何言っちゃってんの。 「え、なにお前腹痛ぇの?」 オレが素直に心配したら、アイツは、うるさい黙れと一蹴してきた。そんな言い方ねーだろとは思ったものの明らかにいつもの態度とは違ったので、何かあったのかと疑う。つい半月前まで、栗田なまえはいじめにあっていたし、もうあと少しで体操の大会だ。毎度毎度緊張が極限まで達すると跳び箱の中に引きこもるんだから、疑ったって不思議じゃない。なあ、本当に大丈夫なのか?保健室とか行った方がいいんじゃねーの?と顔を覗き込んだら、本当に大丈夫だからほっといて。と机に突っ伏した。いやマジでお前大丈夫か。 「まあ、ほら、だいちゃん、なまえがそう言ってるんだしほうってあげなよ。」 「こういうとき1番心配してるお前が何言ってんだよ。」 「だ、誰だってそういうときがあるんだってば!」 ほら、あっちいって!とオレとなまえの間に入ったさつきがオレを追い返し、なまえを保健室に連れて行く。別にオレ、間違ったことしてねーじゃん。意味わかんね。と乱暴に席に戻るとオレの斜め前の席、1番前の教壇から見て真ん中より左側の席に着いていたヒロと目があった。 「お前、なんか事情知ってんの。前みてーに。」 「知らないけど、まあなんとなく予想はつくっていうか。」 「じゃあなんだよ。」 「言うかバカ。」 またオレだけ知らないテイってやつかよ!とふてくされるとヒロは顔を真っ赤にして、うるっせえな!別に省いてるとかそんなんじゃねーから!と怒鳴る。そこまで怒られるとは思ってもみなかったから、お、おぅ…、とかいってたじろいでしまった。ヒロがここまで過剰に反応するのは少し珍しい。なまえと似てて、姉貴と妹の我が儘で鍛えられて多少のことはなんてことないはずなのに。 「つーか、じゃあなんで予想つくんだよ。」 「姉貴いるやつは知らないこと、は、ないんじゃねーの。」 「なんだそれ。」 「どうせ今日の体育雨で保健になるから教えるだろ。」 お前、もうこの話すんな。ヒロはそう言ってなまえと同じように顔を伏せる。アイツの耳は、燃えているかのように真っ赤だった。一体何に照れてると言うんだ。 *** 「(おぉふ…、)」 結局、わかってしまった。ヒロの言ってた意味もさつきが指していたことも、なんとなく。体育の先生が男であることと、言ってはいけないだろうけどそのモテなさそうな外見から、授業中、クラスの男子に、なんで赤くなってんのー?などとからかわれていたが、オレはガヤを飛ばすことはできなかった。人一倍背の小さななまえが、人よりも早くオトナになる準備ができてるだなんて。考えたくもない。思えば、最近体の線が丸くなってきてるし、声だって子供の高さとは違う高音になったかもしれない。教科書みたいに変わってることが信じられなかったし、受け入れがたい。いっちょまえにオッパイとかデカくしてんじゃねーよクソッタレ。 かく言うなまえは昼前になって、薬飲んできた。などとケロッとした顔で戻ってきており、なんだか妙にもやついた。給食の班になって隣の席で飯にパクついてるやつにオレの心配を返せと言いたい。 「だいき、牛乳とパン半分あげる。いらない。」 「またかよ。お前2年ときからずっとじゃねーか。」 「牛乳すきじゃないし、パンもさもさしてるじゃん。食べれないよこんなに。」 だいちゃん大きくなぁーれっ!と完全に隙をついてきたなまえがオレの口に直接パンをぶち込む。パンが喉の奥まで侵入してきて一瞬吐きそうになった。慌ててなまえが自分の牛乳にストローを刺して手渡してくる。ちゃっかりなに自分の飲ませようとしてんだよ。 「お前なぁ、そんなんだからいつまでたっても前から3番目以下なんだっつの。」 「うるさいな。体操は小さい方が有利だもんね。」 「でも体が資本だろーが。セーリになったんだろ?鉄分取った方がぜってーいいって。」 こっちとしては普通に気を使ったつもりなんだけど、気の使い方がおかしかったらしい。なまえはしばらく硬直して真っ赤になって、さ、さいてー…。と呟いてオレの頭を殴った。あとでヒロからも、あれはちょっと…。とダメ出しされて、それ以来オレのあだ名はエロ峰になった。2次成長ってむずかしい。 こういう成長記録みたいなのもいいかなと思って。本当は違う流れになるはずだったけど、忘れた。 title by パッツン少女の初恋 20140329 |