誰もがそれをうそだというんだ。



 5年生の春、進級に伴ってクラスメイトが変わった。オレやヒロは5年1組で、なまえとさつきが5年2組。あいつらの担任は若くて熱血で、なまえはしばしば顔で焼肉が焼けそうだとぼやいていた。
 一方、オレ達の担任は教員歴二十数年というベテランのババアだった。授業を妨害することはないが、寝てばっかのオレは始業早々目をつけられた。これがめんどくせえことめんどくせえこと。毎授業あてられるのだ。しかも、ババアだからか怒り方が母ちゃんみたいでマジ怖えの。
 なまえにその話をしたら、去年担任の先生だったけど、わたしはすきだよ。絶対見捨てないし。いいなあ、久子先生。日比野先生もおもしろいけどね、近所のお兄さんみたい。とのこと。そういや、なまえのいじめも、最終的に落ち着くとこまで持って行ったのはあの先生だったっけ。大会前に不安になって跳び箱の中に隠れたなまえに自信を取り戻させたのもあの先生だった気がする。先生の、大丈夫よ。何が怖いっていうの、あなたより綺麗に高く飛ぶ子なんてどこにいるっていうの。と言う言葉通り、なまえは大会登録者最年少で優勝を掻っ攫っていったのは記憶に新しい。

 まあ、兎にも角にもオレやヒロはさつきとなまえと離れたのだ。もちろんそれに伴って一緒にいる時間はさつき達よりもヒロの方が多くなった。つまり、あいつを知る機会がうんと増えたわけだけれども、それでもわからないことはまだまだあった。


「ねえ、ちょっと、ヒロがとなりのクラスの女子呼び出してるって!踊り場行ったって!」


 夏休みもとうにおわり、肌寒くなって来たある日、うちのクラスの1人の女子が教室に駆け込んで、声は潜めつつも興奮を隠し切れない様子でそう告げる。すると周りにも興奮が伝わっていって、えっ、誰それ?だとか、なになに?告白すんの?だとか、ヒロが?だとかどよめきが走った。気持ちはわからんでもない。ヒロはドラえもんでいうところの出来杉くんにモテ要素を追加したような奴だ。スポーツも出来て頭もいいし礼儀正しくて面倒見もいい、ある意味少女漫画から出てきたような爽やかさを待ち合わせてるんだから、そりゃモテる。そんな奴の恋愛事情なんて女子が気にしないわけがない。仮に好きじゃなくたって興味本位に騒ぎ立てる奴も少なくないし、男子の大半はそんな感じだろう。


「告白っぽい…!ほら、2組の栗田さんいるじゃん!ヒロと仲良くて去年とかもずっと一緒にいた子!」

「えー、わかんねえよ。」

「体操かなんかでいっつも表彰されてる子!あの子!」

「ああっ、あの!」

「かわいい?ブス?」

「ええ…?それ聞くー?」


 教室に突撃してきたそいつはクスクスと笑ってから、ブスじゃないけど、ちょーかわいいってわけじゃなかった。と言い放った。別に悪意があったわけでもないんだろうけど、やな感じ。あいつと仲良いの抜きにしても、もっと言い方あるだろとは思う。
 続けざまに、サツキの方がよっぽどかわいいよ。前仲良かったみたいだけど、完全に引き立て役ぅーって感じだったしね。愛想とか皆無だし。なんて教室の隅で堂々と携帯をいじっていた女子に目を向けるもんだから、わかってねえなあと息を吐いた。視線を受けた渡部サツキはなんでもないかのように堂々と携帯をいじっている。あいつはもう、オレやヒロには微塵の興味もないように見えた。まあそりゃ大嫌いななまえの味方をして、あいつのやったことを否定したんだからそうなるだろう。渡部サツキは生き方をこれっぽっちも変えていない、らしい。他の小学校の柄の悪い奴らとつるんでるって話。正直、オレにはなんの関係もないし、なまえに至っては、できればもう関わり合いたくないとぼやいていたので何をしようがどうでもいい。

 まあ、渡部の話はいい。それより、なんでヒロはなまえのことがすきなんだかオレにはあんまりわからなかった。いや確かにいい奴だし親しい人とそうでない人への態度が天地だから優越感あるけど、でもぶっちゃけそんだけだろ。女らしいかどうかで言ったら、さつきの方がまだ女らしいし。どっちにしろ女として見たことねーけど。


