「謙也さん?」
「……って光!?お前泣いてんねん!!目真っ赤やん!!」
謙也さんはおろおろしながら言った。涙は止まったものの目が腫れている上に学ランの袖で拭ったせいで赤くなっているので『さっきまで泣いてました』と言わんばかりの顔になっている。本当に目は口ほどに物を言う。
「あー……てか、何でここにおるんすか」
泣いていた理由を問われないように話を逸らす。
「いや、白石が『教室の鍵開けっぱやからはよ行け』って」
「は?」
もしかしてこれは仕組まれていたのでは、と部長を疑う。そう言えば何かずっと余所余所しかった。思い返せば色々とおかしい。
「今日先生と面談が、ってそんなんどーでもいいええねん!!」
「……ぷっ」
「いや、何がおかしいねん?」
表情がころころと変わるこの人を見ていたら何か色々と馬鹿馬鹿しくなってきた。この人が何か色々まどろっこしい事考えてるわけがない。
(理由を付けて逃げてたんわ、自分やん)
「とりあえず光。俺忘れ物取りに来たから取ってええ?」
「はぁ」
気の抜けた返事をする。この人は空気を壊すのがプロ並みに上手いな。てか3-2コンビどんだけ忘れ物すんねん。
変な沈黙が流れる。いつもは黙ってても勝手にしゃべってくるくせに。
「あったあった。てか何でお前ここおんねん。2組ちゃうやろ」
それ以前に学年すらちげーよ、と胸の中で突っ込む。
アホ面。このかをを見てたら何でこれを好きになったんか自分でも本気で分からない。この感情に自覚してから、何で謙也さんが好きなんだと自問自答してみたり、何で好きになったんだと自分にキレたり、やっぱり好きだと自覚したり色々あった。
「謙也さん」
「何や?」
何も考えてません、と顔に書いてあるアホ面。これでそこそこ頭が良いって言うのが腹立つ。
(って、今そんなんどうでもええねん)
伝えると決心したのだ。時間は待ってくれない。やるからには速効。
「俺、謙也さんの事が好きなんです」
バサバサと持っていた教科書を落とす。
「マジで?」
豆鉄砲喰らったハトみたいな顔をして言う。
「本気っすよ」
ポーカーフェイスで答えてみたものの内心はもう滅茶苦茶だった。さらって言ったものの返事を聞くのがめっちゃ怖い。
いや、やっぱまずおかしいやん。何で同性の後輩から告白されなあかんねん。うわ、穴掘って隠れたい。え、何気もイ?やっぱそーやんな。うわ、ってか何で謙也さん黙ってんねん。何か言えや。
頭の中を自分の言葉がぐるぐるしてキャパシティーオーバーになりかけていた時ようやく謙也さんの口が開いた。
「……頭の中全然整理付いてないから滅茶苦茶なこと言うけどええ?」
黙ってるより喋ってる方がいいのでお願いします。と心の中で返事をしながら無言で頷いた。
「俺な、光が入部してきたとき、何この生意気って思ってん」
(それは自分でも思う。こんな後輩嫌や。)
謙也さんは言いながら床に落とした教科書を拾い始めた。
「んでな、ダブルス組んで、俺がどんな無茶やっても絶対カバーしてくれたやん」
笑いを含みながら謙也さんは言う。拾われた教科書類はまとめられカバンに入れられる。見慣れたが今までラケバだった鞄も普通のエナメルになったあたり、あー引退したんだな。とどうでもいい事を考えてしまう。
「引退する前は本気で頭ん中テニスの事と、うちの部の事しかなかって、で、引退して、受験勉強始めて、」
ポツリポツリと謙也さんが言う。
「図書室言ったらたまたま光がおって、一緒に帰るようなって、いつの間にか季節が変わってて」
謙也さんは少ししゃがんで俺に目線を合わせた。
「毎日一緒におるんが当たり前やのに、卒業したら会えへんくなるねんなーって思い始めてな」
少し寂しそうに笑いながら謙也さんは言う。思わず目を逸らしたくなるが俺は謙也さんの目から目を逸らさなかった。
「今は何かしら理由付けたら一緒に帰れるけどさ、卒業どころか光に彼女できたりしたら、とかそんな事考えててな」
そう言うと謙也さんは一呼吸着いた。聞いているこっちが緊張してきた。
「俺は理由無しで光に会ったりしたい。光の隣にいたい。だから、」
そう言うと謙也さんは俺を抱き締めた。

