黙って見てるなんてごめんだね。 「さすがにウソだろ。」 「だからホントだってば!」 帰りの会の前のことだ。さつきは、昨日わかったんだけどね、と前置きしてなまえのお道具箱あさりの結果報告を行った。友達の…というか、あいつのレンアイジジョーとか別に知りたくもなかったのだが、なぜかさつきはまったくべつの話題を口にしていた。話がちがいすぎて、こいつ今の一瞬で頭打ったんじゃねーの?と思ったくらいだ。オレがおどろき半分うたがい半分で発した言葉は、さつきによって全否定された。 「だって、あいつだぜ?根暗でもなければ協調性ないわけでもないのになんでまた。つか、あいつら3年ときは仲よかったんじゃねーの?たまに渡部からなまえんちで遊んだって聞いたことあったし。」 「知らないわよ、私はそこまで仲よくなかったし。なまえは、高木さんと渡部さんは大ちゃんがすきで、マユちゃんと相川さんは田中くんがすきだから、仲いいのをうらやましいって思ってるんじゃないかって言ってる。」 「え?岸田と相川はいいとして、高木と渡部ってオレのことすきなのかよ?」 「にやにやしないで真面目に聞いてよ!」 「いって!聞いてるじゃねーか殴んな!」 去年みんな同じクラスんとき、フツーにいいやつだったけど。と頭をさする。さつき曰く、すきな人に意地悪するのは男の子だけで、女の子にはシビアな子ってざらにいるよ。とのこと。なんだそれ常識みたいに言いやがって。女子怖ぇ。 でも、なんでなまえだけなんだろうか。オレやヒロと仲いいってんならさつきだってそうだ。つーかうちのクラスの男子の6人くらいはさつきのことをちょっといいなとかすきだとか思ってるらしいから、なまえだけってのも不思議な話である。まあ、確かになまえの方が他人に対しての愛想とか酷ぇから仕方ないのかもしれないけど。 オレがごちゃごちゃ考えていたら、とにかく!とさつきが腰に手を当てた。 「今日からしばらくなまえと帰るから、大ちゃん一人で帰れる?」 「バカにしてんのかお前。」 「今日は体操着からイチゴオレの匂いがするらしいよ。なまえ、いい匂いにしてどうしたいんだろって不思議そうな顔してた。」 「不思議そうな顔してたって、それだけですまされるもんじゃねーだろ。」 ほとほと呆れかえる。あいつ、ばかじゃねえの。自己暗示かけようとでもしてんのかよ。そんなんで辛いのとかかなしいのとか、ごまかせるわけがないのに。 どうすんだよ、これから。と頭をかくと、とりあえずこれの一連の話、大ちゃん知らないことになってるからなまえに絶対言っちゃだめだからね。と念を押された。 「なにかあったら私に教えて。」 さつきのあんなに低い声は初めてだった。 *** とは言われたものの、放課後も体育館、家に直帰するオレとそのなにかが出会うわけでもなく、あいつの弟2人をつれて下駄箱に向かっていた。 だいきくん、つかれたよぉ。としがみついてくる高野を無視してひきずる。一方、叡山の方はまだ体力がありあまっているのか、こうー、かえったら5本ショーブなー。じゅうどうでいいからー。なー、5本だけ!なー?と後ろを向いたまま弟をしつこく誘っていた。 「やだってば。なまえちゃんにたのみなよ。」 「なまえー?さいきんあいつやってくんないからやだ。だからだいきからも打ってやれよって言ってよ。」 「だいきくんやめてやれよって言ってよー。」 「なんでオレが間とらなきゃいけねんだよ。」 正直な話、バスケやるよりも体力つかうからごめんこうむる。なまえほどとはいかないまでも、2人ともそこそこに頑固だから話が割れるとマジでめんどくさい。まあたいがい叡山が先に折れるんだけど。 おらオメーら早くしねえと置いてくかんな。暗いけど問答無用で置き去りにすんぞ。と下駄箱に上靴を突っ込む。高野は、ええっ、怖いじゃん!ちょっと待ってて!ダッシュで変えてくる!と、叡山は、はあっ?寂しいだろちょっと待ってて!ダッシュで変えてくる!と息ぴったりで走り出した。 「ほんとあいつうざいうざいうざい。」 「(……これは、)」 渡部の声だ。