スターツアーズがきらいだった



あのねぇ、ゆーちゃん。わたしコーコガクシャになれちゃうかも!すごいよ!すごい!このおふろのさきにシンデレラみたいなおくにがあったの!ざんねんながら、おひめさまはいなかったんだけれど、じょーおーさまがいたよ!キラキラ!キンパツ!ヘキガン!おうじさまもすごいかっこいいんだよ!もう、すんごい!にばんめのひととかちょっとじみめなんだけど、わたしコーハのほうがすきだからねえ、やばい!いちばんめはちょーコワモテでめっちゃこわいんだけど、めっちゃやさしかった!さんばんめはちょーかわいいけど、もうおまえおんなのこなんじゃないのってぐらいかわいいんだけど、ちょーうざい。なんかずっとキャンキャンいってくるの。わたしみしらぬとちでこころぼそかったのに、よくそこまでぼうげんおもいつくなってくらい。わたしななさいだよ?あいつみためこそチューガクセーだけどろくじゅっさいとちょっとで、ちよーおとなじゃん?なのにボロクソいってくんの!わたしがおひめさまだったら、ぜったいキャッカだよキャッカ!…え?すっぽんぽんでうろちょろするなって?ゆーちゃんはおとうとだからいいのー!リボンとスカートきてるうちはいーの!ね、ちょっといこ!えぇと、いだいなるしんおうとそのたみたるまぞくにさかえあれああ……えっとなんだっけ?シンマコク!ファンタジーだよ!きれいなじょーおーさまとおうじさまときぞくたち!すごくない?まほうとけんとうまのせかい!キラキラーってかんじ!じゃあおすよー。てーいっ!……あれ?う、ぁ、ごめ、ゆーちゃん!いまたすけるぅぅ!いたっ!しょ、しょーちゃんごめんなさいゆーちゃんがぁぁあ、わたしわるぎはないんですなぐらないでぇぇ…!!



***



目を開ければ、雲一つない真っ青な空が広がっていた。あばよ、悪しき夢。肺の中の重い塊を吐き出して、帰ってきてしまった。と頭の中でぼやく。私は、今の今まで弟の渋谷有利とともに地球とは別の世界にいたのだ。彼があっちに行くようになってからというもの、毎回毎回小旅行程度の行動力と行動範囲であったけれど、前回あたりからどうもおかしい。小旅行程度の移動距離でもスパンでもなくなっているのだ。結構サバイバルヤバイバルな旅行内容で、収容所に手違いでぶち込まれ、囚人として鉱石掘りに従事したのはかなりしんどかった。アンネ・フランクの気持ちがちょっとわかったかもしれない。大学生が誇らしげに口にする社蓄なんて生易しいものじゃない。奴隷だ。一日二食とかいい方だ。一秒でも寝坊すれば朝ご飯抜きだったし、ご飯と言ってもパンとスープとか馬鹿げてる。しかも味薄かったし。まあ、過ぎたことだし、最終的には姪っ子グレタがこちらに住むようになったし、帰ってこれたから水洗トイレの如く水に流してあげようと思う。別にこちらが多少何かあったところで問題じゃなかった。


「(…コンラートとグレタ、死んでないよね…?)」


向こうを離れる最後の瞬間、私の目に映っていたのは、真っ赤に燃え盛る教会の内部と複数の敵と勇敢な弁護人、宙に投げ出された彼の切り離された右腕と、彼に投げ飛ばされて私に向かってくるチャリンコだった。弟の十歳になる養女は教会の椅子の下で小さくうずくまっていた。救いなのは、私の弟の国王補佐であるギュンターが、教会への道中何者かの矢に倒れ毒に侵されたものの、自ら仮死状態になってくれたことくらいだ。おかげで道に置き去りにせざるを得なかったが、死ななかっただけ、ずっといい。私達は眞魔国で何が起こっているのかよく知らぬまま、地球に返された。戻って助けてあげなきゃ。と水底で握った拳を押し付けたけれど、完全に扉はしまっているらしい。いつものことだが、何も起こりはしなかった。どうしようもない。が、まあ、眞魔国随一の剣士がいるんだし、そうそう死なないと信じてるけれど、血の繋がっていない姪っ子だけが心配だ。

