忍足謙也。俺のダブルスのパートナーで「好きな」人だ。

(多分、)
自覚したのは夏の大会辺りだろう。
夏の暑さにやられてどっかおかしくなったんとちゃうかとか本気で考えた。
先輩らの引退以来、極力会わないようにしていた。とは言っても向こうは塾の夏期講習だとかなんだで忙しいし。だから今日久々に会った。

気付いてはいないだろう。
いや、気付かれてはいけない。

(だっておかしいやん)

男が男好きとか。
本間に意味分からん。
なんでこの人好きになったんやとかそんなレベルじゃなくて。
色々ありえへんやん。ラブルスみたいにネタじゃなくてガチとか。まぁユウジ先輩はガチやろうけど。
そうじゃなくて何よりも腹立たしいのはこの感情を嘘だと否定できない自分だった。
おかしい、おかしいとか言いながら否定しない自分。
告白なんて絶対に出来ない。どうせ引かれるだけやし、何より謙也さんに嫌われたくない。

なんでこんな報われない恋をしたんやろ。


なんでこんな感情に気付いたんやろ。



なんで謙也さんの事好きになってんやろ



(うわ、気持ち悪)
そんな事を考えているといつの間にか五時になっていた。
「閉館時間なので貸し出しを終わります。生徒の方は帰ってください」
決められた言葉を文字通り発する。
勉強していた受験生の方々は帰って行き、残っているのは俺と謙也さんだけだった。
「おつかれ」
荷物をまとめた謙也さんがカウンターの所まで来た。
「そっちこそ、勉強お疲れ様っす」
PCの電源を閉じながら言う。
「光この後部活出るん?」
「いや、中途半端に出るのは…それに毎週金曜は部活休むって顧問にも許可取ってますし」
「俺、図書委員なんで」と言葉を継ぎ足し荷物をまとめながら言う。
「そーか。皆元気かなー…まぁ、金ちゃんは元気やろな」
「今日はいつもの1.5倍はテンション高いっすよ。ワイが部長の代わりやーとか何とか言って」
荷物をまとめ終わった俺は謙也さんと部屋を出た。
「なんでなん?」
そう聞かれ、謙也さんには簡単に状況を説明した。
「言いそうやな。光の居場所ないやんか」
笑いながら謙也さんは言う。
「ほんまそうっすよ」
戸締まりをし、司書の先生に確認を取って貰い部屋を出る。
「さて、光この後暇やんな?」
「まぁ、暇っちゃー暇っすけど」
「んならさっ、帰りにたこ焼き屋寄っていかへん?」
「は?」
唐突過ぎる誘いに俺は気の抜けた言葉を発した。目を輝かせながら彼は続ける。
「いやな、白石にめっちゃ美味い店教えてもらってんけど行く時間無くてさー」
「はぁ」
「それで光部活行かん言うてるし、俺この後塾やから晩御飯どっかで食べなあかんかったし」
「だから、な!!」と謙也さんは言う。
そんな顔されたら行かへんわけないやん。
そんな事、口が割けても言えへん。
「まぁ、謙也さんのおごりならいいっすよ」
素っ気なく言う。嬉しいから余計に態度に出したくない。
「えー…まぁ、一個ぐらいならあげるわ」
しぶしぶ謙也さんは言った。
「ケチっすね」
鼻で笑いながら俺は言う。
「なんやて!?」

きっとこの距離感が丁度良いんや。
付かず離れず。
人一人分の距離感
でも誰も入ってこーへん

そんな事を考えながら下足室へと向かった。



そのたこ焼き屋に着くまで俺は謙也さんに受験の話を聞いた。
謙也さんは白石先輩と同じ地元の公立高校に行くそうだ。私学にスカウトで行くより公立でいきなりレギュラー取って名も無き公立を全国レベルまで引き上げるそうだ。
それにしても、
(すげぇ自信やな)
まぁ言うても、俺らかて市立中学から全国大会まで行ったしそれなりのプライドはある。
(まぁ、こんなアホでもテニスだけは強いからなぁー)
「で、そっちはどうなん、財前ぶちょー」
ニヤニヤしながら謙也さんは言った。
「気持ち悪いっすよ」
「おまっ、うっさいなー」
コロコロと表情を変える。感情を素直に出せるのが羨ましい。自分を守るために毒吐いて、強がって、
「あー…あほらし」
「どうした?」
思わず口に出ていた。
「いや、何もないっすわ…」
目線をそらし適当に言う。
「あっ、着いたで」
グダグダ話していたら目的地に着いた。民家の前の部分を店に改装したようなそこは、地元の人に愛されて続いてます感たっぷりだった。
「あっ、たこ焼き七個入り一つ。光は?」
「じゃータコせん」
「たこ焼き一つとタコせん一つね」
お店のおばちゃんは店の奥へと入っていった。
「で、おごってくれるんっすよね、謙也さん」
「え、あの話ガチやったん!?」
驚愕、と言わんばかりの表情を浮かべる。
「冗談っすよ」
笑いながら俺は答える。そんな話をしているとお店の人が出てきた。
渡されたタコせんは値段の割にデカく、一口食べてみると味も美味しかった。
「光ー、一口ちょうだい」
「はい」
「あーん」と言うと「あーん」と言いながらタコせんにかぶり付く。し目がちになった謙也さんに思わず何かよく分からん感情を抱いてしまい、自分でもひいた。
「うわっ、めっちゃ美味いやん!!あっ、光も俺の食べる?」
一瞬飛んでいった意識を引き戻す。
「食べます」
「あーん」と言われ何も言わずに口にいれる。美味しいけど、
「あっつ!!」
鞄の中に入ってる水を取り出し一気に飲む。
「大丈夫かー?」
「いや、油断してた俺が悪いんで」
「なんやそりゃ」
謙也さんは笑いながら言った。

たこ焼きとタコせんを食べ終えた後俺は謙也さんを塾まで送った。その時何の会話をしたのかよく覚えてない。どーせアホな話やろ。

「んじゃ、塾頑張って下さい」
「おぅ、頑張ってくるわー」
そう言い残し謙也さんは塾の中へと入って行った。
真逆の方向にある家に帰る。
帰り道に今日の事を考えていると何かイライラした。
(嫌なこと思い出させやがって、あのアホ)
自分の感情を改めて思い知らされた。
夏の暑さにやられたわけでは無かったのだ。

(俺は、)



謙也さんが好きなのだ。

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