周りの視線が痛い。
今まで、大勢の人物にそういう目線で見られたことはないのでさすがにたじろぐ。
どこにいても、なにをしても、「彼女」と一緒なら必ず誰かに監視されているような気がした。‥いや、実際にそうだった。

昼休み、私は椿姫とご飯を食べた後、友達によびだされたので話しをしていた。椿姫はどこかへ行ってしまったらしく、教室にはいなかった。

私がキョロキョロと辺りを見渡しているのを見かけた友達がお蝶‥私のあだ名を呼び、こっちに来いよと合図をしてきたので友達のもとへ足を運んだ。
椅子に座った瞬間、友達が〔今話題の〕話しを振ってきた。

「お蝶、最近さ椿姫と一緒にいるよね。」

「だよねぇ、お蝶ったらすごいよ。よく話せるわ。」

「私も無理だわ‥取り巻き怖すぎるもん。」

そう。椿姫は本当に可愛い。引っ込み思案で、虚弱体質な所もあるがそこがまた姫要素を醸し出しているらしい。なにより頭がとてもいいので、常に学年のトップを走っている。そういった点も崇拝されているのだ。ファンクラブが設立するのはそう遅くはなかった。いまではこの学年の大半が椿のファンクラブ会員に入ってるそうな。

「色んな人にジロジロ見られるのはあんまりいい気しないけど、ファンクラブの人達に変なこととかはされてないよ。」

そう。今まで一人で行動していた椿姫は、ファンクラブの方々に手厚く見守られている。基本的にファンクラブの勤めは「椿姫を保護すること」であり、椿姫に気安く声をかけ、長話するものなら恐ろしいほどの目線や陰口、最悪な場合は呼び出され追い詰められたり、いやがらせをするらしい。正直、ストーカーよりも悪質のように思える。
しかし、なぜかそのストーカー軍団は胡蝶が椿姫と話したり、仲良くなっていくことに対してそこまで煙たがらなかった。本来なら余裕で呼び出される程らしいのだが、視線と陰口だけで終わっている。胡蝶はそれに疑問を抱いていた。

「でも‥なんで呼び出されないんだろうね。」

そう言うと、友達がそれぞれ口々に思い当たる節を挙げる。

「胡蝶も何気に人気あるしねぇ‥」

「胡蝶が不良で怖いとか!」

「もしかしたらこれからシメられるんじゃないの?」

バラバラの意見に対してそうかもね、とコメントを残し、笑うしかなかった。


この前のクラス替えで椿姫から声をかけられ、それがきっかけで仲良くなった。それ以前は、胡蝶にとって椿姫は仲良くなれない存在だと感じていた。取り巻きが非常に面倒な人たちだらけというのもあるが、椿姫は見るからにお姫様のような存在でもあった。
だが、性格はお姫様とは異なっていた。当たり前のことだが、椿姫のことを知らない人にとってはとても新鮮に思えた。胡蝶もその一人であった。まず、抜けている。いつも学年トップの椿姫だが、しっかりしているようで案外抜けていて忘れっぽい性格であった。極めつけが、イタズラが大好きなことだった。しかも、自分がやったとわかりやすいイタズラをしかけ、バレた後は悪気もせず微笑む。…その小悪魔的な表情がまた、

「お蝶…もうあんた語りすぎ。」

「でも、椿姫ってそんな子なんだ。意外だわ。」

「あんたさぁ、椿姫のこと、」

そのときに教室のドアがガラガラと音を立てて開くのが聞こえた。その音で、友達の言いかけた言葉は遮られ、視線はドアの方へと移った。そこには〔話題の彼女〕が教室に入ろうとしていた。

「ちょっと椿姫のとこ行ってくる!」

すかさず胡蝶はガタンと椅子を引き椿姫のもとへ行こうとする。

「お蝶!こっちに椿姫連れて来てよ!」

「独り占めしたいんじゃないの〜?」

「……………」

胡蝶と椿姫のことについてああでもない、こうでもないと語る友達を背に、椿姫と楽しげに会話している胡蝶。胡蝶の奥底に眠っている気持ちにすでに気付いた友達はそれを目にしたあと、何事もなかったかのように、再び友達との会話に加わるのであった。


END

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