ばかね、ちょっといい気分になりたいだけよ。



 なるべく膝を曲げ伸ばししないように片足でケンケンして前へ進む。地面に片足が着く度に、もう片方の足がじんと痛い。5時間目の体育のドッジボールで結構派手に転んで出来た傷だった。皮がめくれている割に血は出てないものの、強打したからか赤く腫れている。明日には真っ黒いあざになってることだろう。
 せんせー、シップー。と保健室の扉をあける。返事はない。出払っているようだ。その代わり、だいき?どしたの?と奥にいる2つの黒い頭のうちの一つが声をかけてきて、思わず、おわっ、と声が出た。


「なんだ、なまえかよ。気配消しやがって、びっくりしたじゃねーか。」

「いや消してないし、だいきが気づかなかっただけじゃんよ。」


 うるせーなあ。頭をかきながら、鉛筆と治療届を手に取った。3年3組青峰大輝と雑に書いて、どこをどうケガしたか、どんなことをしてほしいかをちょっと考えてから、みぎひざうった、しっぷと書き込む。
 ぶらぶらと少し歩きながら薬の入ってる棚を物色してると、大輝、おまえなにさがしてんの?となまえよりも低い声がオレを呼んだ。去年同じクラスだったやつ。なんだっけ、そう、田中ヒロ。みんなのまとめ役でムードメイカーで、だけど意外と責任感があって、サッカーがうまくて割と、ていうかだいぶ女子からモテるやつ。オレより足おせーけど。


「大丈夫かよ、ぼーっとしてさ。もしかしてオレのこと忘れてる?ヒロだよ、田中(ひろ)。去年同じクラスだった。」

「お、あたった。」

「はあ?」

「いや、わり。シップ探してんだよ。そーゆーお前こそなまえと何してたんだよ?」


 もしかして人に言えないことしちゃってた?とこの間の保健の授業を思い出してゲラゲラ笑うと、いや、えっと、とヒロは言いよどんだ。
 おいおいまじかようそだろ?一気に体温が下がって、口がひきつる。だってオレ達、まだ小3じゃねーか。大人になるまであとはんぶん以上あんじゃねーか。戸惑うオレを見て、漸く話の流れを理解したらしいなまえが、違うよ。と困ったように笑った。


「田中くんてば、自分のへまを人に知られたくないだけだよ。」

「違うって。体育始まる前にさ、コウダイとサネとオレで朝礼台で遊んでたんだよ。そんでふざけて押し相撲してたら落ちて、栗田が滑り込んで助けてくれてさ。」


 それを聞いてオレは、ああ、よくあるやつだ。と息を吐き出す。あいつは自分と関係の薄い人間に興味がないようでよく周りが見えてるから、食いたいアイスを選ぶのは遅いくせに、ヤバいってときにこそ判断が速いのだ。今回もそういうことなんだろう。しかも、例によってちゃんとすり傷をこさえていた。
 責任感の強い田中ヒロはその傷を手当てしなければと思って一緒にいたらしい。だけれども、如何せん自分のせいで出来た傷なので、オレに普通に言うのは反省してないと思われるんじゃないかと考えて口ごもった、というわけである。めんどくせえ考え方だなと思った。


「お前案外めんどくせーな。こいつの救出劇なんざ珍しくねーし、こういうケガなんかその度してるし、しょっちゅうだぜ?一々気にする必要ねーよ。」

「お前は逆にもう少しわたしに気遣えばいい。」


 ふざけんなハゲるわ。お前の父ちゃんみたいに。と鼻で笑えば、あれは剃ってんの!とこっちを睨んだ。ヒロが、まあまあ、と間に入る。大輝も栗田の隣座れよ。ついでにやってやる。と背中を軽く押されてなまえの隣にドサッと座った。なまえは不愉快そうな顔をしていた。


「うわお前気持ち悪!」

「うるさいうるさい。」

「ほらな、オレじゃなくても責任感じるだろ?」


 なまえの左腕は大きく擦り剥けていて血塗れだった。ヒロがそれにガーゼを優しく当ててテープを貼ったあとにネットを被せた。まあ、たしかにこれは責任感じるかも、とは思ったもののなまえの反抗的な態度に少し腹が立ったので、気にする必要ねーって。と答える。いやー、気にするだろ。とやつは頭をかいてからシップを手に取った。


「自分のせいで大怪我したら、結構しんどいよ。それで栗田のすきなことをできなくしちゃったりしたら、なおさら。」


 できた。と言ってヒロがオレのひざを叩く。骨に響くような痛みが広がる。いってえ!おまえバスケできなくなったらどうすんだ!と怒鳴るとやつは眉根を寄せて、そういうことだよ。と苦笑した。


「オレ、そろそろグランド戻るけど2人は?」

「サッカーだしなー、ケガ関係ないし戻る。」

「どっちでもいい。」

「出ろよばかたれ。」


 ほら、肩貸してあげるから。となまえが目の前でしゃがむと、いやオレがやるよ。とヒロが代わる。


「ありがとう、だいき大きいから大変でしょ。」

「ああ、うん、別に平気。」

「あと手当てもありがと。」

「オレも、助けてくれてありがと。」


 田中くん気にしすぎ。だいきと正反対だね。と笑うなまえに、ヒロでいいよ。大輝みたいに。とあいつはそっぽを向いた。あーあ、やっぱサボりゃよかった。



時系列バラバラでいろいろしたかった。
title by 金星
20140217
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