で、だ。ここはどこだったかな。と水に体を浸したまま考えを巡らせた。確か、行きは海だっけっか。有利がとある女性の水着の上を遊泳禁止のとこから回収したとき流されたんだよなあ。服、濡れたままはいやだなあ。なんて、ここまで落ち着いて考えられるようになったのだから私もだいぶこの移動に慣れたものだ。それもそうだろう、私はかれこれ十年以上、私の第二の母国となってしまった眞魔国のある向こうの世界と祖国日本の存在する地球を行き来しているからだ。その行き来を、私は似たような感覚を覚えるディズニーのアトラクションに倣ってスターツアーズと呼んでいる。擬似的宇宙空間の中を宇宙船のシートに乗って揺れるのと水中に生身で挑むのとではレベルが違いすぎるのだが、最中と終わった後の気持ち悪い感じはそっくりだ。
ちなみに、前の前の前のスタツアでこの度一つ下の私の弟が第二十七代魔王に就任したことは記憶に新しい。日本時間で言えば、桜散る4月のことであった。奴は公園の公衆便所から流されたらしい。私だったら断固拒否だ。正直、前回の入口であったイルカのプールでも結構嫌なんだけれども。今回の出口は酒樽の中で危うく死ぬところだったし、もうちょっと移動先に配慮してくれてもいいんじゃないかと思う。そもそも、移動手段が水中という時点で不便すぎる。
身体を起こして髪やセーラーの裾をを絞る。遊泳禁止のくせに思ったよりも波ないなあ。と間抜けなことを考えてから思考が停止した。ぴゅうっ、と、刺すようにとまではいかないものの、なかなかに冷たい風が吹いてくしゃみが出る。なにこの肌寒さ。十月かよ。どういうことだ。


「(ちょっと待ってよ…。)」


額を押さえた私の背後で噴出される水が降りかかった。よくよく見れば、木の葉は枯れ落ち、木枯らしがふいている。というか、木がある時点でどういうこと?なんだけど。嘘だろ?私は公園の噴水の真ん中に現れてるときた。通りで冷たいわけだ……っていうのはどうでもいい。スタツアは、地球から出た場所が帰ったときの位置のはずなのだ。基本的に場所も時間もそこまでズレは生じない。けれど、今はどうだ。海で呼ばれたのに今は公園だし、茹だるような真夏日に出たのに今は体中に鳥肌が立っている。おかしい。あの日は有利とその友達のムラケンくんと私で海に行って、向こうで着替えたから今は黒のセーラーだけど、私はユニオンジャックのセパレートタイプの水着に白シャツを羽織ってただけだし、ムラケンくんも有利も水着の上ににムラケンくんの親戚が経営してる海の家のエプロンを着用した裸前掛け姿だったもの。まあ海に着くまではまた例の如く青地に龍の描かれただっさいTシャツを着ていたけれど、でも半袖だ。今が特別寒かったとしても長袖を切るような寒さではなかったし、絶対にこんな秋の終わり的寒さはない。それにしても有利のあのファッションセンスのなさも有り得ないよなあ。小学生かよ。って家出る前に言ったら、うるさいなっ!ってめっちゃ反抗されたなあ。いやはや、あのセンスは絶望的だった。

とりあえず、水からあがらないと風邪をひくから自分の周りに散っている私物をかき集めた。逃げるのに適しているからと向こうで使ったロードバイクにリュック、謎の電波障害を起こしてオフラインモードに設定した防水携帯、カツアゲにあったときのために三万五千円相当の五百円が入っているANNA SUIのお気に入りの蝦蟇口財布とハンドタオル、眼鏡、抜かりなくビニールに包まれたipod touchにPSPとDSとそのソフト複数、それと結構前に、俺なくしそうだから利子持っててよ。と言われて預かり、向こうに返すのを忘れていたリコーダー…にしか見えない眞魔国の国宝“魔笛”、それから、頭蓋骨。えっ。


「ぎ、(いやああぁぁあああっ!!!!)」


思い切り腕を振り上げるとその頭蓋は真上に飛び、ゴン、という鈍い音を立てて私の頭に着地し、水中に転がり落ちた。カタカタと顎を動かしながら水の中を漂う姿はまさにホラーである。よくよく見てみれば、水の揺らぎのせいで顎が動いているというよりかは自らの意志で動いているというように見えた。これ、コッヒーじゃね?と文字通り骨を拾い上げると、喜ばしげに顎を震わせる。いきなりそういうことはやめてほしい。怖いから。でもなんでいるんだろう?と頭の引き出しを探ってみると、うっすら、いきなり逃げますよ的なことを言われてリュックを押し付けられたときに、なんか石みたいのあるなーという記憶がある。たぶんこれを押し付けた二人も焦ってたんだろう。いや、焦ってこんな嫌がらせみたいなことされたくないけど。
リュックに全部を詰めて背負い、立ち上がるとスカートから大量の水が流れ落ちた。ローファーをピシャピシャ鳴らし、ロードバイクを起こして噴水から出る。劇的に寒い。寒さが痛かった。まずはお店に入ろう。それから、もう一回眞魔国に戻ろう。じゃないと漏れなく死ぬ。服も変えないと死ぬ。顎が震えて歯がカチカチとぶつかった。濡れ鼠になっているのもあって、思ったよりも洒落にならん寒さだ。寒さで収縮している筋肉を無理矢理伸ばして自転車に跨がる。


