「ねぇ、あなた…お名前はなんというの?」
この学校では彼女を知らない人はほぼいないだろう。
「…望月胡蝶」
なぜ彼女が私に声をかけたのだろう、と疑問と驚きがあったものの、胡蝶は自然と自分の名を口にしていた。
「キレイな名前ね。教えてくれてありがとう。普通は私から名乗るものよね…ごめんなさい。私の名前は―‥」
律儀に謝りながらも、彼女は自分の名前を名乗ろうとする。ふと、周りを見渡すとクラス替えしたばかりの生徒たちがこちらに関心と興味の視線を起きながらヒソヒソと話し込んでいた。
(‥まぁ、そうだよなぁー‥。彼女は誰かに話しかけるなんて、相当めずらしいし。)
当然のことを思いながら、胡蝶は彼女にそのままのことを口に出した。
「いや、知ってるって。キミの名前。」
胡蝶が言うと、彼女はきょとんとした顔をしながら胡蝶を見上げる。
「なぜ知ってるの?」
その表情が、まるで子供が親にどうしたら赤ちゃんができるの?と唱えるようで、胡蝶が抱いていた彼女のイメージと大分異なっていた。それが胡蝶のツボにじわじわと侵入していく。
「ねぇ、なんで?」
しまいに彼女が追い打ちをかけて問いただす。胡蝶は我慢ならず、笑いをこぼした。それに驚いた彼女は、ますます不思議がり、「わたしおかしなことを言ったかしら?」と胡蝶に向かって話しかける。
「いやぁ〜、イメージと全然ちがったからさ。」
ごめんごめんと胡蝶は言ったが、まだ笑いが収まらず、俯きながら時折笑い声を出しながら彼女の肩に手をぽんぽんと叩く。少し一呼吸置いてから、胡蝶は改めて彼女の方を見て、口を開いた。
「今日から同じクラスだね。よろしく、椿姫!」
胡蝶、椿…高校二年生の初めての出会いであり、彼女たちの忘れられない日となる。
END