patiri | ナノ


いつものように二人が狭いベッドの上でごろごろと怠惰な時間を過ごしている時のことだ。
不動がふいにもぞもぞ動いて、うつ伏せに寝そべる源田の上に寝転った。豊かな髪の毛に埋もれるそのしっかりした肩口へと頭をつっこめば、あたたかい吐息がそわそわと首筋にあたり源田はなんとも情けない声をあげた。思わず上体を起こしかける。しかし、大人しくしてろと短く言われると、また元の体勢に戻った。
日頃のしつけのたまものである。

「不動、くすぐったいんだが…」
「お前、今日なんかつけてんのか?」
「どういう意味だ?」
「なんかいつもとにおいが違う。」
「ふっ、風呂はちゃんと入ってるぞ!」
「はあ?別にそういう意味じゃねえよ。いつもは花みてえだろ。今日はせっけんみてえなにおいだ。」
「…そうか…。」
「…んだよその微妙な反応はよお。」

すぐに腹を立てる不動はかぶりと目の前の耳をかじった。皮膚越しに布団の心臓がはねたのが分かる。そのままがじがじと子犬のように甘噛みを続けると、下敷きにしている身体はどんどんあたたかくなっていく。その体温が中々悪くはなかったので、髪の毛を鼻先ですりすりかきわけて、首筋にちゅうと口付けてやった。小さく吐息がもれる。

「…同じにおいがするって、言われたんだ。」
「あ?」
「…俺は『時々不動と同じにおいがする』と、佐久間が。」
「…だよそれ。」

不動は再び源田の肩へと顔を埋めた。それから、胸いっぱいにそのにおいを吸う。
しばし反芻。

「…わかんねえ。」
「俺も分からん。でも、不動は確かに、せっけんみたいなにおいがするぞ。」
「まじかよ…それもわかんねえ。」

くすぐったい、そわそわした沈黙がゆっくり過ぎて、源田はぽつりと言った。

「でも、お前と同じにおいなら少し嬉しいな。」

顔は見えないが、その声からは柔らかさを感じる。あまりにもしあわせそうに言うので、不動は参ってしまった。
でも彼のプライドはその事実を認めたがらない。認めるどころか、目の前の首筋を思い切りがぶりだ。鈍い痛みに驚いた源田が大きく身動きする。上に乗っかっている不動もつられて体勢を崩してしまった。
その拍子に、どこからともなくふわりとせっけんの香りがした。


移り香の恋人たち




――

100clap企画その3
「不源であまあま」

どうも私は部屋でごろごろする二人が好きみたいです…。
あまあま…になっているでしょうか…?(こわごわ)
少しでもお楽しみいただけたらさいわいです。
リクエストありがとうございました!

ここに置いてある間はお持ち帰り自由です^^


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