「園花、おはよう」
朝から苦手な方の声。けれど、無視するわけにもいかなくて、私も挨拶を返す。
「おはようございます、檜さん」
檜さんは満足そうに微笑むと、私の胸を軽く触った。私は会うたびにされるこのボディタッチが苦手で、檜さんとは上手く付き合えないでいる。始めは嫌われているのかしら、とも思ったけれど、真雪さんに相談したところ「馬鹿ね、逆よ。好かれているのよ。あの子は好きな子に対してはおかしな行動する子なの」と宥められてからは、ポジティブに考えるようになった。檜さんからも悪意は見てとれないし、スキンシップと思えば耐えられるのかもしれない。
「園花、何を考えているの?私がいるのに別のことを考えるなんて許さないんだから」
「あっ、ごめんなさい・・・・・・」
檜さんのことを考えていたのだけれど、咄嗟にその事実は言えなかった。
「許さないわ。悪い子はお仕置きしないとね」
檜さんの言葉の後、唇に感じた柔らかい感触。
「え・・・・・・」
「何、固まっちゃってどうしたの?不意打ちだからって、照れなくていいのに」「・・・・・・」
私が何も話せずにいると、遠くで檜さんを呼ぶ声が聞こえる。
「可愛い、園花。じゃあね」
そう言って檜さんは呼ばれた方へと行ってしまった。けれどお仕置きの軽いキスの後から、私は体も思考もショックで固まったままで動けない。
―――ファーストキスは好きな人とするのが夢だったのに。
やっぱり私は檜さんに嫌われているのかもしれない。