※中学生の話。
※新羅くんは療養中。 「男って、ひどいねえ。」 隣でお弁当を食べているなまえが、何かを悟ったように呟いた。結構な衝撃が俺の後頭部に走る。どういうこと?と、たった一つの言葉で俺の精密な脳が一気に起動したが、脈絡も何もなく、いきなりだったから流石の俺の脳も熱暴走を起こす。一体どういう意味だ、それは。そんなことを考える出来事が起きたのか。 「…何、別れたの?ていうかなまえって、誰かと付き合ってたっけ?俺、聞いてないよ。」 「え?わたし、臨也にほうこくしなきゃいけないの?どうして?」 真っすぐな瞳に、情報が入ってきてないって意味で、聞いてない。だったのに、…家族も同然の付き合いしてきたじゃん。と苦し紛れに言い訳した。そっか、幼なじみにはほうこくが必要だよね、やっぱり。と彼女が言う。 「つか、え、ほんとに?冗談じゃなくて彼氏、いたの?」 「あ、ううん、わたしじゃないよ。」 わたしの、ともだちの、ともだちの、はなし。 すこし焦った俺を見て、なまえがくすくす笑った。彼氏ができたら、臨也とは食べれなくなっちゃうね、ごはん。と俺のメロンパンに噛み付く。 もぐもぐもぐ、ごくん。喉に詰まったのか、これまた俺のブリックパックのコーヒーを無断で口を付けて、ごくり。 彼女が飲み食いするものはなんでも美味しそうに見えるから不思議だ。なまえは重いからと水筒は持ってこなくて、なのにお金は使いたくないからとわざわざ飲み物なんか買わない。別に、文句はないのだけど。 「にが、また無糖じゃん、これ。わたし、あまいの買ってって言ったのに。」 「文句言わないでよ。俺のを勝手に飲むなまえが悪い。」 何とも言えない顔で、だって、メロンパンに水分うばわれた。とごにょごにょなまえが言うので、メロンパンも俺のだよ。と言うと罰の悪そうな顔で、でも嬉しそうに、おいしかった。それ、すき。と笑う。今度、また、買ってこようかな。頭の中でふんわり思った。 あのね、でね、さっきのつづきなんだけどね、なまえが顔に影を落した。友達の友達の話だっけ。と首を傾げれば、こくりと頷く。 「どうしてそんな顔するのさ、友達の友達ってことは半ば他人じゃない。」 「たにんじゃないよ、ともだちのともだち。あと、クラスメートなの。」 「女の子の方が?」 「うん、おんなのこの方が。あ、ごめんね、どっちか言ってなかったや。」 主語を言い忘れるのは彼女の癖だ。よく友達に注意されるのだろう。俺は付き合いが長いからか、わかったりする。いいよ、別に。俺はわかるから。と言えば、さすが。となまえが口を弛ませたので、少しそれに優越感を覚えた。 「それでね、わたしね、あんまり話したことない人と話せないでしょ?」 「うん。」 「そのこ、わたしがそういうのかわかってたのかわからないんだけど、いっぱい話しかけてくれたの。いいこなんだよ? なのに、つきあってたこにフラれちゃったんだって。」 別れるってなったら、フる側が生まれれば必然的にフラれる側が生まれるものだ。自然消滅だったら違うけど。まぁ、統計的に見れば前者の方が圧倒的に多いのだろう。 俺が、よくある話じゃん。と言う。なまえがそれに、よくあったら、いやだなあ。と言う。 「だってほら、わたしのイメージだからあれだけど、おんなのひとって別れ話切り出して、向こうが嫌だとかそんなこと言わないでって言ったら、ごめんね。って言って去るパターンが多いでしょ?おとこのひとが何も言わなかったらそのまま別れるし。」 「まぁ、そうなのかもね。じゃあ男はどんなイメージなの?女の子が泣いて縋ったら?」 「めんどくせえ女って、はきすてる。」 「さっぱりそのまま何にもなく別れたら?」 「そっけねえ女って、はきすてる。」 