私は晴天が好きでない。それが快晴ならば、余計にそうだ。こう、こちらの気分がガタガタなっているときの夏の日差し何ていうものは、何というか、笑われているような、馬鹿にされているような気分になるのだ。

かといって好きな天気はなんだと聞かれても、まあ、恐らく答えられないのだと思う。
雨は雨でこちらの気分がいいときに降られれば、いい気持ちになど相当なことがなければなりにくいし、悪かったら悪かったで気分はどんどん下降していくにに違いない。曇りはどっち付かずな天気のせいで、気分の良し悪しに拘らず憂鬱になるから却下。

たぶん、私は、空自体が好きでないのだと思う。だって、じゃなかったら、どれか一つくらい好きになってたっていいはずだ。


さて、話は変わるが、私の目の前には現在、折原臨也なる男が待ち構えていたりする。天が快晴だとか、曇りだとか、全く、視覚的には全く私に影響のない夜空の下、奴は塾帰りの私を待っていた。私を見た瞬間、手を振ってきたから、たぶん私を待っていたのだろう。暇な奴である。おい、未成年、十一時までに帰宅完了できるようにしろよ。

折原臨也は、空みたいな男だった。どこまで行っても、その存在を感じざるを得ないし、それは顔のことも指しているし、声だって、普通に聞く分には爽やか。加えて言えば、女心と秋の空とはよく言ったものだが、私に言わせてみれば、折原の言葉と秋の空だ。つまり奴の言葉にはいつも一本筋が通っていない。まあ、それだけなら、ただの勘違い野郎とか嫌な奴ということで話がつくのだが、あれはそんなもんじゃない。


「失恋、どうもおめでとう。」

「もう帰れよお前。」


甚だ不愉快な奴だ。どうやら奴は晴天も晴天、雲一つない快晴らしい。嫌だなあ、まだ会って数十秒じゃない。と私の隣を歩きだした。一緒に歩きたくないので緩急をつけて前に進むのだが、それでもまだついてくるのがうざったい。


「あの男、彼女がいるらしいねえ。」

「……。」

「それで君は告白する前に儚くも散ったんだ。」

「……、」

「まあ、恋人がいたにしろいなかったにしろ、なまえに告白するなんて度胸はなかっただろうけど。」

「…、」

「何か言いたそうだね。どうぞ。」

「…情報漏洩にも程がある。」


ニヤニヤニヤニヤ、人の傷を抉って辛子を塗るのが好きらしい。不愉快だ。本っ当に不愉快だ。
私は、だって、誰かにそんな話をしたこともない。友達にだって恥ずかしくて言えなくって、告白なんてもっと恥ずかしくて、だから奥底にしまっておこうとしたのに、なんで知ってるんだ。私がなにか行動を起こしたのならいざ知らず、心の中のことなのに、誰にも知られたくなかったから黙ってたのに。


「……。」

「怒ってんの。」

「怒ってない。」

「見栄張るなよ、怒ってるじゃん。」

「見栄張ってないし、怒ってない。お前、めんどくさい。」

「そう、ふうん、へえ、そう。」

「わかったら帰れば。」


私が帰れと口を開く度に言うから、さすがに気分を損ねたらしい。


「今日、冷たい。」


当たり前だろうが。むしろなんでこの空気でそれを口に出せるんだ。
頬を膨らませて、優しい言葉の一つくらい掛けてよ。等とほざいている折原臨也にそんな視線を送ってやった。
めんどくさいな、こいつ。私の掛けられる言葉はそれだけである。
なんで私が、お前の言う通り、今日、失恋した私が、ここぞとばかりに嫌味を言ってくるおまえに温かい言葉を掛けやらねばならないのか。
そもそも私は奴に冷たい言葉を放った記憶もなければ温かい言葉を投げ掛けた覚えもない。


「俺も失恋継続中なんだよね。」

「あっそ、おめでとう。」

「…うざい。」


睨まれた。なぜ私が睨まれなきゃならんのだ。やり返しただけだ。折原臨也は一度やり返されて痛みを学べばいいと思う。だから、それさっきの私の心情だから脳味噌にその思いしかと刻み付けとけ。と言ってやったのだが、はいはい覚えてたらね。と流された。ほんと、うっぜえ。


「ところで、君は、誰とか聞かないの。」

「……。」

「……聞かないの。」

「興味すらわかない。以上。」

「……。」

「…だれだよ言えよもうめんどくさいな。」

「あははっ、教えなーい。」

「…なんなの聞いてほしいのほしくないのなんなの。なんでお前の好み知らなきゃいけないの。どうでもいいしそもそもお前人類好きとか公言してたろ既に失ってんじゃん人間から愛されてないじゃん。」

「ああ、そこら辺大丈夫。人間との愛はほら、俺が彼ら、または彼女らを愛せばそれで成立するんだから。」

「よかったね。興味ないけど。まあ、私はそんなん絶対嫌だから、ていうか折原くんみたいな感じで振り回してくるのとか拒否だから絶対折原くんと反対の性格の男の子と付き合って、あわよくば結婚して、出来れば一生幸せな生活にしよっと。いい教訓を得たなあ。
じゃ、帰るからばいばいもしついて来てるんだとしたらついて来なくていいよ二度と顔を会わせないことを祈るばかりなので。」

