遊びなんかじゃない。



 胸がズキズキする。物理的な意味で。さっきの水泳の授業が終わって着替えてる時に鎖骨のちょい下を確認してみたところ、見事足の形に赤くなってて笑った。
 プールからの帰り道、珍しく髪を下ろしたなまえちゃんに、まだ痛いんだけど。と不平を言うと、ごめんってば。と謝りつつも、でもしつこい。とムスッとした顔をされる。開き直って逆ギレ…というよりかは、悪いと思っていることを責め続けられるのが大嫌いなご様子。あ、でも、嫌いってか申し訳なさから居た堪れなくて突っ張っちゃってるって感じかも。
 いや、別に責めてるわけじゃねーし。とオレが素っ気なく返すと、あっそ。と彼女も素っ気なく返してくる。素直にホッとすりゃいいのに、なまえちゃんは何かを我慢するようにちょっと口元を上げるだけだった。こいつ、普段は機嫌なんか聞かなくったってわかるくらい表に出すくせにたまに意味わかんないとこで隠そうとするのだ。凹んだ時だけなのかなと思えば、そういうわけでもないようだった。今の所、基準はわからない。


「むしろいい蹴り過ぎて、体操やってんじゃなくて空手とか武術的な何かやってんじゃないかと思ったわ。」

「やってたよ。」

「やってたのか。」

「うん。小学4年生まで空手と柔道と合気道やってた。それからは体操に絞ったからあんまだけど、今もたまに弟と打ったりしてるし。」


 オレが貸してあげたタオルを頭にかけながら、のほほんと言うなまえちゃんからはどうにも想像し難い事実だ。これ確か体操やってるって聞いたときにも同じような反応した気がする。ついでに言うと、なまえちゃんに弟がいるというのも意外だった。


「弟いるのは流石に嘘でしょ。」

「さっきからわたしの言うことに疑心持ち過ぎ。なんでそうなんの。」

「オレの知ってる姉という存在は、もっと、こう…キツい性格。なまえちゃん、のんびり屋さんだし、質問してもこっちが聞きたいこととちょっとズレた回答をするし、」

「つまりなんと仰いたいんですかね。」

「天然ボケに姉は務まらない。」

「ボケじゃないし姉だし。」


 オレがはっきりと理由を述べるとなまえちゃんは唇を尖らせて、のんびり屋さんは認めよう。確かにわたしはちょっとマイペース。仕方ない。と少し開き直ったように言う。ちなみに言うけど、“ちょっと”マイペースで済まされるレベルではない。オレが移動教室だから行こうと言っても、ちょっと待ってと前の授業の板書をちんたらちんたら写すんだもん。次の教室写せばいいじゃん。てかオレのノート貸すから早くしてほしい。ホントに。


「だがしかし天然ボケとは聞き捨てならんね。わたし結構しっかりしてるよ?朝遅刻しないし、不思議発言もした記憶ない。そんなわたしのどこが天然なのか。」


 ちなみに言うけど、遅刻と天然の関係性はない。そして、叶うならそういう発言がズレてるのだと指摘したい。オレの細やかな思いをぐっと喉の奥にしまい込む。オレの読みでは、これは言っちゃったら無条件で蹴りが飛んでくるやつだ。加減してるから痛くないけど、スカートだしなあ。そこまで気にかけてあげるオレって優しい。マジで。
 ポタポタと雫が落ちる明るい毛先に目をやると先程なまえちゃんが引き起こしたボケエピソードがふと蘇った。


