「そう言えば、謙也、お前何時のバス乗って帰るん?」
 スーパーからの帰り道、ふと思ったので俺は謙也に聞いた。
「あー…確か10時半に東京駅着いたら大丈夫のやつ。せやから侑士の家を9時ぐらいに出たら大丈夫やと思う。」
そう言うと「あー!!」と謙也が立ち止まって叫んだ。
「どないしてん、急に」
横で叫ばれて耳がキーンと響く。
「ちょ、携帯貸せ!俺東京着たら絶対会っときたい奴おってん!」
目をキラキラさせながら謙也は言った。
「え、俺が会わせられる相手?先言っとくけど青学の皆さんとか無理やからな」
ポケットに入れていた携帯を出しアドレス帳を見る。







「で、呼ばれたのが俺と長太郎ってことかよ」
俺の家のマンションの前で待機していた宍戸は不機嫌そうな顔をしながら言った。
「そういうことや」
「いや、ワケわかんねぇよ!!」
謙也が会いたいと駄々をこねた相手は氷帝の王さんでもなく、俺のダブルスの相方のミソっ子でも無く、まさかのバカップルだった。
何でもなにわのバカップルは見飽きたらしく、少し前その事を聞いて宍戸と鳳の話をしてやったらえらい気に行ってずっと会ってみたかったらしい。
「いやー、ほらうちのダブルスって何かもうネタ尽きたって言うかもう見てて、あーはいはい。ってなってもうて。そんな時に二人の話聞いて甘酸っぱい青春カップルってええなーって思って」
関西人特有のマシンガントークを喰らって宍戸は顔を真っ赤にした。
「はいはい、その辺にせい。立ち話もなんやし今から飯作るからお前らも家で食ってけ。どーせ食ってへんやろ?」
謙也と宍戸の会話を断ち切るようにして俺は言った。
「忍足先輩が良いなら良いっすけど」
鳳が少し心配しながら言った。
「あー、その辺は大丈夫や。ただお前らも手伝えよ」
そう言いながらマンションのオートロックを解除する。
「で、結局昼飯なんやねん?」
「きまっとるやろ、お好み焼きや」







そこからは大変やった。千切りを知らないぼっちゃん二人にホットプレートの使い方を教えるところから始まり、
ここで宍戸の地味な料理スキルが発揮され無事お好み焼きのタネが出来た。
「鳳君、やったっけ。自分そーいやボンボンやったもんな」
謙也はそう言いながら電気を付けたホットプレートに油を引く。
医者の息子と言ってもそこは関西人。
お好み焼きとたこ焼きを一人で作れないと関西人としては半人前やからな、と思いながら俺はお茶の用意をした。
「いえ、そんなすごいもんじゃないですよ」
「いや、コイツの家マジですげーぜ。俺初めて行った時跡部かよ!って思っちまったもん」
笑いながら宍戸は言った。
確かに鳳の家はでかい。氷帝内で跡部は別格として、それでも鳳の家はかなりでかい方らしい。
ちなみに忍足家もそこそこだが家と言うより病院がでかい。
油の引かれた鉄板にお好み焼きのタネを乗せる。
先に豚肉を焼かない方が美味しく出来る。
「鳳君って一個下やから光と同い年やんな」
「あ、光ってあれですよね、四天宝寺の天才二年!何か一年生の遠山君って言う子の存在感が凄すぎてちょっと陰に隠れがちですけど彼も凄いんですよね!」
鳳が目を輝かせながら言った。
「せやなー、キャラ的には下剋上しない日吉って感じやな」
「はい、麦茶」と言いながら俺は注いだお茶をテーブルに置いた。
いつもならダイニングテーブルでご飯を食べるが、今回は客が三人と言う事でリビングのローテーブルでご飯を食べる。
客とかあんまり呼ばんからこっちの机で食べるのは数える程度だった。
「下剋上しない日吉って、日吉じゃねーじゃん」
宍戸が半笑いで言う。確かに日吉から下剋上を取ったらただのキノコだ。
「光はなー、こう先輩に向かっても平気で暴言吐くし基本しかめっ面やし。とりあえず俺に対する扱いが酷い。でも、俺のめちゃくちゃなプレイにちゃんと合わせてプレイしてくれるし、色々詳しいし頼りにしてんねん」
そう言いながら謙也は豚肉の上に焼けたタネを乗せた。
「ふぅん…冬休みにでも大阪行きたいな」
そう言えるあたり宍戸も氷帝の人間だと思わされる。
「あほか。俺ら一応受験生やで。宍戸、お前相当成績ヤバいって聞いとんねんけど」
「げっ…いや、まぁ普通に一般入試に備えて一応勉強してるけど。あ、でも一応AO入試は受けたぜ。だから結果待ちなんだよ」
そう言うと宍戸は麦茶を手にとって飲んだ。
宍戸の横には少し申し訳なさそうな顔をした鳳がいて何だかこっちが申し訳なくなった。
『受験生』。中学受験もそこそこで氷帝に入った俺達には少し馴染みのない言葉だった。
確かに高等部に上がる時成績がなんだので大変だったがなんだかんだ言ってちゃんと全員高等部に上がれた。
跡部は多分国内トップのあの大学に実力で入るのだろうか、でもあいつの事だから留学って言うのもあり得る。
岳人は実家を継ぐから一応理系。
俺と謙也は医学部と言う選択肢しかない。
「宍戸って何学部系なん?」
「俺?教育系。氷帝の教師になってテニス部の顧問やるんだよ」
そう言った宍戸は目に力がこもっていた。
「まぁそんな暗い話は置いといて、」
「よっと」と言い謙也はお好み焼きをひっくり返した。
「出来たし、とりあえず食べようや」
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