氷帝で過ごす六度目の秋。
受験の志望校を本格的に決める時期になった。

「大学か…」
クラスに残り一人考えていた。
正直何処でもよかった。
大阪に帰ろうが東京に残ろうがどっちにいても所謂難関校には入れる。
自分が勉強の出来る人間でよかったと心の底から思う。
親も別にどっちでもいいと言ってるので大学は選びたい放題だった。
ただこのまま東京に残ると本気で地元に帰る暇が無くなる。
(もう六年か…)
テニスの推薦で氷帝に入り六年経つ。
地元にいても楽しかったが氷帝に入り色んな奴と出会った。
(まぁ、氷帝でよかったと思うけど)
あのままだったら俺は謙也に誘われて四天宝寺に入ったんだろう。
そして夏の全国大会で



氷帝と戦う。



想像したくない。
誰をとっても強い。

(跡部とか絶対嫌や)

中等部、高等部と六年間一緒に戦い、何度か跡部とも戦った。
が、一度も勝てなかった。

「跡部なぁ…」
左手の薬指にはめられている銀の輪を見る。
それは高二の誕生日に跡部から貰ったものだった。
高一の秋、俺は練習を自主休部し(断じてサボリとちゃう)、バイトに明け暮れていた。
夏の大会から跡部の誕生日までの期間限定。
クラスメイトの紹介で所謂肉体労働を経験した。(確かソイツの父親の会社の何かやった)
人にこき使われ、最後の方は現場監督の俺様っぷりに跡部を重ねたこともあった。そしてそれで疲れが飛んだ自分に気持ち悪いと本気で思った。
(まぁそのお陰で跡部に指輪をあげれてんけどな)
その話を無理矢理言わされ(勿論跡部にだ)、高二の時に頂いたのがこの指輪だった。
(まぁ跡部の事やから俺みたいな肉体労働とちゃうくて、自分の父親の会社の雑用やねんやろな…)



「まだ教室にいたのかよ」
声のする方を見るとそこには跡部がいた。
「まぁな…ちょっと大学の事でな」
「ふぅん」
そう言うと跡部は俺の席の前に座った。
「なぁ、跡部は大学どこなん?」
「とりあえずT大経済学部」
…とりあえずで日本最難関。聞く相手を間違った。
「てめぇはどこ行くんだよ」
「いやな、まだ迷っててな」
「…大阪に戻るのか?」
「……」
答えられなかった。
帰りたくない気持ちも大きいが、帰りたくない、と言うわけではなかった。
「なぁ、跡部。高一の時にした約束覚えてる?」
「…忘れる訳ねぇだろ」




“ずっと一緒にいてくれる?”



あの時素直に伝えた言葉が俺と跡部を繋いだ。
指輪でお互いを縛り、離れられないようにした。

「俺な、跡部とずっと一緒にいたいねん」
口からすらすらと言葉が紡がれる。あの日のように素直な自分がそこにはいた。
「俺な、跡部が一緒に大学行こって言ってくれたらな、一緒の大学行くわ」
「……」
跡部の左手を自分の左手で握る。
「なぁ、俺今日誕生日やねん」
「…知ってる」
そう言うと跡部は目線を反らした。
「なぁ、誕生日プレゼントはいらんからさ」
右手で跡部の顔にそっと触れ、見つめ合う。



「結婚せーへん?」



時が止まったように感じた。
「……んなの」
「無理って言うのは分かってんねん。俺と跡部の立場上無理やしな。でもな、それ以外に言うのが考えられへんねん」
跡部の眼は少し潤んでいた。
「嘘って言われるかもしれへんけどな俺な、本気で跡部の事好きやねん」
「……」
「ずっと一緒にいたいねん」
だから、
「結婚してくれませんか?」
そう言うと跡部は泣いた。
声をあげずにその大きな瞳から涙を流した。
ただの生理食塩水でしかないのにそれすら美しいと感じた。
「……んで、そんなこと言うんだよ」
「伝えたかってん」
「俺様がお前から離れられるわけないだろ!!」
跡部は声を張り上げて言った。
そんな跡部を力の限り抱き締めた。
離れられないように力の限り。

「……大阪に帰んな」
「うん」
「……俺様の傍から一生離れるな」
「うん」
「一生、絶対に、俺様を手放すな」
「当たり前やん」

そう言い俺は跡部の唇に自分の唇を重ねた。
触れるだけでない。
だからと言って舌を絡めるわけでも無い。
“誓いのKiss”だった。
18の誕生日、俺は大切な人と一生の約束をした。
決して破ることない約束だった。
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