姿が見られないように、さっと下駄箱の奥に潜む。この間校内全部使ってやったケードロを思い出してなんだか笑えた。耳をそばだてると渡部の他に相川もいるらしい。4年1組の下駄箱ががたがた揺れる。これで岸田もいたら確実にバレていただろう。 聞いてみれば、今日はあの動揺のなさがイラついただとか、明日はちょっとすごいのにしてみようだとかそんなんばかりだった。オレに対してはいたって普通に、むしろ授業中にわからないことがあったこそっと答えを教えてくれるようなやつだったから当然ショックと言えばショックだ。 簡単にそういうことができるやつもいるんだよな。なんてしみじみ思っていると、叡山と高野が戻ってきた。オレの様子から、静かにしておいた方がいいという雰囲気を感じたのか、さっきと違って落ち着いている。叡山が何か言おうとしたが、つーかさ、と渡部の声が被ったので慌てて口に人差し指をあてた。 「あいつうちらのこと結構バカじゃないのって目で見てくるけどさ、あいつこそバカだと思うんだよね。」 「だって栗田さん先生にめっちゃ媚び打ってんじゃん。ちょっとレベル高い問題とか質問しちゃってさ。」 「いや、それはそうなんだけど、違う違う。最初桃井さん省こうって話してたじゃん。」 「あー、あのときね。マユが栗田さんも一緒にやろうよって言ったときの!なんだっけ?」 「それただのいじめじゃん。ださいと思う。」 「やば、そっくり。」 「あ、あとあれ、」 そういうの一緒にやるのが友達っていうんなら、わたし、友達じゃなくていいや。 声や口調だけでなくてみょうに表情まで変えてまねをする渡部に、うぜー!こっちこそ最初から友達じゃないし!と相川が笑う。ほんとう、怖ぇよ、女って。さつきの言っていた言葉を思い出して額をおさえた。なんかあったら教えてとも言ってたっけ、たしか。 「(こんなん、なんて言やいいんだ…。)」 さつきを省くって話があったってことを本人に伝えろってことかよ。つか、明らか今の話があったから標的変わってるってことだろ。だから、なまえはさつきに理由は不明ってていで近からず遠からずなことを言ったって可能性がだいぶ高い。さつきの話じゃ、だいぶしんどい思いして我慢して、そこまで頑なに言うのを拒んだことをオレはさつきに言うべきなんかな。絶対、さつきは傷つくし、なまえは絶対それをいやがる。 声が遠ざかっていって、とりあえず明日はトイレ呼び出してボコるとか!という言葉を最後に昇降口から消えていった。まあ、この話はさつきに教えてやるとしよう。いじめられた原因の方は……黙っておくしかないだろうなあ。結局、オレは2人を上手に慰めて助けることもできやしないんだから。 はあ、と溜め息をつくと、あの人たち、なまえちゃんをいじめてる人だ。と高野がぽつりとつぶいた。いや、親も知らねーのになんでこいつ知ってんの?素直に疑問を口にすると、きのう、さつきちゃんとなまえちゃんとでパソコンでさっきの人たちのなんかしてる画像見てかんがえ事してたもん。と口をとがらす。そういやそうだ。と叡山が同意した。 「オレたしかカッコゲキハとゼンホウイドウジゲキハとどっちがいい?って聞かれた。」 「なんだそれ。」 「ひとつひとつかくじつにつぶすか、一気にたたくかってこと!」 オレ、ゲームの話と思って一気に倒した方がかっこいいって言ったんだけど、よくかんがえたらあいつらたおすための作戦かいぎだったのかも。叡山が腕も組む。 「さつきはしらねーけど、なまえはセンリャクとかになるとすげーつよくなるからなー。オレ、オセロで最後まで駒おけたことないし。」 「なまえちゃん、決めたらようしゃないもんね。」 「つーか、たいした顔でもねーのにいじめとか、わらえるよな。」 ブスな上にせいかくわるいですっつってるようなもんじゃん。と叡山はへらへら笑って続けた。それを高野は、えいちゃんこそそーゆーのだめだよ!せいかくわるいよ!と注意する。 オレは、何も言えなかった。 収拾がつかない。スッキリする落ちどころがない。 title by 金星 20140306 |