それは夏の暑い日だった。
部活帰り、夕方なのに蒸し暑く、家までの少しの距離が地獄のようだった。

「あっつ…」
「暑い言うな。よけー暑くなるやんけ」
「謙也さんだって言ってるじゃないっすか」
「人の上げ足とるようなことすんな!!」

謙也は光を軽く叩いた。

「よーそんなにアクティブに動ける力残ってますね」
「アホ。俺だってもう辛いわ」

そんなことを言いながら二人はトボトボと歩いていた。
もう体力がない、限界だとは言っても無言なのはかなり辛いものがあるので謙也は何か話の話題を振ろうとしていた。
そんな時だった。

「光、チェリ●やで」

二人の目の前に学生から大好評の格安価格のチェリ●の自動販売機が現れた。

「そんなん言われんでも分かってますわ。何?何かおごってくれるんですか?」

はっ、と鼻で笑いながら光は謙也に言った。

(こいつ、俺のこと本気で馬鹿にしてへんか…!?)

「え、何か買ったろか?」

謙也が少し先輩ぶって言うと光はきょとんとした。

「え、いーんすか?」
「だって100円やろ?」

そう言うと謙也は百円玉を自動販売機に入れた。

「はい」
「え、じゃー…」

ぴっ、とボタンを押すとそれと同時にペットボトルの落ちてくる音がした。
落ちてきたものを見るとサイダーだった。

「んじゃ、いただきます」

光はそう言うとペットボトルの蓋を開け飲みだした。

(何か光らしくないな―…)

いつもならそんなに謙虚ではなく、むしろ強奪してくる光が大人しいのは謙也の中では妙に珍しく感じた。
そんなことを思いながらボーっと光を見ていると光は謙也の視線に気づいたのか飲むのを止めた。

「何すか?めっちゃ怖いんっすけど」
「いや、別に」

(ちょっと変やなーって思っただけ)

そう思い、またボーっと光を見ていた。

「…っ何すか!?めっちゃ怖いんスけど!!」

光は珍しく大声を上げた。

「いや、別に何も」

言葉を続けようとしたが何か悪いことをした気になったのでとりあえず謝っておくことにした。

「さーせん」
「まぁいいんっすけど…あっ、謙也さん。飲みます?」

そう言うと光は謙也にペットボトルを差し出した。

「え?いいん?」
「元はと言えばこれ謙也さんのでしょ?」

言われてみるとそうなのだが、いつもなら全力で謙也のモノを奪ってくるのだから嬉しいことなのに素直に喜べなかった。

(今日の光…ほんまに何か変じゃないか!?)

そう思いつつ恐る恐る光からペットボトルを受け取る。

「んじゃ、どーも」

(何か他人行儀というか何というか。いつもと違うというか…まぁいっか)

一人で納得してサイダーを飲んだ瞬間、

「謙也さん、間接キスや―」

謙也は思わず口の中に含んでいたサイダーを吹き出した。

「うわー…サイダーもったいな」

光は軽蔑したような、でも心の奥底から人を嘲笑うような目で謙也を見て言った。

「はぁ!?おまっ!!」
「うわっ、謙也さんサイダーまみれじゃないっすか。だっさ」

(鼻で…鼻で後輩に笑われた!!)

謙也にとっては残念なことにいつものことのはずなのに、今のこの状況じゃ妙に辛かった。

「ちょ、謙也さんこっちこんとってください。知り合いと思われたくないんで」

光は小走りで走っていく。

「ちょ、待て!おい!!光!!!」

謙也は叫びながら光を追いかけた。
二人とも体力はほぼ0に近いのにこの日一番の走りを見せていた。

そんな暑い夏の日。

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