仕事の報告を受けているときに骸を見てふと違和感に気付いた。
「骸、お前ピアスは?」
十年前は両耳に確か3個ずつ位付いていたのに今見たら骸の耳には1つも付いていなかった。
「ピアスですか?そう言えば随分付けてないですね」
耳に触れながら、カフスは付けれるんですけどね、と骸は呟いた。
「お前ピアス似合ってたのに。と言うか穴は?」
よく見ると穴が1つもない。
「あぁ。ヴィンディチェの牢獄にいる間に塞がってしまいました」
そんな、1ヶ月付けなかったから塞がりました。みたいに軽く言うなよ。
「まぁ、牢獄に入れられるときに全部没収されるのでその時から付けてないから……ざっと10年ですか」
「……10年後」
クロームや工作員に憑依してこちらの世界に来ていたものの、肉体自体は牢獄の中だったのだ。
だから、目の前にいる骸とこうして会うのは実際のところ十年振りなのだ。
「そうだ、綱吉くん。ピアス開けてくれませんか?」
「ええ!!俺が!?」
閃いた、みたいな笑顔で骸は俺に言う。
「はい」
「何でだよ!!自分で開ければいいじゃん!!」
「……けじめ、ですかね」
あれだけ笑顔だった骸が一瞬表情を変えて何か呟いた。
「それに、ピアス付けてた方が好きなんでしょ?」
「お前なぁ……」
「クフッ」
「で、なんでこれなんだよ!?ピアッサーじゃないの!?」
僕が彼に渡したのは一瞬で終わるピアッサーでは無く、痛みが直接的に伝わり、刺した側にも感覚が残るニードルだった。
「だって痛い方が良いじゃないですか」
「……ドMか」
「何か言いました?」
「いや、別に」
ピアッサーと仮止めの用のピアスは渡したのはいいものの、初心者に当て板も無いまま針で刺せと言うのはあまりにも可哀想な話だ。
「そうですね…綱吉くん、要らない紙の束とか、何かゴム板とか無いですか?」
「え、あぁ。消しゴムなら」
そう言うと彼は机の中から消しゴムを出した。
「じゃあ、それで」
ソファに座り、自分の膝の上に向かい合うような形で彼を座らせる。
「どこに開ける?」
印を付けるために片手にペンを持った彼は僕に聞いた。
「好きな場所で構いませんよ」
「えー……」
軟骨辺りでも良いのだが、結局彼は無難な耳朶にした。
「耳の後ろのところにそれで支えて、」
「こう?」
耳朶の後ろに消しゴムを添える。
「板に刺すつもりでそのまま」
「開けるよ……」
プスッと針が耳を突き抜ける。
耳を冷やすのを忘れたのと、彼の若干の躊躇いが痛みを生む。
「……ッ」
「ごめん、痛かった?」
じわりと血が流れるのを感じる。
「えぇ…冷やすの忘れてたので…」
彼のおろおろとした顔を見ていると何だか心配になって自分で仮止めのピアスを針と入れ替わるように刺した。
「まぁ、痛い方が良いんですけどね」
「え?」
(この痛みがずっと残ればいい)
「綱吉くん、」
膝の上に乗せた彼を見つめる。
「……何?」
「これは誓いです」
彼の右手を取りおでこをこつんと合わせる。
「本当は背中を全部埋め尽くすぐらいの刺青をしないと駄目なんですけどね」
「いっ、刺青……」
彼の顔がサーッと青くなる。
「これはケジメですからね。上から色々言われてるんで」
「あぁ……」
六道骸 ヴィンディチェ脱獄
正式にはミルフィオーレファミリーを利用しての出所
だからヴィンディチェも僕を再確保することは出来ない。
言わば晴れて自由の身なのだ。
(ただ、)
マフィアを殲滅しようとした人間がボンゴレファミリー内にいるのだ。
霧の守護者を六道骸からクロームにしろと言う意見が出ている。
今すぐ殺せと言う人間も少なくはない。(まぁ僕を殺したところでクロームも使えなくなるから意味がないんですけどね。)
ミルフィオーレファミリーとの抗争が終わった後、アルコバレーノからは覚悟を決めとけと言われた。
だから、
「僕はもう君無しでは生きられない。
君を裏切ることはできない。
二度と君と契約しようとしない」
手の甲に触れる程度のキスをする。
「……お前、ホントドMだな」
照れ臭そうに彼は言った。
「忠誠心があるって言ってください」
笑って言うと彼は僕を抱き締めてきた。
彼の腕に力が籠る。
彼も覚悟したのだろう。
上からの反対があろうときっと彼は僕を除名なんてしない。
彼が、ボンゴレファミリー10代目ボスとして彼自身で決めたのだろう。
「……もう、離さないよ」
「えぇ。離れたりしません」
(だって、)
だって、君は僕の神様なんですから。