「いや、どこが天然なのかってさっきパンツにスカート巻き込んだまま更衣室出てきたじゃん。」

「うげっ!」

「オレが言ってなかったら、そのまま校内徘徊してたっしょ。」

「違う!断じて違う!ちょっと忘れてただけだから!出すのを!」

「しかも腕治ったからって斜めがけのショルダーにしてるけど、結構鞄にスカート巻き込まれてパンツ見えてっからね。」

「それは嘘!見え透いてる!」

「オレが毎朝出会い頭に鞄蹴り上げていますが、実は理由があってのことでした。一体何故?」

「嘘でしょ…?」


 目を見開いたなまえちゃんは口を開けたまま頭を抱える。マジで気付いてなかったんだこの人。まあ、オレも気付かれて変な空気になるの避けてたからいいんだけど。


「真面目な話、なまえちゃんもっと気をつけた方がいいよ。パンツ見られんのはまだ命に関んねーけど、いつか車に撥ねられると思う。」

「あっ、それいつも親と弟に言われるやつ。」

「(弟にも言われんのかよ。)」


 そう言えば、初めてなまえちゃんの幼馴染と会った時、つまづくなまえちゃんを予想してたみたいに受け止めていたっけ。本人がこんなボケっと生活してるんだから、そりゃそうなるわけだ。納得。
 まあそれはいいとして、どうやら本当にお姉ちゃんをやっているらしい。いくつなの?と歳を聞けば、2人とも小5で10歳。とのこと。まさかの双子。


「うちんとこは双子じゃねーけど、姉貴が2人いるよ。」

「なんとなく想像はついてた。弟感半端じゃないし。」

「ウソォ。てか姉弟構成見事に逆だ!」

「あ、いや、わたしの上にさらに1人兄がいるから逆ではないわ。」

「超大家族じゃん。いくつ上?」

「2歳。今、麻黄中の3年。」

「なまえちゃんち近いんだっけ?どうしてそっち入らなかったの?」

「体操部なかったから。」


 急に声の温度が下がって早口になる。それにオレは目を瞬いた。嘘ではなさそうだったけれど、たぶん、他に理由がある感じだった。それも言いたくないやつ。
 オレは、そりゃ帝光にするわ。とだけ返してしっとりしている自分の前髪を摘む。深入りして、嫌われたくはなかった。まだ、そこまでの仲じゃないから。オレは、ずかずかとオレの領域に土足で踏み入らないなまえちゃんだからこそ仲良くできたんだと思うし、オレがそういうことをされたくない人間だから、オレもなまえちゃんにはちゃんと弁えられる人間でいないと。
 ぺちゃくちゃと騒がしいオレの周りの中で、なまえちゃんだけが静かだった。オレが気を許してるっていうのも少なからずあるんだけど、例え、どれだけ喋ったとしても気に障らないんだと思う。彼女は、失うには惜しい友人だ。


「そういえば、部活関係で話すことあるってこの間言ってたけど、なんかあった?」

「ああ、それ…。うぅん、あんま廊下とかで話すことじゃないんだけどさ、」

「栗田。」


 なまえちゃんが話し始めようと口を開いたとき、名前を呼ばれた。彼女は喉まで出かかっていたであろう言葉を押し戻して振り返る。あ、播本先輩。なまえちゃんが呟いた。どうやら体操部の先輩のようだった。後ろには3、4人の女子生徒(たぶん、彼女らも体操部なんだろう)が控えている。どうしたんですか?とパタパタ駆け寄るなまえちゃんは首を傾げて人懐っこい笑みを浮かべた。


「先生から伝言かなんかですか?メーリス来てないですけど…。」

「ちょっと話あるんだけど。」

「え…。あー、はい。わかりました。」


 黄瀬。となまえちゃんが言う。苗字を呼び捨てで呼ばれたのは初めてだった。黄瀬、先、帰っててよ。ちょっと遅れるし。ヘラッと笑ってオレに手を振る。なまえちゃんの黄瀬呼びを不思議には思いつつも、特にそれを止める理由もないので、おっけー。と返して廊下の突き当たりを曲がった。


「(さて、何があったんですかねーっと。)」


 階段手前の壁に背をつけて座り込む。ここは廊下側にも壁が50センチくらい突き出しているから、向こうからは少し見にくい。帰る気なんか更々なかった。だっておかしいでしょ。いきなりオレを苗字で呼ぶとか。しかもノートを完璧に書き上げたい彼女が、彼女の中で1、2を争うくらい綺麗に書いている古典を遅刻宣言とか、おかしいとしか言いようがない。あの先輩が現れる直前の話題が話題だっただけに、変に思ってしまう。別に、そう思いこんでるだけならいいんだけど。


