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「(…見つけた。)」


主語は勿論この間の女のことだ。見た目と実年齢とは裏腹に、妙な考え方をする女。死のうとしてた割にあっさり、俺の提案をばっさり切り捨てたのはつい先週の事だ。
名前は綏。歳は今年で18になる来良の新高三で俺の後輩にあたる。友人は不特定多数。敵対する人間は特になし。成績は中の上。英語が足を引っ張っているようで、それが下の下。身長体重その他スリーサイズは流石に俺から公開するのは止めておこう。話せることは彼女が平均よりも大分小柄だということだ。
一般的な家庭よりも少々家計に余裕のある普通の女子高校生、しかもあの夜は来良の学生服だったから簡単に調べが付いた。恋人がいた事がないというのは、東京の女子高生にしたらどちらかと言えば珍しいのだが、別段目を見張るようなおかしさはない。

その彼女は今、友人と思しき女の子と共に池袋駅に沿って南に歩いていく。普通の人間だ。あの夜の会話がなければ、一生俺の目に止まることなく過ごしていただろうと思える程に、寸分の狂いもなく。
普通の制服に表情、体型、エトセトラ。話し方…は少しのんびりしているが、どうでもいい。俺の興味を惹くようなものでもないだろう。


「うわあ、」

「ちょ、綏、轢かれる!車めっちゃ来てんじゃん周り見ろ!」

「びっくりした…。ごめんごめん。ありがと。」


「(…おいおい、)」


ブロックの上を歩いていくのが好きらしく、電柱や電灯を避けるためふらふらと覚束ない足取りで歩道から出たり入ったり。車道の車に気付かずに、そのままそちらに出ようとしたのを友人が腕を引っ掴んで止めた。
よくまぁ今まで生き延びれたと思うほど危なっかしい。一瞬、自殺はしないんじゃなかったのかと疑いたくなった。こっちが冷やっとする。

じゃ、うちこっちだから、お前も頑張れよ。その前にちゃんと周り見ろよ。と友人Aが彼女に手を振りルミネの中に入って行って、んー。と彼女は生返事をして手を振り返した。その場から離れながら来良のブレザーのポケットに忍ばせておいたらしいiPodを装着する。地面に目を向けて、またもやブロックの上を歩く。今度はちゃんと電柱に出くわせば、車道に下りずに歩道の内側を歩くあたり学習はしているようだ。

彼女が一人になったところで追い付こうと少し足を速めた。目の前の信号がチカチカと点滅しだした。あそこで引っ掛かるな。と思って速度を緩めるのだが、どうも彼女の脚は同じテンポで動かされている。


「(いやいやいや、まさか、そんな、馬鹿な。嘘…だろ…?)」


赤い光に、変わる。
俺も人間だ。周りの人間には悪人としての認識をされる割合が高いが、人並み程度には良心だってある。まぁそれも、一個人というよりも人間全体に向けられるものなのだけど、ないことはない。
早く引き止めてしまおうと、踏み出す女に駆け出して右手で彼女の両目を塞ぎつつ行く手を阻む。意外と力を込めて引き寄せたせいか、彼女はバランスを少し崩し、俺の腹にリュックがぶつかった。


「わ、わ…、え!?」

「だーれだ?」


耳にはまっていたイヤホンを外し、声が聞こえるようにと屈んで聞けばビクッと肩が跳ねた。


「え、あ、えぇと…川原くん?」

「残念。」


他に思い浮かばないんだけど…。と俺の手を彼女は外そうと手を重ねるので抵抗せずにふわりと外した。
耳に囁いたのが悪かったのか、俺の存在を確認できるようになった綏ちゃんの目は明らかに動揺し、少々警戒している。あぁ、この子、耳弱いんだ。こんなにはっきり反応する子なんて珍しいなあ。なんて思ったり。
余りにも彼女が萎縮していたので、敵意はないという意味を込めて両手を上げた。


「や。」

「よかった…変質者かと…。お…お久しぶり、です…。間違えちゃってすいません。」

「まぁ一回しか顔を合わせてないんだし当たる確率の方が低いから。」


気にしてないよと顔を窺ってきた彼女に笑い掛ける。すると、そうですか…。とほっとしたように微笑んだ。警戒するのはいいけど、解くのも早いなと思う。まぁそれも面白いのでいいけれども。


「それよりダメじゃない、ちゃんと周り見なきゃ。俺が気付かなかったら轢れてたかもよ?それともわざと?ひやひやさせるなあ。」

「はは…わざとじゃないですよ、痛いの、嫌ですから。あの、助けてくださって、ありがとうございます。」


これで二回目ですね。と彼女は言った。会うのは確かに二回目だが、話の流れからすると“助けられた”のが二回目、と言うように聞こえる。前回彼女を助けるような事したかな。と首を傾げたらそれに気付いた綏ちゃんが、あぁ、と笑う。


「奈倉さんに悩みをちょっと話したら、あの時だけ、ちょっとましになったんですよ。」

「へえ、それはよかった。」

「あの時は相当決心して会いに行ったから死ぬ覚悟はあったんですけど、」


お陰さまで臆病者に元通りです。
複雑そうに笑う。まるで、今でも死について考え、悩み、自己嫌悪に陥りながらも生に縋り付きたいというような顔だ。
普通の中の違和感。それがこの女に何度も感じる些細な矛盾。本能的に感じる歪み。俺が興味を持つ大本の理由。


「じゃあ、私はこっちなんで…。」

「あぁ、塾通ってるの?何時から何の授業?」


勿論それももうとっくに調べが付いているのだけど、ここでタイミングを逃すとまた仕事を詰めて時間を開けなきゃならない。それはそれでいいんだけど、面倒だ。

そんな俺に対して、五時二十分から英語ですけど…どうかしました?と首を傾けた彼女にとある提案を出す。あと三時間くらいあると、少し話さないかと。
第三者が聞けば気味の悪い誘い文句だっただろうけれど、他に言い様がない。彼女も大して気にしていないみたいで、予想通り綏ちゃんは、あー…えぇと、と口籠もる。


「すみません、予習しなきゃなんです…。英語は特に苦手なので。」


勿論この間と同じような台詞で一蹴されたのだが。


「予習程度なら教えようか。こう見えて俺、結構出来るよ?」

「こう見えて、っていうか…奈倉さんは普通にしてても出来る人って感じです…。教えてもらえるのは、おいしいなあ。」


そう唇に人差し指を当てて悩む姿の方が一般的な男にとってはおいしい状態だと言うのは黙っておく。


「じゃあそれでどう?…綏ちゃん。」


笑顔でもう一押しすれば、案の定彼女は目を丸くした。それから、どこからそういうのって、漏れちゃうんですか…。と溜息を吐きながら苦笑する。


「企業秘密、かな。」

「…、…えっと…それは、三十分前には返してもらえますか…?」

「全く構わないよ。」

「図々しいかもしれないんですけど、その…、お店、私が行きたいところでもいいですか…?」

「勿論、どうぞ。」


じゃあマックでお願いします。なんて言う彼女は、本当に何処まで底知れないんだろう。


「(人が多い所を選ぶなんて、本当、賢い子だなあ。)」

「(あ、失敗したな…塾とマック逆方向だった…。遠い…。)」



あいた

(見つけたのは風穴かもしれない。)




長くなったので分別。二つで一つみたいなものなのでタイトルに意味はありません寧ろ後半こっちにしたかった。
でもそれでは寂しいので空いたと会いたとか、あ、いた。とかそんなんかけてるとでも思ってください。

一応りあるにしようと塾参考は綏ちゃんがかわい。友達とうしん。



20110512
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