「だから、俺と付き合ってくれませんか?」

突然の事過ぎて頭がついて行かない。
え、何で謙也さんが告白してんの。
俺に、何で?だって俺男やで。ただのダブルスの相方やん。
金ちゃんみたいに可愛くないやん。いや金ちゃんは金ちゃんで問題があるけど。
そんな思考を停止させるように謙也さんの体温が伝わってくる。冬の寒さに芯まで冷えた体にはちょうど良かった。
(ずるい)
優しく抱き締めてくる謙也さんに対してそんな感情を抱く。こんなことされたらどんな女でも断れへんやん。

「口悪いっすよ」
「そんなん知ってるわ」
「謙也さん受験終わっても部活とか受験で俺が忙しいっすよ」
「大丈夫や、お前は俺より頭も効率もええ。それに同じ高校来たら何の問題もない」
何でそんな優しいん?止まった涙が再び溢れてくる。
「……俺、男なんですよ?」
抱き締めてくる謙也さんをぎゅっと抱き締めて言う。
「男でも好きってことは本気で好きってことやろ」
「だから心配すんなや」と言うと謙也さんは頭をわしゃわしゃと撫でてきた。
「アホっすか……」
「な、アホ言うなや」

アホや、アホ。ほんまに。何でこんな優しい言葉かけてくるん?憎まれ口しか叩かれへんのに。
謙也さんを力いっぱい抱き締める。どうしようもない感情を全て謙也さんにぶつける。
嬉しさも、悲しさも、全部













「てか、何で謙也さん教室に走ってきてたんですか?」
学校からの帰り道、光に聞かれてぎくぅぅとなる。
「それはー」
数日前に白石にある事を相談したからだ。そのある事はまた別の話になるねんけど、まぁそれは置いといて。
「光、寒ない?」
「話逸らさんとってくださいよ」
低い声で光が言う。
「自分、さんざん逸らしとったくせに!!」
「は?何の話っすか?」
やっぱりこの後輩、可愛くない。
「…寒いっす」
「は?」
小声でよく聞き取れない。
「だから寒いっす」
前言撤回。やっぱりかわええ。
「んじゃ、手繋ごーや」
そう言い光に手を差し伸べる。真っ赤な顔をカーマイン色のマフラーで隠しながら手を取る。
(冬が寒くてほんまよかった)
どっかのバンドの曲の始まりを思い出す。
(だって手繋ぐ理由になるもんな)
でもそんな理由ももういらないのかと思い一人笑う。
「何笑うてはるんですか?」
「きも」と付け足して光は言う。
「お前は一言余計やねん」
そう言い、手を強く握る。
こーやって一緒に帰るのも、手を繋ぐのも、抱き締めるのももう理由が要らない。
あれだけ嫌だった新しい季節も少し待ち遠しくなる。
(ずっと一緒におれるからな)
寒い真冬に手を繋いで帰る。春はセーフでも夏は暑過ぎて光嫌がるやろな。
その頃にはもう引退して受験生か。光は俺より要領も良いしそんな必死にならんくても大丈夫やねんやろうな。
「謙也さん、今日塾は?」
ふと光が聞いてくる。
「あー、今日はないで。だって木曜日やし」
塾があるのは火曜と水曜と金曜日やで、と光に言う。
「じゃー月曜と木曜は同じ方向なんですよね」
うわ。
可愛すぎて光を思わず抱き締める。
「ちょ、先輩、外!」
抵抗する光を強く抱き締める。強く、強く抱き締める。
やっぱりもうちょい来なくていいです。
春は春で待ち遠しいけどもうちょっと冬を楽しみたいです。出来れば雪降らせてくれたら嬉しいです。
もっと寒くしてもらってもええけど、光は寒いの苦手やから少し弱めでお願いします。
ゆっくり、ゆっくり春が来たらいいです。


そしたら、
君と過ごす春が待ち遠しい。

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