「(に、しても、やっぱりおかしいなあ。)」


公園から大通りに出れば、先程は微々たるものであった違和感が目に見えて感じるようになった。平仮名カタカナ漢字などの日本語でもなければ、高等貴族語でもないし、アルファベットでもアラビア語でもインド語でもロシア語でもない文字が見るとこ見るとこ溢れかえっているのはいい。私の知らない文字なのだろう。この際、“1/1”という明らか元旦を示し、新年を迎えてる感じの店の装飾も目を瞑ろう。だが、高層ビルもちらほらと見える街の通りが剥き出しの地面というのは解せない。古代ローマ時代だって石で道を舗装していたし、ビルが建てられるだけの技術力かあるのなら尚更だ。不意に私を覆うように影が通り過ぎていく。上を向けば、大きな飛行船が悠々と進んでいた。飛行船だなんて、地球じゃ飛行機に淘汰されて今や絶滅種のはずだ。乗りてぇ。高所恐怖症だけど。空飛ぶ予定ないやつ乗りてぇ。
行き交う人々の髪の色を見て、少なくとも日本ではないことは確信している。彫りの深さや体格は、アジア的な人もそれなりに見られたし、茶髪の人も多く見かけたが、圧倒的に黒髪やそれに準ずる焦げ茶が少ないのだ。第一、虹彩の色が皆総じて明るかった。眞魔国では一定数で存在していたので、今更、緑や紫、ピンクの髪色で驚くことはなかったけれど、原宿ですらこんなカラフルな頭のバリエーションはないということはわかっていた。虹色アフロのファンキーな猿がプリントされてるパンツなら穿いてるけど。コンラートに手渡された瞬間、敵から身を隠してるのにも拘わらず叫びそうになったよ、ほんと。デザインは地球産っぽいが、紐パンなので歴とした眞魔国産だろう。なんていやなものだけを収束したパンツなんだろうか。
とりあえず、店に入るのは決定事項として何が必要か優先事項を決めていく。まず服だ。ファンキーパンツまでやられたから下着もほしい。そんでもってカラコンとウィッグはいらない感じでオッケーかな。私の黒い髪と真っ黒な目を見ても騒ぎ立てる人は今の所いないし。これがあちらの世界の、とくに人間の土地だったら、とっくに石を投げられてるだろう。彼等にとって、黒は不吉の象徴なのだ。
あと必要なのは、と定期テスト以外ではあまり使わない脳味噌をクルクル回す。すると、ぎゅるぎゅるぎゅる、とお腹が残念な音をたてたので私の行き先が決まった。そうだ、ご飯食べよう。水中スターツアーズにも健気に耐え、一途に時を刻んでいる黒のG-SHOCKに目を向ければ、正午過ぎだった。そらお腹空くわ。今日朝ご飯食べずに海の家バイトに出勤して、もうすぐお昼ってときにスタツアしたもん。よし、パンツ、ご飯、情報収集の順だな。パンツ、ご飯、情報収集。パンツ、ご飯、情報収集。パンツ、ご飯、情報収集。


「(パンツ、パンツ、パンツ、パンツ、パパンパパンツ、パンツ、パンツ、パン、)」


ピスッと頬に何かが掠めた。一瞬間が空いて、チュンッと土が剥き出しの地面で何かが跳ね、側のコンクリートの壁に小さな穴が開く。実に私が最初の目的を決め、呪文のように唱えていたパンツという単語からリズムが生まれだしたときの出来事であった。


「…………え゛?」


少し、思考が硬直し、チラ、と反射的に後ろを振り返る。黒いスーツを纏った男達がこちらに黒い塊を向けていた。うそやろ。マトリックスのエージェント張りの恐怖と威圧感である。あ、やべ。目があった。向こう、グラサンだったけど目があった。気がする。
そっと、何もなかったかのようにゆっくり視線を戻すと、すぐに、お前等追え!喜べよ、読み通り双黒だ!逃がすんじゃねえぞ!!とたぶんリーダーであろう人が声高に叫ぶ。私の読みはどうやら違っていたらしい。ウィッグとカラコンの優先順位が跳ね上がった。ギアを変え、ペダルに体重を乗せ、力を貯める。


「(あああああああ、唸れ私のギアセカンドォ!!!)」


ギア、6だけど。
まるで、お前等それエアガンちゃうねんぞ!と言いたくなるような勢いで抉れる地面を駆け抜け左の脇道に入る。定期代を浮かすために、わざわざ15q先の学校まで毎日チャリで通っている私をなめてはいけない。加えて、私の自転車は籠がないため通学には少々不便だけれど、純粋に、走ることに関してはこれ以上に最適なものはないのである。正直言うと、前に遅刻しそうなときに全力で漕いだら原チャ抜かせたし、たぶん時速30qはいける。
もう一度十字路で左に曲がり、方向的にはさっきのを逆走していく。少し遠くに怒鳴り声が響いており、まだ全く安心できない状況である。もう一度左に曲がって先程の大通りを横切って、そのままの勢いでチャリごと店に入店した。沢山のマネキンの頭部が飾られている美容院だ。わたし、今世紀最大出力で運を放出したかもしれない。だったら始めっから素直に元の場所に戻ることに運使われとけよ。と言いたいところなのだけれど、過ぎたことは戻せない。というかこんなことになるだなんて普通思わない。
一方、店内では店員だけでなくお客さんまで目が点になっていた。まあ、当然である。


