「ふぅ」
湯船に使って骸は一息ついた。
足を伸ばしてリラックスしている骸と違って、俺は湯船の端で丸く縮こまっていた。
「おや、こっちに来ないんですか?」
「だって。行ったら何されるか」
あんなことをしたあとだ。変な話、何が起こるかわからない。
このままもう一回って可能性だってある。
「ヤることヤっているのに今更な「バカッ!!」
鼻で笑う骸の顔に俺は思いっきりお湯をかけた。
「と言うか、寒いんですよ」
顔にかかった水滴を払おうと骸は顔を掻き上げた。
その仕草が妙にカッコイイから余計に腹が立つ。
「追い焚きすればいいじゃん」
口でお湯をブクブクさせながら言う。
「君がそっちにいるから押すに押せないんですよ」
確かに俺は今給湯口に座っているから追い焚きを開始してしまうと俺の身が危険になる。
両手を広げて、ほら、と骸が言う。
そんな風にされたら断れないじゃないか。
そう思い、渋々骸の方に行く。
骸に背を向けて座ると、両手で完全にホールドされてしまった。
「クフ、小さいですね」
腕の中にすっぽり収まりますね、と言いながら骸は俺の頭を撫でる。
「うるさいなぁ」
煩わしく思って手を払おうとする。
が、払おうとした方の手をそのまま捕まれてしまい完全に身動きがとれなくなってしまった。
「これでボスだなんて」
軟弱ですね、と鼻で笑ってくる。
「お前見てろよ。10年後の世界で何が起こるかわかんねーからな」
むすっと膨れていると後ろから骸に抱き締められた。
肩に顔を疼くめているせいか、温かい息がかかり少しドキッとする。
「本当、幸せですね」
耳元で骸が低い声で囁く。
腰に来る声に必死に反応しないように自分を律する。
「な、何がだよ……」
「こうして一緒にいられることがですよ」
(そっか……)
手繋いだり、抱き締めたりは前からしていたが、結局体はクロームの物だから行き過ぎた行為は出来なかった。
だから、こうして一緒に風呂に入ったり、キスしたりするのは肉体が戻ってきてからだった。
そして骸が異様にベタベタしてくるようになったのもそれからだった。
「お前さ、まだ俺の体狙ってるの?」
「ん?」
後ろから骸が覗き込んできた。
「だって契約って、マフィアの殲滅って……」
「あぁ、そんなこともありましたね」
「はぁ?」
そう言っておれは振り向いた。
そこには満面の笑みの骸の顔があった。
「だって僕、死ぬ気の炎で浄化されてるんですよ」
「でもあんだけ言ってたじゃん」
ヴァリアー戦だろうが、なんだろうか会えば契約、契約うるさかった。
「だってそう言っておけば怪しまれないでしょう」
「えー……」
そんな理由で命を狙う振りをしてたって、コイツ頭おかしいだろ。
やっぱり骸の考えてることはよく分からない。
まぁ、と呟くと骸は俺の両手を自分の両手で包んだ。
「正直、マフィアの殲滅は今でも考えてますよ」
「!?」
離れようとしたが、両手を強く握られる上に、骸が背中に覆い被さるようにいるから抵抗するに出来ない。
「そうすれば僕と君だけの世界が実現されるじゃないですか」
「……」
真顔で言う骸に言葉を失う。
すると骸はニッコリ笑った。
「ねぇ、綱吉くん」
(あれ?)
今まで沢田綱吉、って呼んでた筈なのにとか思うや否や骸は俺の体を強引に自分の方向に向けた。
「え、むく」
抵抗する間もなく骸に口を塞がれる。
今までは骸が俺の高さに合わせていたのに、骸は俺の顔をぐっと掴んで無理矢理上向きにしてくる。
苦しいのに、捩じ込まれた舌のせいで体の力は抜けていく。
「大好きですよ」
一通り楽しんだのか骸は俺を担いでそのまま風呂を出る。
ぼおっとしている俺の体をバスタオルで適当に拭くと骸は俺をそのままベッドに連れ込んだ。
「だから、ね?」
何が、ね?だバカ。
そう言おうにも体の力はもう殆ど無いので抵抗するのも無駄だと気付く。
風邪引くな……とかそんなことを思ったものの、スイッチの入った骸は誰にも止められないので俺は骸をしがみつくように抱き締めて、骸の口付けに必死に答えることにした。