効率が悪いからよ。



 セミがジワジワと鳴いていて、聞いているだけでも体力が減っていく。まるでポケモンの毒状態。どうやら今年の夏は最高気温を更新したらしい。去年も一昨年もそんなこと言っていたけど、来年は一体どうなるんだろう。もう結構身体がついていけてない。うちの中でも一番薄暗くて陰気で涼しい御堂ですらこの暑さなんだから、日なたは干からびるんじゃなかろうか。
 救いなのは、体操教室をもうすでに終えて帰ってきたという点だ。日の昇りきる午前にやらないと死んじゃう。


「なまえー、大ちゃんとさっちゃん来たよー。あとお昼ー。」


 わたしのいる御堂と隣接する母屋からママの声が投げかけられた。畳から縁側まで這い、光を遮る木の戸を開ける。途端にもわっとした暑い空気と焼けるような日差しがこちら側に入り込んで頭がくらっとした。日差しが眩しすぎて目がチカチカする。ママの質問に、あーい…。と返して、わたしの体力は力尽きた。あっちい。基本、うちでは作務衣か甚平を着るのだけど、それでもあっちい。


「なまえ、なまえママが呼んでるよ?今日のお昼素麺だって。」


 ふらりと現れて、わたしの真上に陰を落としたのはさつきであった。視線だけ彼女に投げかけて、なんでいるの。という目をすれば、大ちゃんとわたしもお呼ばれすることになったの。とのこと。


「今日遊ぶ約束してたっけ?」

「何よぅ、約束してなきゃ遊んじゃだめなわけ?だいたい今日は遊ぶんじゃなくてお勉強ですぅー。夏休みの宿題やろうと思って。」

「大丈夫。わたし、一日のノルマ決めてやってたから終わったもん。」

「あなたは大丈夫でしょうけど、大ちゃんは大丈夫じゃないの。」

「1回痛い目見させたらいいんだよ。」


 さつきが甘くするから、あいつはいつまでもだらけてんじゃないの。わたしが言えば、でも、ほっとけないし…。と口ごもる。さつき、とわたしが溜め息をついたとき、更にわたしを覆う陰が濃くなった。


「おいなまえ、お前漢字ドリルと計算ドリルと読書感想文担当な。オレ自由工作でさつきは日記だから。」

「誰の宿題ですか。」

「オレの。」

「ふざけんな。担当じゃねーよほとんどわたしだよ。」


 激しく不愉快であるとの意を顔に表すと、じゃあオレはどうすればいいんだよ!?あと3日ないんだぜ!?と怒られた。いや3日あるだけましだろ。去年お前前日に行ってきたし、その前は始業式に言ってきたじゃねーか。


「母ちゃんにも見捨てられたし、もうオレにはお前とさつきしかいないんだって!」

「なまえ、大ちゃんさっきからずっとこうなの。」

「……自分がいるだろ!」

「バカお前オレが勉強できるわけねーだろ!」

「胸張るな!」


 あーもー…、とうなだれて、算数ドリルのページごとの1問目は自分でやって。あとは写していいから。と溜息をつくと、小さい声で、っしゃ!と言っている声が聞こえた。なんだかそれがとてもうざい。さつきが手伝ってくれるんなら漢字ドリルやってもらって、あんたは今から本読んで。本は選んであるんでしょうね?と眉をひそめると鼻で嘲われ、ないに決まってんだろ。と言い切った。なんで今わたしは鼻で嘲われたんだろうか。意味が分からない。


「じゃあもううちにある月刊アメフトのコラムでも月バスのコラムでも、最悪世界の偉人の伝記漫画でもいいから選んできて。」

「じゃあお前はなにすんだよ?」

「わたしはお前の夏休みをあんたのママから聞いて日記にできそうな3日分を文にする役。絵と字はご自分でどうぞ。」

「自由工作は。」

「自由研究でもいいだろうから、わたしが1年生のころにつくったカブトムシの成虫と幼虫の解剖図の使い回し。」


 ごろごろして立ち上がるための気持ち作りをしていたら、とりあえず飯食おうぜ飯。とすっきりした顔で言ってのける。もう一度ママに呼ばれたので今度はさっさと体を持ち上げた。


「でもよー、自由研究使い回すったってクオリティで下級生ってバレんじゃねーの?」

「何言ってんの大ちゃん。1年生のころのなまえよりも字書けないし汚いじゃない。」

「だいきの今のクオリティには勝るとも劣らない立派な作品だから問題ない。」


 第一、やってもらう分際で一々文句言わないでくださいー。ふんと鼻を鳴らしたら、オレなんか3日後誕生日なのに、とんだプレゼントだ。などと宣ったので、だったら夏休みの序盤にやればいいじゃん。と叱咤した。来年はわたしの監視下で夏休みの宿題をやらせようと思う。




なまえは夏休み序盤に終わらせる派。
title by パッツン少女の初恋
20140223
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