わたしたちはいつまで知らないままなの?



 ここ最近、なまえがおかしい。よくものを忘れるようになったし、よく授業に遅れるようになったのだ。別にそれが授業に響いてる様子は特になくて、テストはだいたい100点だったし、笑顔にぎこちなさなんか全く感じなかったんだけれども、それでもやっぱりおかしかった。
 それから、この間なまえママに、最近学校でなまえにおかしなところはないかと訊ねられた。たぶん、なまえママもなまえとおなじでよく人を見てる人だし、なまえ以上に人の変化に気づく人だから、何かが引っかかったのだろう。
 なまえは、いつもは客観的に見て正しいことを正しいと言うし、自分の責任で何か間違ったことをしてしまったとしてもちゃんとそれを隠さずに言える子だ。基本的に嘘は吐かないし、大切なことは隠さない。だけれど、基本的に嘘を吐かない分、実際に嘘を吐いたり隠し事をしたりしたとき、私達はそれを本当のことだと思わせるのが巧い。というか、私達が勝手になまえは嘘を吐かないんだと信じ切ってしまっている節があるだけなのだけど、なまえはそれを巧みに使い分けるのだ。
 とにかく、本当に興味ないようなフリだって、何も気にしていないようなフリだって、すごくうまいのである。すきな人を聞いたって、本当にどうでもいい人なのか、バレるのがいやでテキトーに流しているフリをしているのか全くわからない。嫌なときはすぐに嫌な顔をする癖に、そういうときばかり自分を奥に奥に押し込めるのだ。


「大ちゃん、どう思う?」

「どうもこうもねーよ。あいつはいっつも言いたくないことは言わないし、言っても意味ないことも言わない。言わない方がいいことも言わないだろ。もしお前がなまえのおかしいなって思う何かを知りたかったとして、教えてくれっつって話すようなやつじゃねーよ。」

「そ、そうだけど……、でも、すきな人ができたなら応援したいし、困ってるんなら助けてあげたいじゃない。」


 とりあえず、この妙な違和感ともやもやを誰かに話したくて、ずぅっと昔から一緒にいる大ちゃんに話してみた。わたしもだいぶなまえとたくさんの時間を過ごしているけれど、大ちゃんはわたしと同じくらいなまえと時間を共有していたから、他に話せる人といったら大ちゃんくらいしか思い浮かばなかったのだ。
 むっとしながら、ずっと一緒にいるのに水臭いよ。いっつも私ばっかり話してるし。と反論すると、親に言わねえんだからだいぶハードル高ぇよ。と大ちゃんはいつになく筋の通ったことを口にした。まあ、確かにそうかも。そう思ったけれど、やっぱりそれじゃ寂しくて、でもでもでも、と口を開こうとしたら、まあ、でもよぉ、と大ちゃんも逆接詞を使った。


「話さねえんなら話させりゃいいんだよ。なんとかっておっさんも言ってたろ?」

「え?全然わかんないんだけど。」

「だからー、ほーほけきょのやつ!」

「あっ!わかった!鳴かぬなら鳴かせてみようほととぎすね!おっさんてなによ、織田信長じゃない。」

「別に通じたんだからなんでもいいだろ。」

「これテストにでるよ、きっと。
あー、でもなあ、」


 でも、どうしたら、なまえが話すような流れに持っていけるんだろうか。結構頑固だからなあ、一度決めたらテコでも揺らがないのがなまえだからなあ。大ちゃんに尋ねると、簡単だよ。と一言。現場を見りゃいい。と笑った。


「たぶんまだ悩んでるってことは、まあ、万が一にもないとは思うけどよ、仮に告白だったとしてまだ返事してねーってことだろ?ってことはまた顔を合わせる可能性があるし、鉢合わせになったときに動揺したところを取り押さえりゃいいんだよ。」

「なんか、別にそこまでやらなくてもいい気がするんだけど…。犯罪者じゃないんだからさ。」

「いいんだよ。あいつここ何週間か朝体育館来てねーし、放課後もさっさと行っちまうから、ちょっと変だなと思ってたし。」

「はあ?なにそれそういうの早く言ってよ!ちょっと変じゃないよ!だいぶ変じゃない!」


 私が強い口調で問い詰めると大ちゃんはものすごく嫌な顔をする。別にそこまで気にすることでもないかなって思ったんだようるせぇなあ!とそっぽをむいた。だいたい、男が一々女のこと気にするとかありえねーだろ。きもちわりーだろ。しかも去年ならまだしも、今年は違うクラスだし、わざわざ気にするとかねーよ。マジで。とかなんとかブツブツ言っている。大ちゃんのなけなしのプライドには欠片も興味はない。


「とりあえず尾行しよう!」

「ストーカーかよ。」

「自分が言ったんじゃない。」

「尾行とは言ってない。」

「とりあえずなまえをつけるのは決定事項ですからね。」

「オレ知らねーかんな。」

「じゃあ大ちゃんはなまえのお道具箱の中漁る役ね。」

「ふざけんな!」

「なんでよ!だってもしかしたらラブレターしまってるかもしれないじゃない!」


 相手がわかったらこちらも傾向と対策を練れると言うものだと主張すると、だったらもういい!尾行してやんよ!と意味の分からないキレ方をする。そんな大ちゃんになまえのことがすきなのかと聞いてみたところ、ふざけんなブス!と猛烈に否定されたのでニヤニヤと笑ってあげた。


「で、尾行はいつすんだよ?」

「思い立ったが吉日でしょ!今からするの!」

「もう4時だから、あいつ帰ってんぞ。ははは、ばーかばーか。」

「…明日やるからね。とりあえず今日は大ちゃんのママにいいつけるから。」


結局、大ちゃんのほんとのところはわからないままだ。




ちょっと続けてみる。
title by 休憩
20140228
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