別に、純粋なふりをしたいわけじゃない。



「あーむりむりむりむり。」

「そんなに気嫌わなくてもいいと思うけど。」

「いやー、むりだね。わたしにはむり。」


 そういう話題だってわかった瞬間のわたしの顔のひきつりと言ったら!となまえは手と首を振った。
 まあ、大学生なんだし普通なんじゃん?女の子もまあ興味がないわけじゃないってのは話に聞いてたから、オレはそこまで驚かないかな。オレがストローでメロンソーダを飲み干すと、しれっと経験値自慢しないでくれます?不愉快。と返された。してねーっつの。
 夜も深くなってきた21時過ぎ、オレとなまえはファミレスで惰性を貪っていた。ゼミ合宿を終えたなまえが浄化されたいとかいう謎のラインを送ってきたので、オレの練習後落ち会ったという次第である。え、浄化ってオレでってことっスか。どちらかっつーと、お前の方が汚れなき世界謳歌してるでしょ。
 オレがドリンクバーに向かおうとすると、あ、わたしカルピスソーダ。とコップを押し付けられる。お前なあ、と脱力するころには既に彼女は店員さんを呼んでハンバーグを頼んでいる。2皿目だ。太るぞ。と言おうと思ったけれど、太ったら太ったで運動するから関係ないとでも言い返されそうだ。店員さんと目が合うとにこりと笑われた。このオレにそんなアピールが通用すると思うなよ。


「なんでそんなにつっぱるんだよ。」


 カルピスソーダを目の前に置いてそう問うと、いや、ふつうに恥ずかしいじゃん。と考えを纏めるかの如く両手を組んだ。ゲンドーだゲンドー。青峰っちと一緒になって下ネタ言えんのに何が恥ずかしいというのか。謎である。


「だ、だって、こう…なに?どう、どのくらいでその付き合ってから受け入れる期間になったとか、お互い初めてだからよくわかんなくて修行期間があったとか、結局何をどう以て終わりなのかって話だよ…!?しかも、食事の席で別の女の子が男の子と、その、したことない?男の人?をあててく山手線ゲームですよ。わたし、わたし、」

「経験ないからわからない?いたたまれない?どんな顔したらわからないから聞いてないフリ?」

「言わないでえええええ…。」

「いやオレに言わせないでっていう。」


 結局なんなの。したい?オレは今からでも全然いけるかな。と完全におふざけでウィンクしながら軽口で伝えれば、まさか。と白目をむかれた。まあそうでしょうとも。自分がどう見られているのか他人の目を気にしない態度から、まあ自分だけが純粋ですってアピールではないとは思う。その可能性は彼女の計算高さならなくはないけど、だったら、なまえ今ラーメン食べたい期間ー♥とか言って週5でラーメン食べに行かないし、ラーメンにニンニクなんかいれないだろう。つーかその顔は女じゃねーよ。女っていうか人外。


「女の子が、その、ど、どうてい?をさ、」

「一々知らないフリしなくていいから。」

「うるさいな。こっちははばかられるんだよ、あんたと違って恥じらいがあるから。
で、女の子がばかにしたように言うとさ、わたしもともにへこむというか。うん。女子ってそんなに見下して生きていたんだと思うと、うぅん。」

「なまえって女の子なのに女の子のことオレより知らないもんねー。」

「ほんとうるさいな。」


 なんか今つきあってる人いるかって聞かれたときテンパりすぎて付き合ったことないって言っちゃったし。と彼女が言うもんだから、ちょっと口元が引きつった。何そのイケメンに出会ったときのビッチ系態度。そんな器用じゃないだろ。つか浮気反対派じゃん。
 そっぽを向いてオレと同じく頬杖をつき始めるなまえに、じゃあ別れるの。とふてくされれば、全然そういうんじゃないんだよぅ。と目を合わせることなく顔を伏せる。ちょっと拗ねててなんとなくかわいかった。どうせオレが本気でそういってるわけじゃないのをわかってる。
 そこそこ馬鹿だけど、りょたみたいな好物件に勝るお住まいはないんです。馬鹿だけど。もはやわたしには住めば都感満載なんだって。機能性利便性悪いのに、なんかいいんだよね。景色だっていいわけじゃないんだけど、この狭い窓から見えるごちゃごちゃした街並みが落ち着くわーみたいな。と結構ガチな顔したなまえはそんなことを言ってのけた。彼氏を住宅に例えるなよ。ていうかオレの例え絶対ボロアパート賃貸だし。一応モデルだぞ、高層マンションにしろよ。


「まあ、話戻すけど、ただ、わたしにはちょっと理解できなかっただけってはなし。結局最終的に修行期間を設けた友達はその人と漠然と結婚したいなって思ってるって話になってほんわかしたからさ。いいなって思ったわけ。」