播本(モト)、部活の前とか後でも全然よくない?」

「だって今会っちゃったし。」

「お疲れクリタン。」

「お疲れさまです、野間さん。」


 先輩らも体育だったんですか?と会釈でもし終わったのであろうなまえちゃんが尋ねるのが聞こえた。それに対してその先輩達は、うん、うちらはバレー。水泳は金曜かな、たぶん。プール休む子多いけど、楽しんだ方がいいよー。2年までだし。と嫌な感じがした割に、案外和やかな返答だ。


「で、本題なんだけどさ。」

「(きたっ!)」

「今度の全中、降りてくんない?」


 さっきとは打って変わって落ち着き払った声だった。さっきなまえちゃんが播本先輩と呼んでいた人の声が、なまえちゃんに団体も個人も出場を辞退してほしいと伝える。ゼンチューって言うのが何の略かわからなかったけれど、たぶん全国の中学生の体操の大会なんだろう。そんなのに1年で、個人枠でも団体枠でも出るのが決まってるなんて、どうやらなまえちゃんはだいぶすごい人らしい。オレには全然わからない世界だけれど。


「朝生先輩さ、てか3年はさ、今年で最後じゃん。栗田よりも長くやってたわけ。栗田はさ、まだあと2年あるじゃん。この間まで来てなかったじゃん。」

「そうですね。」

「やっぱさ、うちらもさ、ポッと出の奴に取られたら悔しいし。」


 ね、わかるでしょ?お願い。と直立不動のなまえちゃんに手を合わせて頼む先輩に、なまえちゃんは、そうですね。と繰り返した。
 まあ、なんだ。言い方は柔らかくはなっていたけれど、先輩が後輩に対して言うってことは遠回しでもなんでも命令みたいなものだ。名前も知らない先輩よりもなまえちゃんを擁護したいオレは、ズッリィなあ。と少しだけ腹立たしくなった。だからと言ってオレが口出せることでもないから、口を挟むつもりはないんだけど、でも、やっぱそんなんコーチとか顧問とかが決めたことなのに難癖吐かれても困るって話。てか先輩がそういうので命令とかショッケンランヨーじゃん。降りる降りないはなまえちゃん次第だったとしてもさあ……煮え切らないよなあ。


「先輩、」

「(お、なまえちゃん…断れ!)」

「いいですよ。先生に言っときます。たぶん大丈夫だと思います。」


 こっそり顔を覗かせると、後ろ姿ではあったけれど、頬をかきながらヘラヘラとなまえちゃんが笑っているのがわかった。わたしだって悔しいですもん。ポッと出の奴に枠取られたら。なんつって頷く。


「わたしも全日本と国際ジュニアの間の調整期間だったんで丁度よかったです。」


 あ、ヤバい。と思った時にはもう遅かった。眉間に皺の寄った先輩の平手がなまえちゃんの頬を打つ。ばちん、とまあそれはそれは痛そうな音が響いた。うぅん…、今のはなまえちゃんが悪い。それはなまえちゃん本人もわかっているのか(ていうかたぶんこうなる事をわかった上で言ってる気がする)、ごめん、栗田。でも謝んないから。と言ってなまえちゃんの横を通り過ぎた彼女達に何も言うことなかった。オレは、こっちに向かってくる先輩達に慌てて踊り場の陰に隠れる。マジ、調子乗ってる。ちょっと出来るからってアピールいらなくない?どうせ挫折とか知らないんでしょーねー、天才ってのは。等という小さな罵りが彼女達の間で交わされていた。まあ、そうなるわな。
 先輩達の足音が少し遠退いたところでオレは立ち上がって、スラックスの埃を払った。結構隅の方に座ったから、中々白さが取りきれない。諦めて廊下に顔を出すと、なまえちゃんは廊下の窓側の壁を背に、床に足を投げ出していた。こちら側から見える左の頬は当然真っ赤だ。


「なまえちゃん、」

「…帰れっつったじゃん。」

「今のはなまえちゃんが悪いっしょ。」

「うるさいな。」


 オレが咎めるとなまえちゃんは本気で苛立った顔をする。そんなこと、わかってんの。わかりきってることを一々言わないで。腹立つ。と深く息を吐き出した。こんなに不機嫌さを露わにした彼女は見たことがなかったから素直に謝る。オレにはわからない何かが許せなかったんだろう。でも、それをあの人達にぶつけるわけには行かないから、行き場のない苛立ちを持て余している。


「とりあえず、湿布とかもらお。ちょっと引っ掛けてるし。」

「うごきたくない。なにもしたくない。」

「…面倒くせ。」

「はいはいわたし面倒くさいからさっさと授業行ってくださいー。」

「拗ねてていいから保健室行くよ。」


 立ち上がる気すら見せない彼女を無理矢理担ぎ上げて、先程オレ達が上がってきた保健室に繋がる階段を下っていった。俵みたいに担いでいるのにも拘らず、なまえちゃんは反抗すらしなかった。いつもならふざけて持ち上げようとするだけで断固拒否するくせに。
 トントンとゆっくり階段を降りていると、ブレザーの背中がぐっと突っ張った。なまえちゃんが握ったらしい。今度はなに。と言いかけたところで、彼女から息が深く吐き出された。


「…たった3年ぽっちじゃん。」


 その言葉はなまえちゃんが言うと、ただの不平には聞こえなくなる。確か3歳のころからやってたんだっけ?どれくらい本気でやってるのかなんて知ったことじゃなかったけれど、さっきの会話から推測するに相当やりこんでるんだろう。先輩の3年間を“たった”と言えるくらいには。
 階段を降りてすぐの衛生室の扉を開ける。失礼しまーす。と一応断りを入れてみたものの返事はない。出払っているらしかった。扉をくぐる頃にはもうなまえちゃんは凹み期から不貞腐れ期に移ったようで、ムスッとした顔で一々、こんなの傷じゃないだの、放っておいてくれだのと文句を言う彼女に怪我の状態を記入する紙を書いてもらうのはちょっと手間がいった。彼女の文句を聞き流しながら、アルコールに浸された脱脂綿と氷を探すと、わかりやすい場所に大体あるからすぐに見つかった。


「あの人、指輪かなんかつけてたの?ほっぺ平手打ちで普通引っかき傷なんかできねーのに。」

「そうなんじゃな…つめたっ!ちょっと!」

「しゃーねーじゃん!アル綿で消毒しないと!」


 彼女の顎に手を添えて、ぴと、と脱脂綿を当てるとなまえちゃんはぎゃあぎゃあ騒ぐ。さっきまでポッキリ折れちゃってたくせにうるさい人だ。なまえちゃんは不満あるとすぐオレに八つ当たりする!と非難すれば、今まで無意識だったのか、え…、ごめん…。と少し傷付いた顔をするもんだから、すごくやりにくい。そういう顔をしてほしいんじゃない。


「別に、なまえちゃんだからなんも言わないけどさ。腹立つわけじゃねーし。」

「…次からは八つ当たり気をつける。」

「あーもーいいって気をつけなくて。お前の八つ当たり、もう慣れた。」


 小さな絆創膏の粘着面を少し切って小さくして患部に貼り付ける。氷を渡して、ちゃんと冷やして。と眉間に皺を寄せて言えば、わかってる。と唇を尖らせたまま頬に宛てた。消化不良の不平が残っているんだろう。基本的に受け流すのとか隠すのが上手い子だから、ここまで顔に出すのを見ると面倒くささ半分、物珍しさ半分って感じ。もやもやしてるんだろうなって顔をしてるのはよく見るけど。


ー…あー…あーもー。」

「唸ってるぐらいなら八つ当たりされた方が楽なんだけど。」

「あーもうなんかムシャクシャする!」

「ぐぇっ!ちょ、首絞まっでる!」


 なまえちゃんのスリーピングホールドに反応しきれず、がっつり首が締まる。八つ当たりしていいと言った途端これだ。オレに対して割と容赦ない。ていうかお姉さん、首への締め技の副次的な影響が。胸当たってるって。プールんときも背後から強襲してきたけど、マジでアンタ無頓着だな。
 ギブギブ!となまえちゃんの腕をバチバチ叩くと息ができる程度には腕が緩んだ。後頭部に回った右腕が降りてきて、オレの目の前で左の肘を掴む。深い溜息を吐いた彼女がオレの頭の天辺にある旋毛に顎を置いた。


「やっぱり、1年で、怪我とはいえ練習出れなくて、それでも先輩差し置いて大会メンバーって、…納得できないよね。」

「…勝負の世界ってのを知らないんでしょ。つーか、なまえちゃんの体操、あの先輩知ってんの?」

「そういえば知らないかも。コーチがメニュー別にするんだもん。部活なのに、部活じゃないみたい。」


 でも、コーチに言われたら……ねえ?なんて言いながら、オレの頭をぽんぽんと叩き、離れる。なまえちゃんにとって、指導者は絶対者と言っても過言ではないらしい。
 衛生室のソファに投げ出した自分の荷物を回収して部屋を後にする。


「つーか今日、2回目なんじゃない?」

「え?なにが?」

「さっきの、リンチみたいなの。今朝、オレのファンに囲まれてたでしょ。」


 しれっとした顔でぶっちゃけると、何しれっとした顔で言ってくれてんの。てか知ってたの。となまえちゃんは頭を抱えた。隠しているつもりだったらしい。けど、なまえちゃんわかりやすいからなあ。オレのファンに呼び出されてる現場を何回か目撃したことあるけど、大概帰ってきたと思ったらずっと真顔だもん。わかるわ。


「オレからなんか言った方がいいんだったら、言うけど。」

「女のゴタゴタに男が首突っ込んでも碌なことないよ。言っても逆恨みが増しそう。」

「あー…確かに。だけど、エスカレートしたらどうすんの。」

「うぅん…まあ、嫉妬する気持ちはわからんでもないからなあ…、言う気になれないんだよなあ。」


 出た、お人好し。オレがそう思ってるのが顔に出ていたらしい。なまえちゃんはチラリとこちらを見てから、あ、いや、えっと、でも、さすがにそれはおかしいでしょってなったら言い返してるよ。とぎこちなく笑った。


「さっきみたいに平手飛んできたりするけど、避けられるし。そもそも、なんでお前たちのためにわたしがりょたと距離置かなきゃいけないのって話だし。」

「おっ、おおぉ…。」


 まさかの返答に変な声で返事をしてしまった。なんだかこっちが気恥ずかしい。そうですか。と返して目を反らすと、そうですよ。…なに、奇声あげて。と嫌なところを聞いてきた。
 別に。なんでもねーよ。とそっけなく言うと、あ、と声を上げてにんまりと笑みを深くする。…こいつ、変なところで鋭いからイヤだ。


「照れちゃった?」

「うっさいな。」

「やだもううれしいなあ!りょた、ヨッ友は掃いて捨てるほどいるけど、ちゃんとした友達ほぼいないもんね。」

「うるっさいな!」

「はいかわいいかわいい。」

「頭撫でようったってオレがしゃがまなきゃムリだかんな!」

「かわいくない。」

「かわいくなくて結構。」


 唇を尖らすオレを傍目に、なまえちゃんは廊下の窓から空を見上げる。
 夏だねえ。そう呟く彼女の首筋からは水滴が伝っていた。ツ…と流れるそれが、何故かとても美味しそうに見えて、慌てて頭を振る。


「…話、飛びすぎ。普通の人じゃ何言ってんのかわかんねーよ。」


 暑さで頭がやられてんだ、きっと。プールで冷えたはずなのになあ。




title by 金星
20150428
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