現実から目を背け続けたからと言ってどうにかなるわけではない。
いつかは現実と向き合わなければいけない。
それが「自分の好きな人」という存在だったとしても、
それでも、それでも…



考査が終わった。
結局あの後仁王は柳生と一回も顔を合せなかった。
柳生は何度も仁王のクラスに来たが上手く隠れて乗り切ったのだ。
「顔を合わせたくない」という理由で会いたいわけではない。「どうゆう顔をして会えばいいかわからない」から会いたくないのだ。自分があの現場を見たことを柳生は知らないからこんなに無駄に考えずとも、いつも通りに接すればいいのにその「いつも通り」が解らなくなっていた。
そんなことをしていたら考査も終わり、部活が再開してしまった。



「今日の練習は終了。考査開けだからと言って、全員たるんどるぞ!!」
真田の厳しい一言で今日の練習は終わった。汗まみれのジャージを着替えるため部員たちは一斉に部室に向かう。
「ふぅー。あいっかわらず真田もきっついよなー」
そんな最中にブン太は仁王に言った。
「そうじゃのぅ…まぁ、大会が近いから仕方ないんじゃがな」
涼しい顔をして言ったが。本当はかなり疲れていた。練習だけでもきついのに、今日に限っては如何に柳生と顔を合わせずに練習するかということに気を使っていたから精神的にもかなり辛いものがあった。
部室につき、汗まみれのジャージを脱ぎ、制服に着替える。ほかの部員たちは口々に弱音を吐いていたり、上半身裸で団扇で仰いだりしている。柳生もまだ着替えているだろう。そんなことを思った仁王は素早く着替え誰よりも早く部室を出た。
(これで柳生に会うこともないじゃろう…)
そう思いながら走って校門に向かう。
校門前に誰か立っていた。
そこには、

「やぁ、仁王君」

「……プリッ」

そこには柳生がいた。



「探しましたよ、仁王君」
柳生はいつものように言った。
「何でここに居るんじゃ、やーぎゅ」
仁王は柳生から目を逸らして言った。
「一緒に帰りたいからですよ」
「ここ最近仁王君と会ってませんでしたからねぇ」と言いながら柳生は困ったように笑った。
(いつもの俺ならどうしていただろう?)
そう思った瞬間、何故か感情が止まらなくたった。
「…のじょは?」
仁王は誰にも聞こえないような小さな声で言った。
「何か言いましたか?」
自分の顔を柳生に見られたくないと思った仁王は顔を下に向けた。
「彼女はどうしたんじゃ?」
「何を言って「先週可愛い後輩に告白されよったんじゃろ?ブン太に聞いたぜよ」
笑いながら柳生の言葉に自分の言葉を重ねて言う。
「彼女とは何も「いーんじゃ。何も隠さんでも。俺らD1じゃろ?」
「何を言ってるんですか仁王君?」
(ここに居たくない)
柳生はきっと自分に呆れているんだろう。だからこんなことを言うんだろう。そんなことを仁王は思った。
「あっ、用事を思い出したから帰「仁王君」
この場に居たくないと思い校門を出ようとしたとき、柳生に手を掴まれた。
「…やーぎゅ?」
顔を下にしたまま振り向き、彼の名を呼ぶ。
柳生は仁王の手を掴んでいない方の手で仁王の顔に触れ、下げている顔を少し上げた。
「どうしたんですか?そんな顔までして」
今にも泣きそうな顔をしている仁王に対して柳生は優しく言った。
泣きたくないのに涙がこぼれ落ちそうになる。
「…だっ…、やぎゅーが…」
こぼれ落ちそうな涙を何とか堪えようとし声が思うように出ないため、嗚咽混じりな声で仁王が言った。
「仁王君、よく聞いてください」
柳生は自分の両手で仁王の両手を包み込んだ。
「私は彼女からの告白を断りました」
仁王の頭の中が一瞬真っ白になった。
「なん…で、じゃ?」
仁王がそういうと柳生は仁王をいきなり抱き締めた。


「あなたが好きだからですよ、仁王君」


柳生は仁王の耳元で囁くように言った。
その瞬間、仁王は何かの糸が切れたのか涙が止まらなくなった。
「…っ、や、ぎゅー…」
弱々しくも彼の名を呼ぶ。
「どうしましたか?」
柳生は優しく微笑んでいた。
「やぎゅ…好きじゃ。好きなんじゃ。やぎゅー…っ」
一度こぼれ落ちたからには止まらず、仁王は涙をこぼしながらポツリポツリ言った。
「…やぎゅーは、もう…どこにも、行かんのじゃよな? ……愛しても、愛しても、いいんじゃよな?」
すると柳生は再び仁王を抱き締めた。
「何バカなこと言ってるんですか。私はもう誰のところにも行きません。それに、愛してもいいし…貴方のことを
愛させてくださいよ」

自分のモノでも無いのに自分のモノと勝手に思い込んでいた。
誰にも取られたくなかった。
それが、もうこの男は、柳生比呂士は、もう自分のモノなのだ。

そう思うと余計に涙が止まらなくなる。
「こんなに泣いて・・・綺麗な顔が台無しですよ」
そう言いながら柳生は仁王の涙を指で拭った。
「誰にせいじゃ、アホ」
「アホとは酷いですね、アホとは」
柳生は少し怒りながら言った。そしてその怒りすらが仁王にとって嬉しいモノなのだ。
「というか、帰りますよ。早くしないと他の部員たちが来ますし」
そう言うと柳生は仁王の手を握った。指を絡め離れないようにしっかりと。
(恥ずかしい奴め…)
そう思いながらも嬉しいのでしっかりと指を絡める。

このつないだ手を離れないように、しっかりと。
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