「それでオレに会いたくなっちゃったわけ?」

「………ぐ、うん。なんとなく、会いたくなったっていうか…うん。」

「……。」

「ちょっと、黙らないでよ!」


 口元をおさえて俯いたら彼女が焦った。だめだ、今のはだめだ。俯いたまま、こっそりなまえの顔を見たら真っ赤だった。レアだ、超レア。シークレットレア。
 見たのがバレたのか、バシッと頭を殴られた。いってえ!と頭を抑える。なまえの顔は、ばかにしないでよと言ってるようだった。彼女は、自分の本心とか弱みを知られたくない人だから、本音を言ったことでオレに笑われたと感じたのだろう。
 ふう、と溜め息を吐いてから、むっとした顔を潜めた。彼女は悲しいことや傷つくことを言われると受け流すようにするのだ。だからと言って傷ついてないわけじゃないのだけれど。


「違う。馬鹿にしたんじゃないから。」

「もう知らない。」

「かわいいって思ったんだよ、本当に。」

「あなたは簡単にそう言えるからいいでしょうよ。」

「(あちゃー、)」


 どうやら本格的にへそを曲げてしまったらしい。わかりやすく目の前で機嫌を損ねるのは、限られた人間にしかしないんだからちょっとうれしくなってしまった。そんなオレを見た名前が余計にむっとする。そんな中、漸くなまえの頼んだハンバーグが来たんだけど、彼女はいらないとつっぱねた。オレ、食べちゃうよ?と聞いたら、どうぞ。とそっぽを向いたまま返される。その目は少し恨めしそうにハンバーグを見ていた。もう一回は聞いてやんない。素直ならないやつへのちょっとした罰だ。先程の店員さんがまだ傍についていたので、あ、注文以上ッス。と笑っておく。


「ほーらほーら簡単にきれいに笑っちゃう。デルモデルモー。」

「それで食ってるとこもあるんで。」


 敬語やめて。なまえは口を尖らせてカルピスソーダに口を付けた。なまえは、色々考えるけど口下手だから、どうすればいいか、今、必死でぐるぐると考えているんだろう。突如彼女は、いいなあ。と呟いた。窓の外で四人家族が手をつないで歩いていた。


「なまえ、オレ、大学卒業したらなまえと結婚したいんだけど。」

「え。」


 オレの攻撃は届いたらしい。なまえとようやく目があった。彼女は、口を引き締めて目をきょろきょろとさせている。キャパシティーオーバーなのかも。
 もっかい頬杖をついて、ニヤニヤしそうになるのを抑えながら彼女を眺めていると、だめ。と彼女は顔を伏せた。
 ちょっ、え、ええ!?雰囲気とタイミングは別として、自信がちょっとあっただけに戸惑いを隠せない。一口大に切った最後の一欠片ハンバーグを口元に持って行く途中で固まった。え、なに、なんで?


「友達が結婚したいなーって思った途端に倦怠期くたらしいから、だめ。もっと遊ばなくていいのかなとか、ほんとうにこの人でいいのかなとか思うらしいよ。」

「えっ、」


 もうマリッジブルーなの?確約もないのに?と驚きを表せば、…あの、笑わないでよ。となまえが前置きした。しないよ、今更。だってお前こっそり拗ねるじゃん。と肩をすくめたら、りょたに言われたくないんだけど。じっとハンバーグを見ていた。


「ほんとうは、迷わず、はいおねがいしますって言いたいくらいには、その、すきではあるんです、よ。はい。」


 ぽかんと口を開けていたら、おかしいなと思ったらしいなまえがスマホを取り出す。カシャ、と音がして、あほっぽい黄瀬涼太ってやっぱ高値なの?とか言いやがった。うれしいのと恥ずかしいのと、やっぱうれしいのが混ざって顔が熱くなって照れ隠しに最後の一欠片をなまえにそのまま差し出したら写メってからパクリと食べる。その顔の幸せそうなことといったらない。


「ほんとは食べたかったんだけどねー、りょたがほんとはもっかい食べる?って聞いてくれることを期待したんだけどなあ。あ、このあーん画像絶対いいと思うんだけど自分から見てどう?」

「……オレ、こんな緩い顔してんスか。」

「わたしの前で雑誌みたいな顔したことないですけど。」

「そりゃそうだけどさ。」

「そうなんですよ。いいじゃん、キリッとしてるのもまあ如何にもイケメンアピール強いけど、ぼけっとしててもイケメンってことがわかって。撮影ん時、睫毛ってマスカラしてるの?」

「してないよ。オレ、睫毛なげーもん。つか男はモデルでも俳優でもしないんじゃねーの。」

「そっかあ。いいねマスカラいらず。きっとかわいいんだろうなあ。」

「えっ、」

「え?」


首を傾げたなまえがオレの緩みきった顔を黙視してから、ああっ!ちがう!ちっちゃい頃!りょたのちっちゃい頃の話!と声をあげるのは店を出た10時過ぎのことである。




なにがやりたかったのかわからなくなりまして。
title by alkalism
20140218
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