アガパンサス | ナノ
今日は12月17日の深夜と言っても過言ではない時間帯(まだ日が変わって10分も経っていないが)
つまるところ今日の朝に睡は発つわけで、学校はあるが、彼女が“仮に航空に着いたとしても”ターミナルで迷うだろうことを考慮して見送ることにした。
早く寝なくてはならないことくらいわかっていた。が、どうやらそう簡単にはいかないらしい。
この前、睡の思った通りにすればいい、とは言ったものの、当の俺がこれだ。情けなくて笑えてくる。
アホくせ…。と脳内で呟き寝返りを打った時、カチャとドアが開く音がした。



「し、しんすけくーん…しんすけくーん…。おーきーてーまーすーかー…?」



寝よう、ただでさえ朝出るの早ェんだから。つーか何がおかしくて危険を犯そうとすんだテメェは。そして今はもう今日なんだよ、明日じゃねんだよ起きんの。狸寝入りを信じて諦めろ、そして戻れ。寝ろ。

帰れ帰れと念じて念じて念じて念じる。俺にとってはこの状況、確かに逃したくはないが出来れば早急に戻って欲しい。
むしろ状況的に逃さなきゃなんねーんだよ。別にいい歳して朝起きれないわけでもねェし、ヘタれてるなんざ以ての他だ。童貞じゃねえふざけんな。
コイツだけは、暫く会えねーからって誰が流れでやるかってんだ。



「…やっぱり、寝てますよ、ね…?」



俺の念が奴に届く筈もなく、睡は俺が寝てるとわかっていても寄ってきた。俺の横に座って髪を触る。
お前はいい加減、危機管理能力を身に付けろ。自分を好いてる男の部屋にノコノコ暢気にやって来て髪梳く奴がいるか。



「超絶びしょうね…美青年ですな、いつ見ても。…眉間に皺、なければいいのに。」



お前のせいで堪えてるからだけどな。

暫くは見納めかぁ…。と呟き、何かに気付いた睡は髪から手を離す。ひんやり冷たい手で俺の腕を掴んで持ち上げた。
力を抜いているから重いらしく、必死だ。何をしたいのかわからない。



「この手も暫くおあずけか…。」



あったかい…。と俺の手を自分の頬にくっつける。薄目を開けて見ると睡は目を瞑っていて、安心するのになぁ。と呟いた。
自分の唇が弧を描くのがわかったが、いきなり睡が目を開けるから何故か焦って目を閉じた。何してんだ、俺。

また沈黙がやってきて睡の左手が動く。顔の前で一瞬止まった。



「…

ていっ。」


「テメ…ッ!!」


「ひぃっ!」



事もあろうに奴は皺が入っているはずの俺の眉間を人差し指で押しやがった。
人の気持ちも知らねーで。とカチンと来て、頬にあった手で腕を引き、もう一方で悲鳴を上げるであろう口を未然に塞ぐ。近所迷惑はこれで防いだわけだ。

フーフーと、どうやら驚いたらしい睡が鼻で荒く息を整える。手を離せば、ぷはっ。と息を吸い、上下する胸を撫で下ろした。



「あー…、心臓、止まるかと思いました…。」


「自業自得だろ。お前もお前で何しやがる。」


「え?だって晋助くん面白いんだもの。たまには私も優位に立ちたかったんですよ。」



いやぁ死ぬかと思ったんですけど飛び起きる晋助くんなんて珍しいもの見ました。と目を輝かせる。
あまりいい気分ではない。それが顔に出たのか睡は笑いを漏らした。



「やっぱり起きてた。」


「…知ってたんなら先言え。」


「じゃあ言いますけど、晋助くんね、寝れないのに眠ろうとしてたりとか寝たフリしてるとき、絶対眉間に皺寄ってるんですよ。」



こんなですよこんな。と目を閉じて出来るだけ厳い顔をして眉間に皺を作る。一言で言うならば、ガキの拗ねた顔。



「アホだ、アホがいる。」


「お世辞でも怖そうとか言おうよ!」


「仕方ねェだろ、どう見てもテメェは立派な雑魚だ。おめでとう。」


「嬉しくともなんともないですからね。確かにさ、私そんなさ、わかってますよ。晋助くんに比べたら虚弱もいいところですもん。」



知ってます知ってます。と溜息をついた。わざわざ、誰と比べてもだろ。と追い討ちをかけるほど俺は馬鹿ではない。



「雑魚でいいと思うがな。」


「え、嫌ですよ。なんかしら勝ちたい。そして優越感を得たい。」


「いいんだよ、それで。お前が腕っぷし強かったら何にも頼らなくなんだろ。んなモン真っ平御免被る。」


「子供みたい。」


「………へえ、そーかい。」


「何その間。あ、いや嘘ですよ嘘。口が滑ったとかそう言うんじゃなくて!」


ははは…。と少し引きつった笑いをして体を起こそうとする。下について体を支えていた腕の間接を膝カックンの要領で押せば、途端に片がついた。

先程の言葉にムキになっている辺り、案外睡の言うことも間違っちゃいねーかもな。とは思ったが多少からかっても許されるだろう。
仰向けになっている睡の顔の横に腕を置く。端から見れば所謂、押し倒し。



