お兄ちゃん、

どうした?

お兄ちゃん、僕のこと好き?

当たり前だろ。だって君は…


「僕の弟なんだから」


*****


また同じ夢を見た。最近よく同じ夢を見る。まだ、弟とはそういった関係でなかった時の、幼い頃の記憶。まだ、弟のことが純粋に好きだった、あのとき。誰かに「弟のこと、どう思う?」と聞かれたら、「好きだよ」と返答できた。今では、言葉を濁すことしかできない。

ベッドの中でぼんやり考えながら、ふと、いま何時だろうと時計を確認しようとしたら、ドアをノックする音がした。どうぞ、と言う前にガチャリとドアノブを動かす音が聞こえる。まぁ、相手は一人しかいない。

「兄さん、そろそろ起きなよ。」

弟が自分の眠るベッドへ向かってくる足音がする。その音が止まり、そっと布団越しに身体をさすってきた。

「…起きたくない。ダルい。」

お前のせいで、と布団を被りながら皮肉を言っても相手には通じなく、声色からして寧ろ喜んでいるように感じた。

「学校行かないの?」

そう聞かれて、少し沈黙した。
俺たちの両親はいない。正確には、弟が高校を入学した頃からほとんどこの家にはいない。二人とも就いている職業柄、出張が多く、一年の大半は海外に住んでいる。二人は海外でよく会っているため、夫婦仲は特別心配はないのだが、唯一気がかりなのは、俺たち双子。特に弟は身体が弱かった為に両親からとても心配されている。母に至っては、弟が高校を無事に入学するまで出張をなるべく断っていたくらいだった。
そんな多忙な両親にこれ以上、負担や心配をかけたくない。俺がしっかりしなくては…そうこう考えていると、弟が布団をはぎ取ってきた。

「うわ、なにす」

「‥温かいね。」

俺の言葉を遮り、キツく抱き締めながらうずくまった。やめろ、離せ、…とは言えなかった。自分でも、それはなぜかわからなかった。

「…そろそろ支度しないと間に合わないね。」

離せという前に弟から抱き締めてきた腕を離し、ベッドに腰をかけ背伸びをした。
それを眺めながら、いい加減、支度をしようとベッドから起き上がりパジャマを脱ぐ。
弟はというと、振り返らずに真っ直ぐドアに向かって進んで行った。が、ドアを前にした途端、ピタッと足を止め、そのまま一言呟いた。

「早く、帰ってきてね。」

俺、兄さんのこと待ってるから。

その一言一言が冷たく、俺の心に深く刺し、縛り付けられる。それを知らずに、アイツは振り返りながら、怖いくらい綺麗な笑みで

「兄さん、行ってきます。」

と俺の部屋をあとにした。

あの夢が覚めなければよかったのに。
それならば、弟も、この家も、俺自身も、何かに縛られながら毎日を送る生活がなくなるのに。

けれど夢は終わり、時間は進んでいく。


END


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