「お、お客様、当店をご利用の際は自転車をお外に停め、」

「あああすいません!ちょっとだけでいいんで!ちょっとだけで!」


至極当たり前の話だが、自転車を連れ込んでの入店を断られた。しかしだ。ウィッグ!ウィッグありますか!?買いたいんですけど!と必死の形相で店内を見回していると、それは不問となったようで、こちらへどうぞ。と爽やかに笑うイケメン美容師さん(ちょっと引き気味である)が奥へ連れて行ってくれた。眞魔国でも思ってたんだけどさ、イケメンってとんでもねえ視覚潤沢剤だよな。余談だが、魔族はその血が濃ければ濃いほど整った顔貌になるのだ。私はその類ではないのだけれど、先の王の末息子であり、私の弟の自称許嫁であるヴォルフラムなんかは特に顕著だ。同性だろお前ら。というツッコミはさておき、見た目はそこら辺の少女よりも美少女な男なので、私はその件に関しては何も触れないことにしている。
さて、私は今し方、サイズを測るからと椅子に座らされたわけだが、風邪を引くからとついでに髪や服まで乾かされ始めた。サービス良すぎだろjk。私は乾かしてもらっている間、外に見えないよう少しだけ身体を小さく丸めて、彼らにバレないよう目を伏せていた。双黒が何かしら異端扱いされる国では、全てに疑心暗鬼するからしんどいなあ。


「お色はどうですか?」

「えっ、あ、これでいいです。」


正直、下を向いていたので今の今まで髪色を見ていなかったのだが、頷く時にちらりと視界に現れた金糸を見てぎょっとする。に、似合わねえ…!あちらの世界の神族を彷彿とさせる白に金を一滴落としたような色なのだ。煌びやか過ぎるわ。だがしかし、これでいいと言った手前引くに引けず、4980ジェニーになります。という声に従うがまま、10枚の500円玉を出す。ジェニーという通貨にクエスチョンマークが浮かんだが、日本円でそのまま行けたので問題ないのだろう。一応私の世界じゃ本物の硬貨だ。うん大丈夫大丈夫。
よんきゅっぱって出費でかいなあ。と思いつつ、お兄さんに衣類を販売してるところや薬局の位置を尋ねた。快く教えてもらったところで自転車とともに裏口から出してもらう。ありがとうございます。と軽く会釈したときに掠めた白金の髪がくすぐったかった。目立つじゃん。似合わないじゃん。と心の中で文句を言いつつも実は明るい髪色に憧れもあったのだ。
急いでたんだからしゃーなししゃーなしと特に誰にするわけでもない言い訳をして、再び自転車に跨がった。向かうは先程教えてもらった服屋さんである。乾いたとは言え、下着とセーラー服一枚ではいくら何でも肌寒い。せめてもの救いは、新年のわりに“肌寒い”で済んでいるこの土地の気候だ。秋頃の涼しさであれば、パーカー一枚羽織れば何とかなるだろう。
焦らず、しかし迅速にチャリを走らせる。髪の毛の色が一気に華やかになったので、ぱっと見だけでは追われることはないだろうが、如何せん、この場所での制服は結構個性的だ。急ぐに越したことはない。
お兄さんから教えてもらったお店は、大通りに沿って三ブロック進んだところにあった。見るからにパンクって感じ。骸骨のプリントやそれをモチーフにしたものは、母親による、なんだか悪いものが憑きそうじゃなあい?ママはねー、フリフリのふわふわがいいわぁ。という教育を受けているので、あまり、というか全く着ないし趣味じゃない(だからと言ってフリルが大好きなわけではない)のだが、今回に限ってはラッキーと言うべきだろう。


