11月後半、季節も冬が近付き、受験生は模試だの何だので忙しくなっていて、俺は相変わらず試合に向けて練習しながら部員をまとめていた。
「光ー」
部活終わりの部室。窓の外からアホみたいに元気な声が聞こえてきた。
「何すか、謙也さん」
「今日帰りに予定ある?」
「無いっすけど、先輩に割くような時間はあ「部室の前で待っとくから着替えたらすぐに来いやー!!」
人の言葉に重ねて、窓から去って行った。
とりあえず待たせるのは悪いと思い、すぐに着替え「最後に出るやつ、戸締まりしっかりしとけよ」と言い部室を出た。

「お、やっと来たな」
謙也さんは立ち上がると服についた砂埃を払った。
「今日は何すか?」
「いや、特に何もないで」
地面に置いていた鞄を手に取り、
「一緒に帰ろーや」
満面の笑みで俺に言う。
この人は何をしたいんや?
俺を殺したいんか?

「いいっすよ」
(まぁ、)
こんな誘い、断るわけないやん。

謙也さんと図書室で会うようになってから毎週金曜日は一緒に帰るようになった。それから部活終わりとかに会うと一緒に帰っている。家も割と近いし。
(ただ今日のはズルいやろ…
一緒に帰るのが多くなっても自分から誘ったことも誘われたこともない。突然すぎてほんまに焦った。
「何で今日はこんな時間まで残ってたんすか?」
ふと思ったので聞いてみる。
「いやな、塾の宿題で数学めっちゃ難しくて解説読んでも全然分からんかったから先生聞いててん」
「要するに、先輩がアホって事っすね」
「アホ言うな!!」

「どっか寄りたい場所あります?」「あー…コンビニ寄りたいかも、後100均とか。」そんな会話の結果、俺と謙也さんは商店街に行くことにした。
「そーいや何で100均に?」
「いやな、ボールペンのインクも切れたし、ノートも無くなってきたし」
文房具屋に行けば良いと思っても貧乏な学生にはそんな高い所行けへんので結局100均になってしまう。
何やかんや言ってたら100均に着いた。
「まずはノートやな」
文房具コーナーに二人で向かう。最近の100均は100円や言うてもなかなか種類がある。
「謙也さん、このノートなんかどうすか?」
渡したのは国民的に有名な青いキャラクターが描かれてるノート。
「そんなん使われへんわ!!」
謙也さんは渡されたノートでしばいてきた。
「謙也さん、商品で人をしばいたらあかんやろ」
「うわー最悪ー」と言いながら謙也さんをおちょくる。すると店員が「お客様、店内で騒がないで下さい」と笑顔でしかし確実に怒りを込めて言ってきた。
何かよく分からないけど思わず二人でその場にしゃがみ込んだ。
「そんなん渡してくるお前があかんねんやろ!!」
謙也さんが小声で言ってきた。
「そんなん知りませーん」と言いながら謙也さんから目線をそらす。
「あ」
「なんや?」
目線の先にあるノートを一冊手に取る。
「これ、謙也さんそっくりじゃないっすか?」
それはヒヨコの写真が表紙のノートだった。
「えー、どの辺が?」
「謙也さんのこの部分っすよ」
謙也さんの後ろ髪に触れる。
「後ろ髪の跳ねてる部分が、ほら」
何か刺せそうだけど触れてみると柔らかい。
(まぁ、愛らしいとこも謙也さんそっくりやけど)
「あのー…光さん?」
「なんすか?」
「顔、近くないっすか…?」
謙也さんが顔を真っ赤にしながら言った。髪を触れていたから気付かなかったけど顔と顔がめちゃくちゃ近く、それこそ鼻先と鼻先が付くぐらい。その距離およそ5p。
どうすれば良いか分からず思わず立ち上がってしまう。
「あっ…あっ!!これ光みたいとちゃう!?」
謙也さんが一冊のノートを手にとる。黒猫の写真のノート。多分さっき謙也さんに渡したやつと同じ種類のやつだろう。
「とりあえず、次ペン!!」
何かテンパってる謙也さんは二冊のノートを手にしたままペン売り場に走っていった。
「お客様、店内では走らないで下さい!!」
店員が謙也さんを注意する。
「また怒られとるわ、あの人」
俺はそう呟き、謙也さんのいるペン売り場に向かった。

「結局えぇペン無かったー…」
妙なところで妥協を許さない謙也さんは結局ノート二冊しか買わなかった。
「また変に付き合わせたし…よし、ちょっと待っといてー」
そう言うと謙也さんは俺を残して走り去った。
(にしても…さっき顔赤くしたんはあかんやろ!?何でそうなんの、え、なんなん?)
一人残された俺はさっきの100均での出来事を思い出して何かこっ恥ずかしくなっていた。

「おまたせー。ほら、ほい」
謙也さんが渡してきたのはコロッケだった。
「ここの商店街来たらいっつもコロッケ買って食べててんなー」
「うまー」と言いながら幸せそうに食べる謙也さん。
時計を見るとかなり遅い時間だったので歩きながら食べることにした。



「あ、そうそう。これあげるわ」
そう言うと謙也さんはノートを渡してきた。
「さっきのけん、間違えた。ヒヨコノートじゃないっすか」
「お前、今何て言った?」
「いえ別に。てかなんでっすか?」
溜め息をつき、謙也さんが言う。
「いや、ヒヨコ普通に可愛いねんけど、お前が言ったせいで何て言うん?こー」
「仲間意識?」
「そう、それ。って違う!!」
ナイスツッコミ。素直にそう思った。
「とりあえず、思わず買ったけどどーせ使わんやろし、あげるわ」
「あざっす」
鞄の中にノートをしまう。
「何か最近光に付き合わせてばっかりやなー」
笑いながら謙也さんは言う。
「別に楽しいから良いっすよ。まぁ俺は謙也さん食べてばっかで太らんか心配っすわ」
鼻で笑いながら言う。
「くっ!!言い返せへん痛いとこ突いてきやがって…!!」
苦い顔をして謙也さんは言う。
そんな事を言っていると何やかんやで我が家に着いた。
「見送りあざます」
「んじゃ」と俺が言うと謙也さんは突然俺の頭を撫でてきた。
「無理しすぎんなよ」
(え?)
「白石も千歳も俺も皆お前の心配してんねんぞ。お前どーせ他人に迷惑かけたくないとかアホな事かんがえてんねんやろ。何かあったら頼れよ」
「じゃーな」と言うと謙也さんは帰っていった。
(何、今の?)
思わずその場にしゃがみ込んでしまった。
(謙也さん、まじなんなん?)
謙也さんから一歩踏み越えてきた。
これまでの俺と謙也さんの距離は一人分の距離
近付こうともしないし、近付こうとも思わない。
この程よい距離感は壊したくないと思っていた。
近過ぎず、遠過ぎずのこの距離に安心しきっている俺はどこかで期待していた。
(謙也さんが俺の事好きやったらいいのに)
そしたらこの距離はもう少し近くなるだろう。
でも自分から言うことを恐れていた。
結局の所俺はただの臆病者だ。
それだったのに、謙也さんから一歩踏み込んできた。
そーやって勝手に思い込んでるだけやとしてもなんか嬉しかった。
(うわ…うわっ!!)
自然と顔が赤くなる。何でもない出来事にここまで喜んでしまう自分に本気でアホやろと思う。でも、そうは言っても実際問題普通に嬉しいし、何か妙に喜んでしまう。
とりあえず家の前で一人もだもだしてるのも変なので家に入ることにした。

(やばい、)

これは時間の問題かもしれない。

俺が、謙也さんに「好き」と伝えるのは。
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