12月になり、俺は相変わらず金曜限定の図書委員で、金ちゃんは金曜限定の部長で、夏から何も変わっていないと思い込んでいたが。
(増えたな……)
最初の方は2,3人だった室内も今では20人ぐらいに増えていた。校内で暖房が利いていて、それなりに集中できる場所と言えば多分ここぐらいだろう。シャーペンと紙が擦れる音、教科書がめくれる音、多分この音全てが“三年生”を“受験生”へと変えているのだろう。
「閉館時間なので貸し出しを終わります。生徒の方は帰ってください」
決められた言葉を文字通り発する。
(あれ?)
いつもいるはずの席に謙也さんがいない、謙也さんの席だけポカンと空いていた。
「おーっす」
少し焦っているときにそう声をかけてきたのは白石部長だった。








「珍しいっすね、図書室に来るなんて」
PCの電源を落としながら俺は言う。
「あー、引退以来久々に部活に顔出したら金ちゃんが『光なら図書館やでー』って」
「俺に用っすか?」
何だか嫌な予感がすると思いながら部長に言う。
「そんな感じやけど……どうせこの後暇やろ。ちょっと付き合えや」

そう言われて俺と白石部長は図書室を出た。
「お前鍵当番もやってんねんな」
図書室の鍵を閉めると白石部長が驚いた口調で言った。
「そりゃ、一応やってますが」
鍵を閉め、職員室へと足を進める。
「で、部長は何の用なんっすか」
「あー、教室に塾の教材忘れて。だから職員室に鍵返したら次3-2な」
何か怪しい。そう思いながらも部長の言葉に従った。
鍵を返している間に部長は自分の教室の鍵を借りたらしく「ほな、行こか」と言われ俺達は3-2へと足を進めた。
俺のクラスは2-7で、謙也さんと部長は3-2.だから階どころか校舎も違う。だから部内連絡回すぐらいしか行った事が無かった。
(何か違う場所みたい)
そんな事を思っている間に3-2の教室に着いた。
「えーっと……」
教室に入るなり自分の机の中をごそごそと探す。
「……財前、お前謙也の事好きやろ」
「は?」
教室の入り口に一番近い席で座っていた俺は気の抜けた返事をした。
「何言うてはるんですか?」
部長を見ても、部長の目線の先は机の中なので表情が窺えない。
「言うけど一応確信持って言ってるからな」
部長は少し冷たい声で言った。
「……なんで、俺が謙也さんの事好きにならなあかんのですか?」
「財前」
「あんな、アホで、速さだけが取り柄で、人の事何も考えてなくて」
(何で、何で白石部長に気付かれた……?)
隠していたのに、誰にも悟られないように黙っていたのに、自分の感情を押し殺していたのに、
俺は思わず立ち上がった。
「そもそもあの人男っすよ?何言ってるんですか、部長、そんな、俺」
口から文章としてきちんと構成されていない言葉がぽろぽろと零れる。
「お前、気付いてないと思うけど性格丸くなったで。俺らの引退前の夏の大会のときとかと比べてみ」
「そんなの、」
言われても自分では何も分からない。
だって先輩らが引退してから俺はずっと謙也さんとしかいなかったんだから。
「それとな、たまに見かけんねんけどお前。謙也とおる時めっちゃ幸せそうな顔してんねんで」
「やめろ、」
心臓を抉り取られるように、ナイフが刺さるように、部長の言葉が胸に突き刺さる。
「なぁ、財前」
部長は俺の目を見つめる。
(やめろ、)
そんな目で俺を見るな。
部長は俺の頭をポンと撫でた。
「落ち着け」
その瞬間、涙が勝手に零れ落ちてきた。
「……っあぁ…あ、っ……っひ……」
言葉にならない声が出る。もう自分で自分の感情をセーブ出来ない。
だって、嘘なんてつけない。
自分の感情に、謙也さんを好きだってことに。
「…っらいし、部長。俺、あの人の事が好きなんです……」
今まで誰にも言えなかった感情を初めて誰かに伝える。言葉を発するたびに涙が零れ落ちてくる。
「おぅ」
「でも、俺、あの人の人生の邪魔したくないんすよ、あの人の相方でいたいんすよ」
「それを決めるのは謙也やろ」
部長は俺の目を見て言った。
「だって、」
「だってちゃうやろ。お前、自分が謙也の立場やって同じ事思われててみ」
何で、そんなの、
「勝手に決められなあかんのっすか」
俺の気持ち返せよ。
「やろ。ほら、自分の気持ちの整理付いたか?財前“部長”」
ポンポンと部長が俺の頭を叩く。
「……はい。ありがとうございました」
「まさか財前の口からありがとうの言葉が聞けるなんてな」と笑いながら部長は机の上に「3-2」と書かれたタグの付いた鍵を置いた。
「四天宝寺中のテニス部をまとめる者がそんなんでどうするねん。とりあえず鍵渡しとくし落ち着くまでここおり」
「ありがとうございます」
涙でぐちゃぐちゃになった顔を学ランの袖で拭きながら言う。
「気にすんな。んじゃ俺今から塾やから、じゃーな」
「さよなら」
手を振りながら部長は教室を出て行った。








教室に残されて再び俺は座っていた。
(部長と謙也さんの教室)
ここであの人らは勉強してるのか、と当たり前の事を思う。
携帯の開くと「12/20 15:27」
明日は終業式。あと三カ月であの人らは卒業する。
「……よし、」
決心が着いた。
机の上に置いていた荷物を手に取り教室を出ようとすると廊下からバタバタとうるさい足音がする。
「なんやろ?」
そう思い教室の扉を開けようとするとがらっと勝手に扉が開いた。

「え、」

「光!?」

目の前には真冬だと言うのに額にうっすらと汗の浮いた謙也さんがいた。
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