「(カラコンでディファインみたいなのないかなディファイン。黒眼大きく見えるやつ。)」


パンクっぽいアクセサリーのあるところにカラコンあり。と私の経験則による統計ではそう答えが出ているのだ。異論は認める。本当は眼科で処方されるやつの方がいいのだが、如何せん、ここは地球ではない。最悪、バレたら売られるか殺られる可能性は無きにしも非ずというところだ。怖すぎる。
まあとりあえず、ただの服屋じゃカラコンまで一気にゲットだぜ!が出来ないのは確かだろう。ぶっちゃけた話、そこら辺を下手にぶらついて先程の男達と再びご対面はしたくないので、出来るだけ纏めて購入したいのだ。残念ながら、ここには茶色や翠、蒼など、比較的現実味を帯びた色は人気らしく売り切れていた。残っているのは、赤、ビビットな紫、虎柄だ。何で最後模様に走ったのか私にはわかりかねるが、私は迷いなく眉マスカラと潤滑液、目薬とともに赤のコンタクトを六箱、つまり凡そ一ヶ月分を籠に入れた。眉毛だけ黒とか絶対浮くし普通にバレるもん。軽く一万五千弱飛んだ。あとはパーカーと下着だ。正直言って、下着の替えがないのは生死に関わる。ブラジャーがないのはいいとして、パンツ、おまえはダメだ。
お色はどうなさいますかー?と脳内で一人劇場を始め、結局黒レースと赤レースの二つを籠に入れた。私、結構攻めるな。と自分で過激なカラーチョイスに引いた。でも、だって、言わせてもらうけど、白、紺、青、桃は持ってるし、ワイヤーが入っていないとズレるんだもん。あとどうせ買うならかわいいやつがいいというのが本音だ。着てみたいじゃん。私に勝負下着という概念はない。
あとはパーカーなのだが、これはすんなり決まった。厚手で、口元までチャックがあってフードが大きいやつ。これまた真っ赤なカラーチョイスである。赤という色が好きなのもあるけれど、金色の人工的な毛髪に赤は最も映えると思うのだ。例に挙げるなら、TSUBAKIのボトルデザインとか、もう、あれは感嘆の域だ。
最後にレジ付近で発見したスキーで使うようなゴーグルを籠に落としてお会計に出した。カラコンとの二重体制を敷くためである。この世界はどうやら、結構身分隠す系ファッションの人が多いので私がそんなコスプレみたいな格好をしてもあまり気にされないだろう。付け入る隙がないほどの完全装備をしなきゃ、間違いなく頭蓋骨やら脳味噌やら内臓やらをぐちゃぐちゃのドロドロにされて口の中に入れられる。黒ミサかよって話だ。そんな最後なんて真っ平御免被る。
支払いを済ませてからトイレですべてを装着し(コンタクトにだいぶ手こずったが)、財布の中身を確認する。残り、五千円だった。どうしようかなあ。高飛びするには足りないけど、国内だったら結構移動できそうだ。でも、私が予想するにあの男達は暫くここを探しまくったら別の場所に向かうだろう。同じところを探して見つからなかったら私がもうここにいないと考えるのが一般的だ。問題はどう逃げ切るかってことだけれど、そこまで考えたところでお腹がきゅるきゅる鳴る。いきなり撃たれて忘れてたけど、私お腹空いてたんだった。鏡の中の自分と目があった。


「(うーん…ゴーグルが一気に中二っぽくしてる気がする。)」



***



「いらっしぇーい。」


扉を押し開いたら可愛らしい鈴の音が響いた。漸く辿りついた飯どころである。この店は、大きな荷物も持ち込み可らしい(結構前歩いてた猛者的な人は背中にサーフボード大の何かを背負っていた)し、文字が読めない私でも一発でわかる看板を取り付けていた良心的なお店だ。目玉焼きとソーセージの絵、簡潔すぎて清々しい。値段はわからないけど、店の客層を見るにコスパが良さそうな気がする。だってデブが多い店は安くて旨くてカロリー高いって石塚さん言ってたもん。さっき缶詰め大量購入したから暫くプチ断食するしね。ダイエットだと思って節約してやろうという算段である。今から食べるのは最後の晩餐なのでダイエットにはノーカンとさせていただく所存。
さて、何を食べようかな。と壁に掛かったメニューに目を向けようとしたところで、重大かつ初歩的なミスに気づいた。私、メニュー読めないじゃん。


「ご注文はー?」

「え、あ、ちょ、ま、」


厨房の奥の店長らしき中年男性に問われ、焦ってメニューをよく見ようと視界を若干暗くしているゴーグルに手をかけたが、待て待て待て待て。と途中で我に返る。落ち着け私、よく見たって見知らぬ文字は読めないぞ。
えー、あー、うぅん…。と何を注文すればハズれないか模索する。後ろから鈴の音が聞こえた。


「ご注文は?」

「ステーキ定食、弱火でじっくり♠」

「わっ、私もそれでオナシャス!あっトッピングで生卵3つお願いします!」


もはや他人の注文に乗るという逃げに走る。ついでに言えば想像以上の焦りで普通に噛んだ。このお昼時に後続を詰まらせてはいけないと焦っていたから予想外に大きな声になってしまって、店のお客さんの多くが私を訝しげにみたのだが、当の私は、ステーキ定食って高いんじゃねーの?と自分の行き当たりばったり加減に失望していた。よくよく考えたら、日替わり定食とか絶対ありそうじゃん。バカ、私バカ。ちょうショック。
看板娘かなんかであろう、店唯一の女性店員に、お客様、非常に申し訳ありませんが、奥のお席は一席のみとなっておりますので、他のお客様との相席となってしまいますが、よろしいでしょうか?と丁寧に尋ねられる。席、表の方も結構開いてるのになんでわざわざ?と思ったが、自分の置かれている状況が状況なので快く承諾した。相席は苦手だけど奥の席っていうのは願ってもない頼みだ。
後ろにいるお兄さんとともに案内された席は、閉鎖的な空間にぽつんと置いてある少し大きめのテーブルだった。真ん中には鉄板がハマっていて、既にデカい肉がセットされている。マジかお前。見知らぬ人と個室で向かい合って肉つつきあうとか嫌すぎる。それに、お兄さんをまだちゃんと視界にいれていないからまだ何ともいえないけれど、なんだか彼に道中見られていた気がしたのだ。いや、まあ、後ろからついてくる形になっていたから私が視界に映っていただろうことはわかっているけれど、それを込みで考えても視線を感じた。それに少し悪寒を感じて前を向きながら横目で出来る限り視認してみたのだが、わかったことはチラチラ見える彼の服や髪がカラフルで、私のウィッグなんか相当地味でマシってくらいだった。オレンジとか赤とか紫とか黄色とか、色統一しろよって感じ。
では、ごゆっくりどうぞー。と言われて扉が閉まった。私はチャリを壁際に置いて手前の席に向かい、お兄さんに上座を譲る。ごゆっくりなんてできるわけねえだろ。と思いながら席についてお兄さんと向かい合い、スーパーで貰ったタウンワークを左手に、箸を手にとって添え物のブロッコリーを咀嚼してから首を傾げた。どうも見覚えのある顔で、不意に、ステーキ定食、弱火でじっくり。というフレーズが頭に流れる。あれ、聞き覚えある、気がする。


「(あれ、ここってそういうテーマパーク?ジャンフェス行ったことないんだけど、これかそうなの?ん?あれ。うそ。じゃなかったらコスプレ?)」


じゃあ、なんで私は撃たれた?と、そこまで考えて、考えるのを止めた。まるで大道芸人のような姿の彼が、キミみたいな女の子もハンター目指す時代なんだねえ♦と薄い唇を大きな弧にして言ったからである。彼は、勿論、自らの名前がヒソカであると述べた。よろしく♥と手を差し出されるも、別によろしくしたくないので、あ、はい。とだけ答えて今度はポテトに狙いを定めた。はずだった。


「うぉっ、」


突然見えない何かに引っ張られ、彼と私の手が引っ付く。カランと箸が落ちた。どうやらテーマパークではないということは確かなようだ。いや、タネにワイヤーっていう可能性も……やめよう、全然引っ張られた感じが細くなかった。どうか夢落ちであれと願うばかりである。ていうか、今まで現実か非現実かで脳内考察が行われてたからスルーしてたけど、え、なにこの強制握手。えっと、なんだっけ、念の、ガムとゴムがうんたらのやつ。思い出せないけど。おかしいなあ、私そういう能力設定的なの覚えるの得意だったのに。BLEACHの斬魄刀完プリできるくらいには記憶力悪くなかったはずなのに。
まあ、それも一番の問題じゃない。まあ、若年性健忘症は結構大問題だけど、今はそんなのどうだっていい。地球に帰れなかったということも今回ばかりは百歩譲ってよしとしよう。


「(二次元って、why!?)」


スタツアってセカンドディメンションも移動可能範囲内なの?私、帰れるの?ていうか、生き延びれるの?私の知る限り、HUNTER×HUNTERは最も命を落とす確率の高い漫画のうちの一つだ。
眉を顰めて考えを巡らせていると、今までにぎにぎと私の手の感触を確かめるような動作をしていたヒソカが、キミの名前は?と笑みを浮かべながら尋ねてきた。目を細め、口は弧を描くも狙いをすましたような悪い笑みだ。その、コンラートの顔の筋肉すべてを緩めたような笑顔とは間逆の笑みに苦手意識を感じ、利子、です、はい。と簡潔に答えた。脂汗と表情筋の引きつりが止まらない。彼の目は、蛇に似ている。
どうしてゴーグルなんかしてるんだい?磯臭いのはどうして?何で頬をケガしたのかな?と、彼が質問してくることはどれも答え難かった。誰だって、下手に異世界から来たなどとは口にしたくないのだ。だって、世界はたった一つというのが一般的思考で異世界から来たなんて言おうものなら気違い扱いされるのが通例だ。ステーキとご飯を交互に口に入れながら、教えない。教えたくない。の一点張りで突き通せば、彼は諦めたような、つまらなそうな顔をしてから、実は、見てたんだよねぇ♠と企むような笑みを覗かせた。


「双黒なんだって?」


これは、まずい。この世界でも双黒に何らかの価値があること自体想像圏外だったし、まさかメインキャラの、しかもかなりクレイジーな人物にそれを知られてるなんて死亡フラグしか見えない。しかも、この手の人間は嘘を平気で嗅ぎつけるからどうしようもない。自転車であのスピードはすごいと思うよ♣とクツクツ思い出し笑いをしているヒソカに、どうも。とだけ返したた。真向かいの人間が怖くて空腹なんかどこかに行ってしまったけれど、腹が空こうが空くまいが、食べなきゃそのうちガス欠を起こしてしまうので無理矢理ステーキを再び口に運ぶ作業に戻る。まあ、彼も、もともと珍しい物だとか貴重な物にあまり価値を感じない人なのだろう。地球じゃだいぶ古いストレートタイプの携帯電話をいじっていた。
強い人とか成長率の高そうな人がすきなんだっけな。と頼りなくなっている記憶を引っ張り出す。私が、体力とか筋力とか肉体的な強さを持たなくて心底助かった。と、思ったのだが、私の期待はすぐさま裏切られた。


「……バラそうか♥」

「は?」


パシャリとシャッターを切る電子音が耳に届く。一瞬、携帯でメールかなんかしてて、その相手に対する言葉だと思ったのだが、彼の目がこちらに向いたので、私への言葉だと気付いた。言葉を補うとすれば、私が双黒であることをバラそうかということだろう。なんのメリットがあってそんなことをするのか意味が分からないし、想像もつかない。だって、私を不老不死の妙薬にするにしても、売るにしても、普通出来る限り少人数で攻める。取り分が多い方がいいから。そもそも、ヒソカはそんなことに労力を割く生き物ではなかったように思う。漫画では。そうなってくると、彼の人間性込みで考えると本当に全世界に発信するという可能性の方がリアリティを感じる。勘弁してくれ。自意識過剰でもなんでもなく、世界の多くの人間が私を追い回しかねなくなる。そうなれば、眞魔国か地球に戻る手立てを考えようにも落ち着けないし、もしその方法がわかったとして邪魔されない確率は、とてもではないけれど、高くはないだろう。捕らえられたら捕らえられたで、不老不死のために犠牲を厭わない人間や珍妙な生物を手元に置きたがる人間なんて大概碌でもないのだから、明るい未来が見えるとは思えない。


「ヒソカさんは、」

「ヒソカって言いなよ♦さん付けは気持ちが悪い♣」

「…ヒソカ、は、バラしたとして、何かメリットがあるのですか?」


彼は、私の丁寧語(決して尊敬語ではない)に文句をつけてから、ないよ♥と答えた。だろうな。と、意外にも私の頭は冷静に働いている。


「でも、脅迫することによって生まれる利益はある♠」

「(こいつ私をちょっと期待させやがって。)」


ただからかってるだけなら大丈夫だと思ったのに!と脳内で悶絶する私の百面相を楽しんでいるかのように、タイミングよくヒソカはもともと細い目をさらに細めた。わざわざ言う順を倒置したとしか思えない。感じ悪いし、やっぱり厄介だ。
で、私を脅して何をしてほしいんですか。と警戒心を剥き出しにして言葉を紡げば、話が早い♣と携帯をしまう。


「ボクはとある盗賊集団に所属していてね♦」

「犯罪加担とかなら結構ですありがとうございました。」

「まあまあ、話は最後まで聞けよ♠」


話は終わりだという風にグサリと肉にフォークを突き刺すとヒソカは口をへの字に曲げてキョトンとしてから、また元の飄々とした薄ら笑いに戻った。まあまあ、じゃないだろ。自分を庇護するために自らを貶めるなんて御免だ。日本国憲法でも第十三条で、自分の生命、及び自由の幸福追求は最大の尊重してやるけど公共の福祉に反する行為はその限りじゃないって言ってたもんね。ていうか、犯罪してのうのうと生きてられるほど図太いメンタルは持ち合わせてない。
とは言え、どうやら彼の言いたいことはそういった類ではないらしいので、噛んでいた肉を飲み込んで、ご飯と共に最後の一片を頬張った。


「その盗賊集団のボスがかなりのやり手でね、ボクは彼と一対一で戦いたいが為に入団したんだけど、その機会を得るのが中々難しくってさ♦」

「手伝ってほしいと。」

「餌になってほしい♥」

「まさか。」


何言ってんのこの人。向こうの世界でも双黒は老いず死なずに人を導き、不治の病をも治す妙薬だと散々な扱いを受けているけれど、さすがに餌はない。そんなの誰でも出きるのではないかと指摘し、なんとか餌ルートを回避しようと試みるも、いや、キミが一番適してるんだよねえ♣と如何にも企んでいるといった表情で言ってのけた。


「彼は、人が価値をつけ、執着するものを奪うのが好きでね、ただの人間を餌にしたところで食いつきもしない♦」

「いやでも、」

「一応先に言っておこう。キミに拒否するという選択肢はない♠」


あるけど、断れば即刻でキミの画像をネットに晒すし、さっきのマフィアにキミを突き出してもいい。クロロにキミを差し出して交渉するのもいいな♥彼は先程勝手に撮った私の画像を携帯の画面に映して私に見せ付けた。パッと手を伸ばしたら、すぐに上に掲げられる。