「ちょっと待て。」


足を再び速めようとしたとき、がしりと腕を掴まれた。人を馬鹿にしたような笑顔はそこになく、口がぴんと糸を張ったようにまっすぐだった。私は、その顔にときめきこそしなかったけれど、ちょっと、怯んだ。
怯んだけど、残念ながら、私は早く帰って寝たいので、いくらこいつがかっこいい顔をいつになく真剣なものにしてようとしてなかろうと、ときめくなんてそんな阿呆臭いこと、してられないのだ。あーあ、熱帯夜とか、ばかじゃないの。それもこれも昼間太陽光線が激しかったせいだ。暑くて寝られん。さっさと寝て、忘れてしまいたいのに、ばかじゃないの。


「話が、ある。」

「…既に散々、してるよ。折原くん、私、生憎だけど、傷心中に冗談に付き合ってられるほど優しくないの。帰りたいの。疲れ、」

「俺は君がすき。」


…た、の。
私の言葉が、折原臨也の言葉に驚いて、小さくなって私から出た。予期せぬ事態、由々しき事態である。なんつった、こいつ。あれ、あいついま失恋中とか言ってなかったっけ?あれ、失恋って現在完了進行形にできたっけ?


「確信はないけど、多分、その他大勢に向けてるのとは違うと、思う。好かれなくてもいいって思ってるけど、視界にくらいは、入れてほしい。」

「…え、あ、…あ、わ、私、だから、そういうのは、だから、」

「うん、大丈夫。本当はなまえに愛されたいよ。」


折原くんが綺麗に笑った。私は、突然の展開に必死で頭を回転させるのだけども、普段罵り罵られているので、ダメだ。わけわからん。し、こういうのに私は慣れていないから普段考えられることも考えられないでいる。


「でもほら、なまえが俺を嫌ってんのは知ってたからさ。だったらもう、これ以上に嫌われることなんてないから、せめて視界にくらい入りたくて。」

「……、」

「でも、やっぱり、違ったらしい。」


ごめん。と言われた。なんでごめん?と、謝るなんて珍しい。と思っていたら、目の前に、折原くんの顔があって、私の唇は妙に温かくて、息が止まった。
硬直。これは抵抗すべきなのだろうか、唇とか、噛んで離れてもらうべきなのだろうか。そんなことを考えたが、先ほどの折原くんの言葉に罪悪感を覚えてしまった私は、それしかできなかった。私は知らなかったとは言え、折原臨也を、ものすごく傷付けていたのだ。
唇が離れて、脱力しきった体が、抱き締められる。


「君には申し訳ないけれど、あいつに彼女ができたとき、信じられないくらい嬉しかった。」

「、」

「最低だって思っていいよ。俺、なまえに好かれるなら、別の人間に、あいつになったっていい。本当は、付き合って、あわよくば結婚したいし、一生幸せに過ごしたい。」


なんだってこんなことになったんだろう。こんなの、唐突すぎる。この男の得意業だ。いつもそうだ、通り雨みたいにいきなりやってきては私の中をぐちゃぐちゃにしていって。こんなの、告白とプロポーズが同時に来たようなものじゃないか。


「そ、それは、どう受け取れば…。」

「言わないつもりだったから、忘れていいよ。もう、なんか、俺でもよくわからないところが破裂しそうで、だから吐き出したかっただけだし、なまえが俺のことを嫌いっていうのはわかってるつもりだから返事もいらない。」

「いや、だって、おまえ、」

「なまえの、そういう顔が見えたんなら、儲け物かなあ。」


折原臨也はそう言って私を離して、へらりと笑うのだが、私の方はどうもそれが強がってるように見えてしまう。私だったら、好きな人に罵られ続けてたら泣く。絶対泣く。嫌いになるかは別として、少なくとも好きじゃなくなる。なのに、こいつは、なんで。


「なんでなまえが泣いてるの。」

「いや、あの、申し訳なくて、私、ぜんぜん、気付かなくて。」

「だろうね。」


なまえは優しいなあ。なんてあいつが言うもんだから、私、全然そんな態度示したこともないから余計に自己嫌悪しちゃって、しかもそれが今まで我慢してきたものと相まってしまったようで、とどのつまり、自分ではどうしようもないくらいに涙が止まらない。


「と、ともだち、くらいから、なら、考えてもいいよ。」

「え、」

「折原くん、そんな、腹立つ人じゃ、ないって、思った、から。」


嫌いじゃないって、思った、から。と一生懸命涙をひっこませた目を折原くんに合わせる。口が、開いてる。今、夜なのに、暗いのに、折原くんの顔が赤いのがよくわか、


「!」


視界が真っ暗になった。たぶん、折原くんの手が、私の目を塞いだのだ。


「今、顔赤いから、見るな。」

「(私なんか、泣いてるとこ、見られたのに。)」

「こんなことなら、もっと早く言っちゃえばよかった。」

「、」

「すごい、嬉しい。」


目が解放されて最初に視界に入ったのは、折原臨也がはにかんでいたところで、その顔に私の母性とやらが擽られてしまったのは秘密である。






サイケちっくなよわ臨也もすき。
title by パッツン少女の初恋
20110703
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