエクソシストのようにイノセンスに関わるらしい。
デイシャの故郷と同じイタリア。しかし海はなく、周りは木ばかり。
ここはヴァチカンの力が及ばない所らしく、今夜は泊まるあてもない。ティエドールはクロスとか言う元帥に紹介された屋敷があると言っているが、それを信じていいのか悪いのか定かではないから、とりあえず期待しない方がいい。
「んー、確かあの橋を渡ったら見えてくるみたいだよ。」
「なんかテキトーじゃん…。」
「本当にな。」
「諦めろ師匠はこういう人だ。」
デイシャが愚痴をボロクソに言っているのを聞き流してじっと橋を見る。
橋の下には何かガラクタのようなものが積み重なっていた。
「なんだアレ?」
「アクマの残骸のようだな。」
「どうやらここは本当にアクマが出るらしいね。」
師匠の言葉を聞いてデイシャが橋に向かっていった。誰が破壊したのか気になるらしい。
アクマを破壊できるのはイノセンスの適合者だけだから、その気持ちがわからなくもないが…。
しかし、一人で行かせるのは危険だ。万が一、アクマがまだ完全に破壊されてなければ、やられるのがオチだ。
「行くぞ神田。」
「ちっ。」
デイシャに付いていく。
橋の下は血の生臭い臭いが充満していた。
そして…
「女…?」
「変なカッコじゃん。」
「大怪我を負っているぞ!」
アクマの残骸に背を預けて目をつぶっている女がいた。
血が渇いたような赤黒い短い髪に透けるような白い肌、そして黒い蝙蝠のような翼に黒い尻尾だった。
眉間にはシワが寄っていて、身に纏っている黒いコートは腹部が裂けていた。息は浅く、顔は青ざめている。
「おい大丈夫か?」
デイシャがそう声をかけて、手が肩に触れた刹那…
「Chi è?
(誰だ?)」
女が目を開け、デイシャに隠し持っていたらしいナイフを右手に持って向けた。
瞳も髪と同じ黒赤色…。その瞳は深く暗い色合いだった。 ←→ page: