わたしがこどものままだからなの?



「例のブツは。」

「買ってきたでありますぅー。」


 放課後のわたしの行動パターンは大きく5つに分かれる。直帰して体操教室に向かう、体育館で適当に動いてから教室に向かう、体育館で動いてから帰る、ようちゃんに呼び出されて麻黄中に出向いてから帰る、直帰。今日は4番目の日だった。普通に帰ろうとしたとき、ランドセルに入れていた携帯電話が鳴って電話に出たら、今すぐ来い。通話終了。どゆこと。
 断る暇さえくれないのか。とか、たぶん今日予定ないの把握してんだろな。とか思いながら携帯をしまった。これ、習い事終わったあとに連絡する用なんだけどな。ようちゃんにはそんなこと関係ないらしい。まあ実際関係ないんだけど。

 コンビニで無糖ガムとコーラを買って麻黄中に向かう。校内に入ってグラウンドを見回しても、ようちゃんらしきの人影なんか見当たらなかった。そこらへんの人に、蛭魔妖一って人を探してるんですけど、と尋ねようとすると、ヒルマと口にし終わった瞬間に悲鳴をあげられるわ泣かれるわで挙句速攻逃げられた。やる気が失せるわこんなん。帰ろうかな。と携帯を取り出して、連絡先からようちゃんの名前を探していた矢先、どこほっつき歩いてたんだテメー。と金髪が声をかけて来たのである。
 あっ、と声をあげて要求されたものを手渡して、とらちゃんは?と尋ねると、助っ人勧誘。と悪い顔をした。あ、そう。一体何をしているのか想像もしたくない。ポッケに手を突っ込んでいるようちゃんの腕にするりとしがみつくと、ようちゃんはちらりとこっちを見たけど何も言ってはこなかった。ようちゃんは意外とやさしいからすきだ。


「じゃあ練習しないんじゃん。なんでわたし呼び出されたの。」

「偵察。」

「どこの。」

「王城ホワイトナイツ。」

「高校じゃん!とらちゃん言ってたよ!超強豪じゃん!」

「いちいちうっせえな。」


 なにそれ意味あんの?と尋ねると、バカかお前。と鼻で笑われる。王城高校は大学まであるエスカレーター式なんだそうで、部活動は中高一緒に行うらしい。なるほど強いわけである。じゃあ中学の方の練習見るわけね。両手を合わせると、死ね。と懐から出した拳銃でわたしを打った。思わずのけぞると、マトリックス張りのいい背筋してんな。と笑われた。どうして笑えるのか、わたしには理解できない。


「死ぬかと思ったわ!ほっぺ切れたじゃんほっぺ!なんで中学の練習見るのかーって言葉の返事が死ねなの!?」

「クリスマスボウル目指してんのにガキ共の戯れなんぞ見るわけねーだろ撃ち殺すぞ。」

「ほぼ理由なき暴力なんですけど。あ、うそうそうそ。銃ちらっと見せてこないで。
えー、じゃあ踏襲してるトレーニングとタクティクス見るの?」


 わたしが聞くと、たりめーだ。とようちゃんはわたしにショルダーバッグを手渡して来た。ビデオ撮影と試合メモとっとけよ。ようちゃんが口の端っこだけで笑う。陣形から選手のフィジカル、アビリティ、パフォーマンス全部測れってことか。別にこっちも勉強になるしいいんだけど、ただただしんどいんだよなあ。


「ああ、そういや進って奴がヤベーらしいから要チェックしとけ。」

「しん?それ名字?名前?」

「名字だよ。進清十郎、オレとタメ。」

「中1なの?中学見ないって言ってたけど。」

「中学は見ねーよ。進見とけっつってんだ。」


 そうだ。まあ、例外的に桜庭ってやつの写真撮影は許可してやる。とようちゃんは続ける。やけに爽やかな笑顔で言ってくるもんだから、なんだか不審な感じがした。たぶん、許可してやるって言うか、盗撮してこいってことなんだろうな。すごい楽しそうな金を稼ごうとしてる目をしてる。きっとイケメンなんだ、桜庭って人。
 わたしもちょっとその恩恵にあやかりたいな。なんて考えていると、そういやお前、とようちゃんが口を開いた。


「ほぼ幼馴染に告られたらしいじゃねえか。」

「どっ、ふ、え、ちょ、な、なんで知ってんの!」


 不意打ちとしか思えない話題提供に戸惑いを隠せない。パチパチとようちゃんと目を合わせる。なんていい笑顔してるの…!ドヤ顔で、オレを誰だと思ってやがる。と言い切る。なんか今、あ、そういえば、なんて、すごく納得してしまった。
 ようちゃんは“脅迫手帳”なる黒い手帳を持っている。弱味を握った奴隷に新たな脅迫ネタを捕まえさせ、ネタをちらつかせ新たに奴隷を作り出し、さらに奴隷が脅迫ネタを見つけ出すという悪夢のねずみ算で作り上げたものだ。そこには名前の通り他人を脅迫するための弱味が詰まってるらしいのだけど、もはやその話がここら一帯に広まりすぎて都内では見せるだけで思い通りに人を動かせるという、まさに御印籠状態である。あの話がようちゃんに知られてるのは、きっと彼のいう奴隷がソースなんだろう。そう尋ねると当然のごとく肯定された。なんて恐ろしいシステム。


「ガキのくせによくやるぜ。」

「ひろもわたしもそう思ってるよ。なんであいつがわたしのことをすきになったのか、全然わかんないし。」


 そりゃわたしだってひろのことはすきだけど、ひろのいうものとは全く違う。ばかじゃないんだから、それくらいわかる。ひろのすきは、わたしと違って、きっといつか“付き合う”ってことで、いつかおわりがくることが多くて、それってつまりひろのことをきらいになるかもしれないってことでしょう?きらわれるかもしれないってことでしょう?ひろは優しいから、最後まで見放さないでいてくれるから、“きらわれるかもしれない”の“かもしれない”という微々たる可能性だけでもこわいのだ。さつきとともに、わたしの中の人類最後の砦。なにがあったって味方でいたいし味方でいてほしい。悶々と考えていると、なんだかそれに付随するすべてのことが億劫になってしまった。


「ようちゃん、」

「なんだお前、情けねえ顔しやがって。」

「…パフェ食べたい。」

「……。」


 腕にしがみつく力を少し強くすると、ようちゃんはめんどくさそうに軽く舌打ちを打つ。歩合制だからな。精々しっかり働けグズ。と頭を掻いた。
 王城高校校内で偵察がバレ、囮として見捨てられたわたしだけがアメフト部員に取り囲まれるという事件が起きるのは約30分後の話である。




アイシールド知らない人でもわかるようには書きたいのですが、おもしろいので読んでいただきたい。
title by 金星
20140418
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