「俺も忠告しといてやるよ。」


「え、う、あ…ぁ、あわばばば…!!」


「テメェが二回繰り返す言葉は大概嘘。羞恥かもしんねーけど。まぁこれは構わねェ。」



ち、近いですってホント!と赤くなって未だに引きつりながらも口角をあげたままの睡の喚きを無視し、一層顔を近付ける。



「ただ…ピンチで笑う癖、下手したら煽るだけって知ってっか?なぁ睡ちゃんよォ。」


「笑ってない笑ってないっ、私いつでも全力で嫌がってますええそうですとも!」


「ん、嘘な。」



どうだ。とばかりに睡を見れば、熱を孕んだ顔を背けている。耳のそばで、なぁ。と言えばビクッとして顔を戻した。
口を開いたはいいのだが、やはり止める。その言葉は自分の中でボツにした。

代わりにその反応がどうにも面白かったから、右手をスッと耳に掠めてみるとまたしても首をすくめて、今度は右腕から離れる。肩で息をして俺の手を警戒する辺り、耳が弱いのがすぐにわかった。



「そ、それ、ダメ。ゾクッてして無理、です。あ、あと背中と腰と首も嫌なので拒否します。」


「へーえ。」


「なんですかその輝きの満ちた目。だ、だめって今…!!」


「夜這いしといてただで帰れると思ってんじゃねーだろうなァ?」


「え、ぁ…、ふぁ…っ、」



睡が両手で口を押さえる。試しに腰のラインをなぞってみたら、後悔した。予想外にエロい。つーかすげえきた。ここいらで歯止め掛けねえとさすがにまずい。
不意討ちというか予定外というか、とりあえず顔に熱を感じたわけで。睡のすぐ傍に顔を埋めると、ひゃ…、とまたしても情事中の声に聞こえた。どうやら首を掠めたらしい。



「えと、いきなり…伏せちゃってどうしたんですか?まぁ私にとっては喜ばしいことですけど…大丈夫?」


「…大丈夫なわけあるか。」


「わたし、のせいではない…です。」


「阿呆言え。」



隣に戻って腕を睡の後ろに回す。なんで?などと何も理解しちゃいねェ睡が酷く恨めしい。原因は俺にあるのだが。
ゆっくり呼吸をし、落ち着きを保つ。睡は睡で、もう俺が何もしてこないとわかったのか、眠くなってきたらしい。今度は落ちてくる目蓋を止める。



「もっと、さぁ…、」


「あ?」


「ま、ま…ママ…もうちょっとくらい…待っててくれる、くれ…くれれた、くれ…てた…たらね。」



もうすでに半分寝ている状態なのに、覚束ない口を動かす。
もう寝ろ。と頭を撫でれば、暫くしてからハッと目を開けて、まだ…寝ません。と横に振る。が、再び意識が遠退いていた。



「なぁ。」


「…ん。」


「…

いや、なんでもねェ。」



さっきと同じ台詞言おうと口を開いたが、やっぱり止めた。俺がどうしたいかなんざ、さっぱりわからねェ。今度は睡が口を開ける。



「し…ん、しん…すけく…は、」


「あ?」


「わたし、の…。あ…の、あの…ね、」



閉じかけた目で何かを探し、俺の腕の間から手を出して首にゆっくり回す。その速度がもどかしい。
ゆっくりと、ふっくらした柔らかいものが唇に触れた。



「いちばん…、なの…ね。それだけ…、お…やす…。」


「あぁ、おやすみ。」



人生、宇宙、そして万物についての究極の答え

(昨夜は大胆だったじゃねーか、なァ?)
(へ?)
(キス。)
(…………え゙?したの…?)
(お前がな。)
(してないよしてない!記憶にないですもん!)
(ほら二回。)
(ほらじゃないですよ!)


答えって私が晋助くんに勝てることなんて1つもないってこと…です、ね…。きっと。





一言で言うならば謎。そして誰みたいな。申し訳ないです読破ありがとうございました!まだ終わりじゃないけど!

ほんとはさ、若干曲パロっぽいとこあるしタイトルを曲名にしたいとこなんだけどさ、今までページ数に関連した事だったし空気嫁みたいな。
曲名は“眠りの浅瀬”です。ほんとは“ななし”と迷ったんだけどレイに聞いたらこっちのがお別れに適していると。さすがよね!
まぁこれも前回同様出発の歌なんですが(え)

今回のタイトルは“銀河ヒッチハイク・ガイド”から取りました。読んだことないけど。
答え、750万年かけて出した結果42だそうです。
なんだろう、死に。と掛けてるのかね?全て終わりがあるんだよみたいな。だったらこれにそぐわないよね、許せ!←

ありがとうございました!あ、重要だから二回言うけどまだ終わりじゃないよ!←←



20100405
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