12月中旬。期末考査も終わり、冬休みを目前とした今日も俺達テニス部はひたすら練習をしていた。
「もっと声出せー!!!」
「はいっ!!!」
こういう表立った部長の仕事は全部金ちゃんがしてくれるから楽だなぁーと思いながら俺はサーブ練習で自分の順番が来るのを待っていた。

(そう言えば、)

俺と謙也さんがお互いを名前で呼ぶようになったのはいつからだろう。
最初はお互い顔を知ってるぐらいだったのに、今じゃ「謙也さん」「光」である。

(確か、)



それはまだ俺が一年生の頃。
部内のレギュラー選抜でたまたまレギュラーに選ばれたときだった。

一年生からは「財前凄い!」などと尊敬のまなざしを浴びたが、やはりそれを気に食わない先輩方も多いらしく、こっちが挨拶しても無視、準備運動の時に余っても無視、挙句の果てにはラケットやシューズが隠されたりした。
まぁそんなことレギュラーの先輩方にちくるつもりもなくひたすら一人で耐えていた。

「調子乗ってるやろ」

いつか終わるだろうと浅はかなことを考えていたら、いつの間にかとんでもないことになっていた。
部活の練習後、突然二年の先輩に呼ばれそのまま校舎裏へ連行。この時点でヤバいと思ったが、ここで逃げたらもっとややこしいことになるだろうと思い黙って付いて行くことにした。

「実力だってそんなないくせに。この前の試合だってマグレやろ!?」
(運もありますが、たぶんあんたらより練習してます。)
「てかなんやねん、その目。睨んでくんなや」
(目つきが悪いんは昔からです。)

そんな罵声を浴びせられ、悲しい、怖いどころか、しょーもない、あほらしいとなってしまい出したいわけでもないのにあくびが出てしまった。
「あっ」
「この、くそガキっ!!!」
そう言うと、主核らしき先輩が顔を真っ赤にして勢いよく右手を振り上げた。
(まずい、ビンタされる)
思わず目を瞑り全身に力を込めたその時だった。

「はい、ストップ―」

ぱしっ、と音と共に誰かの声がした。
恐る恐る目を開けるとそこには白石先輩と仲の良い忍足先輩がいた。

「忍足!?なんでお前が」
「練習終わりにお前らがこっちに行くん見えてなんか様子おかしかったからずっと見ててん」
そう言い終わると、ふぅ。と一息つき普段の彼から想像もつかないような怖い顔で先輩方を睨んだ。
「自分ら、何したんか分かってるんやろな?今回の事は白石にだまっといたるから、分かったか?」
その場にいる俺以外の全員を睨んで忍足先輩は言った。
そのことに対して半泣きになった先輩方は「いくぞっ!」と口々に言い、その場から逃げるように走って行った。

「ありがとうございます」
俺は忍足先輩にぺこりと頭を下げた。
「いいけど、自分も危機感なさすぎんで」
そう言うと、にこっと笑って言った。
「またなんかあったら俺の事呼び。こーゆー白石には言われへんようなこととかな」
「んじゃ」と言って忍足先輩は立ち去ろうとした。
「待ってください!!」
俺は思わず呼びとめた。
「なんや?」
「あ…あの、」
ちょっとお礼が言いたいから呼び止めた筈なのにいざ呼び止めてみると何を言えばいいかわからなくなった。
「俺の事呼び言われても、俺、先輩の事あんま知らないんすけど」
自分でも何を言ってるかよくわからんかった。
そう言うと忍足先輩はぶはっと吹き出した。
「自分おもろいなぁー…自分あれやんな、一年天才レギュラーの財前君。てか、俺かって一応レギュラーやねんけど」
「んじゃ」そう言い、彼は去って行った。
その後、先輩方からの嫌がらせもなくなり、再び平和な部活動に戻った。

それからというもの、会えば絶対に「財前―!!」と名前を呼びながらこっちに来、白石先輩と二人で一年のフロアに遊びに来るし(そのせいで俺は一年の中で有名になった。)
そんなこんなで私は謙也さんとは仲良くなった。
呼び名が名字から名前に変わったのはいつか分からないが確かかなりすんなりと変わったはずだ。

「光―!!」
名前を呼ばれ振り返るとそこにはさっきの話の中心人物である謙也さんがいた。
「今日部活何時までなん?」
フェンス越しの彼は言う。
「冬期間なんで五時半頃には終わります」
「んじゃ、それぐらいになったらまた来るわ―」
にかっと笑うと彼は去って行った。

(また来る、かー…)

付き合ってると勘違いしてしまうここ最近。
今日の帰り道、思い切っていつ名前呼びになったか聞いてみようか。
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