形成逆転したいの!!
「おい、小娘」
「………」
「……聞いてんのか?」
「………」
「無視とは、いい度胸じゃねぇか」
「………」
「……チッ」
『無視』かどうか?
もちろん『無視』よ?
だって
……今日ぐらい『勝って』みたいじゃない?
*******
部屋のなかで響くのは、本のページをめくる音のみ。
いつもだったら、大盛り上がりしないでも、お菓子でも食べながら他愛のない世間話をしたりしている。
いつもならば、サクラはサソリの目の前で本は読まない。
それは、本の世界じゃなく、サソリのいる世界を見ていたいからという理由からだった。
しかし今のサクラは、サソリから目を背けている。
胸がチクッと痛むのは、気のせいと言い聞かせてみるものの、隙を伺って本からサソリに視線をズラすあたり、サクラは折れかけていたが。
たかが『ちょっとしたこと』で拗ねやがってとでも思ってるの?私は怒ってるんだから!
と視線に込める想いはなかなかに強い。
そこでサクラのとった行動…それは、誕生日をすっぽかされたという大義名分のもと、サソリよりも優位に立とう!というものであった。現在好評実行中である。
「サクラ…」
「………」
珍しく今のサソリは、いつものような勢いというか、凄みというようなものがなかった。
普段はあまり呼ばない名を呼ぶほどに、いつもと違ったサクラの反応に、どこか確実に焦りを感じているようだ。
「お前、一昨日は…」
「一昨日?『3月28日』のこと?」
サソリの言葉を遮るも、本から目を外さなかった。
わざわざ日付けを言ったのが効いたのか、サソリからは不機嫌さと居た堪れなさが入り混じったようなオーラが。
「『一昨日』はとっても楽しかったわ。一日中デートだったし」
「デートだぁ?」
先程までの態度が一転。いつものように、言葉の節々に刺々しいものが張り付きはじめた。
「誰とだ?」
「何がよ?」
「お前は彼氏のオレ様を差し置いて、誰とデートに行ったんだ?」
「………」
「答えろ」
「……サスケくん」
「………」
「と、ナルト」
「………」
「サイにシカマル、それからキバと…」
「…………」
「…我愛羅くんでしょ……あ、デイダラにトビと、イタチさんとペインさんも!」
「……………」
顔見知りの男どもの名が彼女の口から、次々と出てきたためか、ただただ言葉を失うしかなかった。
が、サソリは何を思ったのか、すぐに立ち直る(?)と、サクラの前に回り込み、読んでいる本に手を伸ばした。
「何すんのよっ!!」
「…本当に、楽しかったのか?」
「何が…」
「デート」
真っ直ぐとサクラの目を見詰めるサソリ。距離にして、約5p。よく見れば、口角が少しあがっていて……
──って、このままじゃ『いつも』と同じじゃないっ!
と、必死で頬が赤くなるのを抑えようとするサクラは、一昨日のことを思い返した。
「…も、もちろん楽しかったわ!」
「………」
「楽しかったんだから…」
そういうも、サクラの目には溢れんばかりに涙が溜まっていた。
ひとしずくも零すまいと必死に目を見開いて震えるサクラに、ばつが悪そうな表情で手を伸ばすサソリ。
「悪かった。だから……」
そのままサソリはサクラを胸の中に引き寄せた。
優しい手付きで、サクラは後頭部を撫でる。
ずるい。今日は『いつも』と違って、『勝って』仕返し!なんて思っていたのに…
というサクラの願望は、サソリの温もりに包まれ、ゆるゆると小さくなった。
「ほら、手ェ出せ」
「えっ……?」
思わず顔を上げる。
待つのが嫌いなサソリは固まっているサクラの左手をとる。
刹那、その薬指に感じる冷たさ。
「っ!」
それは、銀色に輝く、桜の舞っている輪。
「これって」
「悪いな。不格好で…」
「え」
今の一言でサクラはハッとする。器用なサソリのことだ。シルバーアクセを創るなど、造作も無いことかもしれない。
「サソリ、」
「言っとくがなぁ…オレは『3月28日』ほど、大切だと思う日は無ェぜ」
「……」
「お前が…サクラが生まれた日だからな」
「……うん」
形成逆転したいの!
…でも、遅れて贈られたプレゼントは、とても素敵なものでした。
End
→おまけ
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2011.3.31
2013.10.23修正
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