千歳が消えた。
皆に聞いても「誰やねん」「しらん」って言われた。

(まだ言えてへんのに)

千歳、
千歳千歳
千歳千歳千歳

「…っとせ」
「起きた?」

昼休み、誰もいない屋上で俺は独りでいた。
そしてそのまま寝たらしく目を覚ましたら目の前に千歳がいた。

「ちとせ」

名を呼び彼の手を握る。
すると彼は微笑んで手を握り返してきた。

「なんね、白石?」
「ゆめ、見てたかも…」
「どんな夢たい?」

聞かれたがどんな夢を見たか分からなくなっていた。
ただ、

「ちとせ、」

伝えたくなった。

「ん?」

ありふれた言葉だけど

「好きや」
「俺も白石の事好いとうよ」

そう言うと千歳は俺の額に軽くキスをした。
嬉しい、ただここで手放したらどこかに行ってしまいそうで、消えてしまいそうだったから俺はただひたすら彼を引き留める術を考えた。

「なぁ、ちとせ」
「なんね?」

真昼だって構わない。

「どこにもいかんとって、って言ったら怒る?」
「どした?」

千歳は心配そうに俺を見た。

「何?さぼろー言うてんねん」
「白石らしくなか」
「俺のこと勝手に決めつけんな」

そんなことを言うと千歳はやれやれと言わんばかりに座った。

「一時間だけたい」
「そんだけありゃ十分」
そう言い俺は座った千歳にキスをした。

「白石」
「なんや」
「今日の白石…」
「だから、何で勝手に決めつけんねん」
「だからって、授業中」
「知ってる」

そう言うと千歳は大きくため息をついた。

「ちとせぇ…」

らしくもない甘えたような声で彼を呼び彼を抱き締める。
娼婦のようだ、とふと思った。

(娼婦、いや売女か)

寝起きの表情
乱れた制服
少し高い声
これら全てが武器となる。

「…どうなってもしらんたいよ」

「ちとせ」

名前を呼び彼の唇に自分の唇を重ね、舌を絡める。
ディープキスはそんなに好きじゃなかった。
気持ちいいけどそこで終わってしまいそうだったから。

「…白石」

そう言うと彼は俺の身体に触れてきた。

「…んっ、あ…っ」

彼に触れられるだけで感じてしまう。
自分でも分からない。
頭でもおかしくなったのか、まぁなんでもいい。

(そのうちそんなことすら考えられへんくなんねんから)

ぐちゅっ、ぐちゅと音がする。

「や…ぁ」
「ん?」
「…なん、も…ぁ」

いつも以上に身体が感じていた。

「…ちと、せぇ、もう挿、れて」
「早くないね?」

心配そうに俺を見て言った。

「別に…はや、く…っ」

痛くても、寧ろ痛い方が良い。
ボヤけたこの意識を目覚めさせたかった。
彼に名前を呼ばれる度、ふと意識が蘇える。

形が欲しかった。
そこに彼のいる証拠が欲しかった。
キスマークでも傷跡でも何でもいい。
ただ何か欲しかった。
何度も彼を強く抱き締めた。
彼から伝わる体温で彼がそこにいるという事を確認した。
身体に走る痛みと気持ちよさが自分が自分であることの証明のようだった。

「あ…あっ、…っん、やっ」

自分の口から女子のような声が出る。
手で口を押さえようとしたらその手を彼は掴んだ。

「白石の声、聞かせて」

優しく彼は微笑んで言った。
いつもなら絶対に拒否する懇願
それでもいいかな、と思った。

(でも、千歳の声も聞きたいな…)

あっ。
聞かせてあげるよ
だから、俺のこと

「愛してる、って言って」

「なんね、急に」

動きが止まり痛みが一瞬和らぐ。

「…なぁ、おねが、い」

動きを止めないで
痛みを和らげないで
強く抱き締めて



愛してるって言って



「くら」

名前を呼ばれたとき自分が泣いていることに気付いた。

「…なぁ、ちとせぇ」

名前を呼ぶと彼は俺を強く抱き締めた。

「くら、愛しとうよ」

耳元で彼は囁いた。
その瞬間何かの糸が切れた気がした。

「抱き締めて」
「うん」
「おれんことぐちゃぐちゃにして」
「うん」
「ちとせの全部、ちょうだい?」



「力、抜いて」

その後の事はあまりよく覚えていない。

「…っ、とせぇ…」

覚えているのは身体に伝わってくる君の体温だけ。

「くら」

夢中になって君を抱き締めた。

「…っ、あ…んっ…ん」

じんわりと体内に伝わる君の全てが愛しかった。

「出すで」

身体が、心が、俺自身全てが君を求めていた。

「ん…っあ、あ、っん」

痛いとかそんなのも覚えていない。

「くら、愛してる」

ただ君に貪りついた。



目を覚ましたら君に抱き締められていた。

(何時やろ)

辺りを見ると日が少し落ちていて校庭では野球部とサッカー部が部活をしていた。

「ちとせ」

少し叩きながら名前を呼ぶ。

「…っらいし?」

目を擦りながら彼は起きた。

「もう放課後やで」
「…」

声はしないがコクコクと彼は頷いていた。

「教室戻ろ。荷物取りに行かな」
そう言い俺は彼に手を差し伸べた。

「ほら」
「おん」

そう言うと千歳は俺の手を掴み立ち上がった。

「いこか」

そう言い歩き出そうとすると不意に抱き締められた。

「今日の白石、むぞらしか」
「っさい」

首に絡み付いた腕を引き剥がそうとするが取れなかった。

「好いとうよ」
「…ッ!!」
「耳まで赤なって、むぞらしかぁ」
「調子乗んなッ!!」

そう言い力ずくで彼から離れようと腕を振るとその腕を掴まれ、もう片方で顔を触れられ、彼は首元に紅い痕を付けた。
首がこそばくて思わず身体に力が入る。

「ん、よかよか」

思わず顔が赤くなる。

「んじゃ、行くば」

そう言い動き出そうとする彼の腕を引く。

(やられっぱなしでたまるか)

そんな彼の首元に精一杯つま先立ちして紅い痕を残す。
自分からは滅多にしないから千歳に比べれるとすぐに消えるような小さな痕だった。

「行くで」

少し呆気に取られている彼の手を掴み歩き出した。

「おん」

そう言うと彼は自分の指を俺の指に絡ませてきた。
不意に口元が緩む。
それを見られないように彼の前を歩くことしか出来なかった。



好きな人が隣にいて
好きな人の隣にいれて
これ以上の幸せはあるだろうか?

名前を呼ぶ。
抱き締める。
キスをする。
身体を重ねる。

自分達の愛を確かめるための行為

前は嫌だった。
そんなことじゃないと彼の気持ちを確かめられないと思っていたから。

今は違う。
もうそんなことどうだっていい。

さぁ歩き出そう。
君の隣ならどんな所だって良い。
(だって)

君の傍にいれるのだから



fin.
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