「白石。俺な、光の事が好きかもしれへん」
「は?」
親友からの突然のカミングアウトに箸で掴んでいた卵焼きを落とした。
謙也は放送委員だから一緒にお昼を食べれる日が少ない。と言うかほとんど無いに等しい。そんな中、今朝突然「話あるから今日昼一緒に食おう」と誘われ何か嫌な予感はしてたけどまさかこんなこと言われるとは思わなかった。
(てか相手、財前かい……)
落とした卵焼きを拾ってティッシュに包んだ。
財前と言えば謙也のダブルスのパートナーの二年の後輩。現在四天宝寺中テニス部の新部長として毎日頑張っている。
「そりゃ、また何で財前やねん。お前女の子好きやっちゃんちゃうんかい」
「それがな、分からへんねん」
箸を持っていないフリーの右手で謙也をシバいた。
「ったー!何すんねん!?」
涙目になった謙也を俺は蔑んだ目で見た。
「とりあえず、いつ頃からねん?」
「わからん」
「お前、何が言いたいねん。シバかれたいんか!!あぁ!?」
思わず毒手と呼ばれる左手を構える。
「ちょ、まって!!言うから!!左はやめろ!!俺死ぬ!!」
とりあえず左手をひっこめ一度冷静になる。
「なんかさ、気付いたら光と一緒におるの普通になってたやんか。ダブルスもペアやし。でさ、光の横が俺の場所みたいなこと勝手に思っててん」
「ほぉ……」
「で、俺ら引退したやんか。光とあんま会わんくなるやん。何か変やねん」
「それが、お前の金曜限定図書室通いの理由か」
金曜だけ皆と帰らず一人いそいそと図書室に通っているのを俺は知っていた。親友を見くびるなよ。
「ちゃう!!それはたまたまで!!」
顔を真っ赤にしながら謙也はバタバタする。
「はいはい、それで?」
食堂で買っておいたパックジュース一口飲んで謙也に言う。
「それでさ、一緒に帰ったりするわけよ。それで今まで見れへんかった一面がさ「ノロケはええって」
「……すいません」
謙也はシュンとした。何でお前がシュンとすんねん。俺の方がしたいわ。
「お前の光に対する気持ちはようわかったわ。でも厳しい事言わせてもらうとお前らは男同士や。ユウジと小春見とったらわかるやろ。それに中三でそんなこと言うんはあれやと分かってんねんけど」
「あ、それなら大丈夫」
俺の言いたい事を何となく察した謙也は無駄に男前の声で言った。
「どっからその自信が?」
「光やったら挿入れ、ったー!!」
謙也の事を左手で全力でシバいた。
「ふざけるんやったら話きかんぞ!!お前、親友に俺ホモでした、ってカミングアウトされるこっちの気持ちも考えろよ!!」
謙也の胸倉を掴んで耳元で小声で、しかし力強く嗾けるように言った。
我に返って謙也から手を離す。
「白石、俺さ。今まで一応女の事付き合ったりしてたわけよ」
そんなん俺が一番知ってるわ。
「でもな、何かそれとはちゃうねん。こうさ、今までは好きです。僕も気になってました。みたいな感じやってん。だから好きとか実はよくわからんかってん」
今もよくわからんねんけどな、と笑いながら謙也は言う。
「全国大会終わった時、俺一人で泣いててそしたら光が迎えに来てくれて。光も目とか真っ赤でさ」



…―なんで謙也さんじゃないんすか!?



全国大会のあの日を思い出す。
実は試合直前俺はたまたまオサムちゃんと財前が控室にいるところを見た。
「なんで謙也さんじゃないんすか!?」
「確かに千歳先輩が凄いのはわかります。じゃああれなんですか?謙也さんが一から積み上げてきたこの三年間は無駄にしても良いってことなんですか!?」
四天宝寺中テニス部部長の立ち位置としてオサムちゃんの言葉に何も言えなかった自分。
謙也のダブルスのパートナーとしてオサムちゃんに言いたい事を全部言った光。
確かに光が言いすぎた分もあったけど言ってる事は別に支離滅裂では無かった。寧ろ正論だった。
その後千歳に変わったダブルスは結果敗退。そしてそのまま俺達の夏は終わった。




「俺さ、結局試合終わって大阪帰って部室戻って帰る時に急に力抜けて。何か、こんなあっけなかったんや、って。でも光はさ、俺を支えてくれてさ」
無理やり笑っているのがよく分かる謙也の表情は生々しく痛々しかった。
あれから一つの季節が過ぎたと言えども記憶は新しい。たかだか15の子供がそんなすぐに切り替えれるわけではない。
「俺ほんまはもう受験とかどうでもよくなってさ。家の為にとか何かもう面倒くさくなってんけどさ、光がいるなら頑張ろうと思ってん」
謙也はさっきまでの痛々しい表情から一変して穏やかな表情になっていた。
「もし光が挫けそうな時は俺が支えたい。自分がしてもらった分全部光にしてあげたい。そう思ってん」
(そんなん)
そんなん言われたら反対も何もできひんやんか。
一人間としたらたかだか中学生の分際で何言っとんねんと思う。でも親友としたらもう無理だった。決心した謙也は何を言われても絶対に引き返さないしましてや問題を投げるなんて事ない。それは俺が一番知ってた。
「……ほんまに好きやねんな」
「おう!」
ずっと右手で持て余していたパックジュースを飲んだ。ぬるくなり、少しドロドロになっている液体が喉を通る。
(ああ、)
お前を一番見てきたんは誰やと思ってんねん。
誰よりも近くにいたんは誰やと思ってんねん。
誰よりもお前の幸せを願ってるんは誰やと思ってんねん。
「……ハハッ」
思わず笑みが零れる。

残念ながら俺は恋愛として謙也はそういう風に見れない、てか見たくもない、見てたまるか。
謙也は俺のクラスメイトで、部活の仲間で、親友だ。
恋愛感情とかよく分かってないアホの謙也がこれやねん。どうせ財前もそうやねんやろ。そうやなかったらアイツがオサムちゃんにあそこまで言うわけがない。

(なんや、ただの出来レースやんか)

よっしゃ、俺がいっちょ恋のキューピットになったるわ。
舞台もセットしたろ、放課後の教室で、ってめっちゃええセットやん、
無駄のない俺を見くびるなよ、親友。

お前の事を誰よりも好きで、誰よりも大切にしていた親友がお前の人生成功させたろやないか。

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