夢を夢だと自覚してみる夢を明晰夢と言う、と昔に聞いたことがある。

通常夢を見ると、夢の中ではそれを現実と思うが、明晰夢の場合夢を夢と自覚しているため目を覚ますと言う感覚に陥りにくい。
だから明晰夢は人を取り込むと昔に聞いたことがある。

だから黒曜ではなく、並森の制服を着ていて、
見知らぬ校舎の見知らぬ席に座っているときに気づいた。
あぁ、これは夢なんだ、と。










ここは並森中で、自分は二年生で、クラスでは少し浮く真面目な男子と言うのがこの世界での設定だった。
他の守護者達もいるが、この世界ではそんな役職は、ない。
この世界は、アルコバレーノやボンゴレファミリー、それどころかマフィアなんて初めから無かったそんな世界だった。
だから、何事もなく、ただただ地味な男子中学生として過ごしておけば良いと思っていた。

「おはよう」

突然視界に入り込んできた女子の言葉に少し驚く。

「……おはようございます」

目を逸らしながら返事をする。

「どうしたの?」
「いえ、別に」
「おはよう沢田」

そんなやり取りをしていると見知った二人が教室に入ってきた。

「あ、山本、獄寺くん。おはよう」

ぱたぱたと軽い音を立てながら入り口にいる二人の元へと彼女は駆けていった。

信じたくない。
が、夢だから、この世界では現実だから、覚めるまでは夢ではない。
沢田さん、と呼ばれる彼女は、現実の世界で言うところ沢田綱吉で、それがそっくり女になったような存在だった。

そして僕は彼女と付き合っている。
確かに今月で四ヶ月。
そんな設定が脳内を侵食していく。

自分の愛した相手が女に変わっていて、
しかもその相手と結ばれているのだ。
夢だと分かっていてもそれを現実と思いたくなってしまう。

(僕らしくない)

チャイムが鳴り授業が始まる。
どうすることもできないのでとりあえず授業を受けることにした。










学校は何事もなく終わり、恋人同士なので、一緒に帰ることになった。

「ぼおっとしとるけど大丈夫?」
「あ、はい。多分」

覗き込んでくる彼女にまだ慣れない。

「無理すんなよ」

(何だろう)

妙な違和感を覚える。
横にいるこの女は本当に沢田綱吉なのか。
それとも取って代わった代用品なのか。

「……沢田さん。今日うちに来ませんか?」
「え、いいの?」

驚くその顔は沢田綱吉そっくりだった。

「はい」
「あんなに嫌がってたのに」
「……何となく、ですかね」

抱けば分かるか、なんて下種なことを考える。

(あれ、)

家?
勝手に自分の家についての知識が流れ込む。

(もう、どうでもいいか)

そんな違和感もうどうだっていい。
僕は彼女の手を取りそのまま自宅に向かった。










「ちょ、骸どうしたの?」

部屋に入るなり唇を重ねると彼女は少し抵抗した。

「何がですか?」
「だって、こんなの、」
「こんなことしたかったんでしょう?」

彼女の腕を掴んでベッドに押し倒す。

「何お綺麗ぶってるんですか」
「むくろ、や、」

男に上に乗っかられて両腕を掴まれているのだ。
無駄だと分かっていないだろうか。
泣きそうな彼女の顔を見ても何の感情も沸き上がってこない。

なんだろう、凄く虚しい事をしている気がする。

「そうか、」

君じゃない

「君は僕の君じゃない」

部屋を見渡すとベッドに何故かピストルがあった。
見たこともあるし、それで人を撃ったこともある。
あぁ、あの時のか、と呟きながら中をを確認する。
弾は一つも入っていない。
でもこのピストルがこの世界を終わらせる引き金になることをなんとなく悟った。
弾のないピストルを自分の頭に向ける。
泣いていた彼女の顔は怯えて真っ青になっていた。
そんなことどうでもいい。
この世界を早く終わらせたかった。

「さよなら」










目を覚ますと精神世界だった。
あぁ、またここなのか。
結局僕はまだヴィンディチェの牢獄の中らしい。

それでもいい。
それでいい。
ありふれた幸せなんていらない。
僕の世界に君がいるなら。

だから僕は目を閉じてほんの少しの奇跡を祈るのだ。
この小さな牢獄から出れる日を夢見て。
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