「それ、すごい偏ってるね。」 「え、でもあたってるとおもうんだー。」 「……あの、俺もそれに当て嵌まってるの?」 「………折原臨也ってぇー、この間〇〇さんとヤッたらしいよー。ええ?この間Bさんじゃなかった?えーCさんだって俺聞いたー。噂じゃ来るもの拒まず去るもの追わずだって!百人斬り!切るって言えば、岸谷って折原に刺されたから今休んでるらしいよー。え、こわっ!まぁでも格好いいからねー、見る分にはモデルより目の保養目の保養。頭いいしさあ。ゴミのように女捨てるらしいけど、それでも一回付き合ってみたいよねー!あ、なまえなまえ!あんた小学校から同じなんでしょ?羨ましい!どうなの噂本当なの?あ、でも一緒にお昼食べてんのこいつだけだからなー、案外お前も餌食になってたりなー。 というのがよく耳にはいるのですが、わたしはどうしたらいいのでしょう折原くん。」 「ちょっと、他人行儀な言い方やめてよ。」 「とりあえず、餌食じゃないよ。ごはん食べてるんだよって言って、小学校からじゃなくて、幼稚園の前からだよって言っといたよ。」 隊長、わたくしめの使命は果たすことが出来ました!と言わんばかりに胸を張った。答えになってないけどね。と言えば、うん、みんなにも言われた。と一言。そして、あ、はなしずれちゃった。と空になったお弁当を片付けだした。 「あやこちゃん、すごいないててね、わたし、あんなによくしてもらったのになにもいえなかったの。薄情だなっておもわれたかも、しれない。 わたし、あんなにぼろぼろになったのはじめて見て、びっくりした。恋って、こわいんだね。」 ぱたん。ふたが閉まる。恋は盲目って言うしね。と言うと、きゅ、といつもより強くナフキンが縛られ、本当にそのとおりだね。だって、どんなにひどいことするひとでもよく見えちゃう。となまえが言った。別に、他の人のことなんだから深く考えなくてもいいのに、泣きそうな顔だった。 「だからね、わたし思ったの。」 「何を?」 「臨也も、そうだったら、いやだなって。」 「え…?」 「おんなのこをきってすてるようなひとは、いやだもん。臨也はすきだから、そうだったらどうすればいいんだろうって。」 「……。」 「いざや?」 なんていう爆弾を投下してくれたんだ。うわ、なにこれ、恥ずかしい。なんでなまえは恥ずかしくないの。あ、そうか、別に俺に異性感じて言ってくれてるわけじゃないんだ。臨也はすきだから、の前に、幼なじみとして、が入るのか。そうかそうか、ちくしょう。でもうれしい。死んじゃいそう。いや、今死んだっていい。あ、やっぱりダメ。死んだら会えなくなる。それになまえがこの先どうなるかわかったもんじゃない。 「いざ、」 顔を上げてこれ以上喋れないようにメロンパンを口に押し付けた。声、聞くだけで、今なら心臓破裂も夢じゃない。望んでなんかいないけど。 赤くなった顔も見られたくなかったのでついでに目も塞ぐ。 「俺、行きも帰りもなまえと同じだし、昼も一緒だから、そんなことできるわけないから。」 「ひって、う。むむ、」 なまえは、俺がどんな心境かなんてわかるはずもないだろう。そんな状況に暴れることなく口を動かしてメロンパンを食べはじめた。 「やっはいこえ、おいひいね。」 「(あ、余計しくった。)」 餌、あげてるみたいで、ちょっと卑猥な考えが過ったのは思春期ということで許していただきたい。 なあに、これ。しかし奥手おいしいよもぐもぐ。 ちなみになまえちゃんは、どうせさしたの臨也じゃないんでしょ?どうして自分のせいにするのかわかんないや、へんなの。っていう認識。 あ、そうだ奥手って、いいよね。 title by パッツン少女の初恋 20110727 |