「可哀想に、同情するよ♣」

「本当にね。」

「どうする?」


話にノッてくれるかい?とヒソカは笑った。大丈夫、問題ない。と自分に言い聞かせる。私が今、一番望まない状況は、今ここですぐに彼に殺されてしまうことだ。餌って言ったって言い方の問題で、注意を惹いて彼が戦闘を行えるような状況にすればいいだけだろう。仮に私がその状況で殺されそうになったとして、あとは彼に任せれば危機は回避できなくもない。できるかどうかもわからないけど。とりあえず、生きることが最優先で、次が地球帰還。


「いいよ。」

「じゃあ決まりだ♦」

「但し、こちらもいくつか条件がある。飲めないのであれば峻拒させていただきます。」


真っ直ぐ彼を見つめ(ぶっちゃけめちゃめちゃ怖い)、強気で攻める(見た目だけ)。ここで下手に出たら、骨の髄まで啜られる。気がする。比喩表現だけど。弱味なんかないって思い込ませなければがなければ、際限なく奴隷のように扱われるかもしれない。大丈夫、少し生意気くらいじゃ、殺されない。ペコペコと重みのないお辞儀を繰り返す命乞いは、弱者の象徴で、たぶんきっと彼にとってはつまらなくて価値のないものだ。少し頑固で生意気で、出来るだけ頭のキレる振りをした方が、強そうに見えなくても少なくとも彼には面白いものに見えるはずだ。漫画で感じた彼の好みはそんな感じだった。ちょっとだけでもいいから、大物っぽく見れればそれでいい。
彼は私の異議に、却下♠言ったろ?キミに拒否する権限はない♣と少々苛つきながら応えており、雑魚が交換条件なんてどの口が言ってるんだかと言われているような気がして気が気じゃない。一言、もしかしたら文脈によっては一文字でも間違えれば、彼の服のどこかに隠れているカードで首が飛ぶかもしれない。いや、それは違う。と、固い声で更に応えた。表情は変えなかったけれど、ごくりと固唾を飲む。


「それは私が暴露を恐れているときに初めて効果が期待される言葉だよ。だから、もう一度言うけれど、私の条件を承諾しない限りは私もあなたの出した条件は飲めない。」


どうせさっきの黒服には顔が割れてる。私の存在が広まるのも時間の問題なんですよ。ハッと鼻で嗤ってご飯の最後の一口を食べた。はったりだ、完全に。私は確かに彼の画像の流出を少なからず恐れているし、何より、彼がここで気分を損ねて私の殺害を試みることを恐れている。別に彼は私を殺すと脅せばよかったのだ。でも、それをしないのは、たぶん、この交渉すらお遊びなのだろう。瀬戸際の私がイニシアチブを握っていると見せかけて、実は自分の掌の上という状況は彼にいくらか優越感を与えている。大丈夫、それなら問題ない。全部が全部嘘じゃないけれど、そんな嘘を私は突き通せないし本当が混ざっているからこそ本当のような法螺話になるのだ。彼のことを騙せなくていい。ただ、ほんの少し興味を持たれて、殺すには少し惜しいと思ってくれればいい。この考えもきっとヒソカはわかっているだろう。
合格♥かな。と彼は恍惚とした表情で私を見た。悪寒がして鳥肌が総立つ。条件は?と笑みを隠そうともしない彼は確かに私に興味が出たらしい。死ぬよかマシだけど、これが最良の選択だったんかな…。と顔を少し引きつけて、普通ですよ普通。と返した。


「私の命を可能な限り保障すること。ここでの保障の定義は侵されたり損なわれたりしないように守ること。可能な限り、というのは私があなたの能力、状況を推測して可能かどうかを判断します。」

「随分と細かく決めるね♦」

「ボクには無理だったからと折角のお約束を無碍にされちゃ困りますからね。」


まあ、尤も、私が死んだら事実上今までの話はなくなるわけだけれども。とお水に手を伸ばす。ヒソカは、別にキミがいなくても出来なくもないんだよ♠とクツクツ笑うので、じゃあ、お一人でどうぞ。と返した。彼の口が弧を描く。


「いや、やろう♣」

「私がいなくても出来るのでは?」

「荷物があった方が面白いだろ?」


それにしても利子、その言葉遣い何とかならないのかい?慣れないんだよねえ♦とヒソカが再び文句を言った。じゃあ呼び捨てを止めてくれます?馴れ馴れしいんですよね。と返したら、嫌だ♥と宣いやがるので、本当に自分本位の人間である。もう勝手にしてくれと折れれば今度は、もう一度顔を見せろと図々しくも言ってきたのだけれど、丁度エレベーターが到着したらしく、地球のものよりも少し大きな音を立てて扉を開いた。


「お先にどうぞ♠」

「言いながらゴーグル外そうとするのやめてほしいんだけど。」


なお、奴は諦めていない模様。



20130611
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