「あっ、ヒロ戻ってきた!」


 その声にみんなが一斉に扉を見る。その動きの統率具合といったら軍隊みたいでなんとなく笑えた。ヒロも同じように思ったらしく、え、お前ら軍隊みたい。とたじろぐ。そんなあいつの反応なんか意にも解さず、周りにクラスメイト達が集まった。ねえ、栗田さんと何話したのー?告った?告った?いつからすきだったんだよ?どこがすきなの?かわいい?とかなんとか。ヒロは真っ赤になって、言わねえよ、ばか。なんで、知ってんの。頭をかく。本当に、お前、そんなになるくらいすきだってのかよ。知ってたけど、薄々は。でもやっぱ信じらんねえ。


「大輝。」


 前の席にヒロが座って、オレの机に突っ伏した。少し間を置いてから、あんだよ。と問えば、しにそう。とだけ呟く。いや意味わかんねーよ。お前のいつもは、もっと、何があっても飄々としてたじゃん。フられたとか?…うぉお…なきにしもあらず。なまえがかわいすぎたとか?ありえねーけど!


「告ってきた。」

「お、おう。で?」

「よくわからん。」

「何故。」

「付き合ってくださいとかは言ってないから。」

「何故。」


 何考えてんだこいつ。すきですっつって、付き合ってくださいって言わなくって、そしたらなまえだって、どうしろとなんつって困るだろ。すきです、はいおわりってそれただの近況報告。オレが、おまえバカなんじゃねーの?って目でヒロをぼんやり眺めていると、小学生で付き合うとかよくわかんねーじゃん。何がしたいのっていう。と俯きながらぼそぼそ言っていた。それは一理ある。


「まあそりゃな。なまえもたぶんそんな感じだろ。」

「うん、だからたぶんフられたに近いと思う。」

「な、なんでまた(予想当たってしまった!)」

「すきなんですって言ったときは、驚いてたか困ってんだか吃って、あ、はい。みたいな感じだったんだけど、友達がいいって言われた。」

「近いじゃねーじゃん、それフられてんじゃん。」

「いやほら、ドラマとかであんじゃん。付き合う付き合わないって割と終わりあるから、だからいやなんだって。」

「うそつけ。あいつ確かにそういうの考えると思うけど、そんな懇切丁寧に説明するかよ。ほんとは?」

「わかったけど、付き合うとかはなんか嫌。友達じゃだめなの?って。すげえへこんだ。」

「でしょうね。」


 さすがにそれはかわいそー。と哀れむと、なんかってなんだよ頑張れよ説明諦めるなよ。と頭を掻き回していた。哀れ。


「いや、でもそんときめちゃくちゃかわいかった。うん。」

「ああそう(まさかの両方だったとか。)」

「ちゃんとした告白、はじめてだったらしい。」

「ちゃんとしたって、ちゃんとしてない告白ならされてたみたいな言い方だな。」

「4年に1度くらいでされてたらしいよ。」


 まさかのペースに驚きを隠せず、オリンピックか。という見当違いなツッコミをかましてしまったが、今日のヒロはそんなことには微塵も気をかけられないでいるらしい。それなまえも言ってた。と乾いた声で笑った。
 桃井がとなりにいるから、目立たないけどさ、実際なまえのことすきなやつ、少なくはないよ。親切だし、優しいし、頭いいし、別に暗いわけではないし。ちょっとマイペースだけど。そこまで言ってヒロは黙った。おいおい、自分から言い出しといて何照れてんだよ。


「諦めんの?」


 オレがそう聞いたらヒロはまだ黙ったまんまで、ぽつり、まだ友達でいてくれるなら甘んじてたい。とこちらを見た。少し光った目をしていた。


「怖いんだよ、これでも。あいつ、しつこいのきらいだから。」




わたしが小学生のころ、誰々と誰々が付き合ってるって話を聞いた時は戦慄したものなんですけど、今は割合普通なんですかね?戦国時代の元服的には1年フライングしてますけどね。
title by alkalism
20140412
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