『河』に乗った願い






顔を上げれば、沢山の小さな輝きからできた『河』


視線を落とせば、先程の輝き達と、自分の姿が映った『河』


私は、二つの『河』にそっと、願いを乗せた。





*******





あの人の髪と瞳と同じ漆黒のこの空のどこかに、離れ離れになってしまった二人…織姫と彦星がいる。

今日は、そんな二人が会うことの許された日。一年で会えるのは、たった一日……





「私は、一日すら会えない」

「…サクラ?」

「あっ…」





気付けば、怪訝そうにいのに顔を覗き込まれていた。





「何、ボケッとしてんのよ!」

「ご、ごめん」





今日は二人とも非番。

甘味処で『七夕限定スイーツ』が発売されているから、食べに行こうといのに誘われたのだ。

久しぶりに、ゆっくり二人きりで話した。

……といっても、いのが一方的に話した(正くは、一方的に話すしかなかった)のだが。





「せっかくの休日に、何辛気臭い顔してんのよっ!」

「ごめんって…」

「織姫と彦星に嫉妬は、どうかと思うわよ?」

「っ、」





さすが親友と言うべきか。
今日一日、ほとんど黙りこくっていた理由を見抜いていたなんてね。

そう。いのの言う通り、私は嫉妬している。


馬鹿なことだってわかってる。


俯くと、ため息が聞こえた。
多分、私のことを呆れてるんだと思う。





「ほら、行くわよ!」

「えっ?!」





いのは私の腕をむんずと掴むと、有無を言わさぬ勢いで歩み始めた。





「ち、ちょっといの!一体どこに……?」

「本当に、人の話聞いてなかったのね」

「うっ…」





いのと話したということは、覚えている。
何について話したかは、定かではないけど…。

しまいには、『七夕限定スイーツ』がどんなものだったのかでさえ、あやふやな状態。

間違った嫉妬の矛先。

でも、そう思うのは、どうしようもなくて……気を抜けば、涙が出てきそうだ。





「ここよ♪」

「へっ?」





突然のいのの言葉に、思わず間の抜けた声を出してしまった。
そこは…





「河……?」





目の前には河。

それに沿って、出店が立ち並び、多くの人で賑わっていた。
あまりの人の多さに、言葉を失った私を、現実に引き戻したのは、やっぱり親友で。





「七夕祭りよ」

「お祭り?」





そういっていのは、一枚の紙を私に突き付けた。
今朝、甘味処に向かう途中で貰ったチラシらしい。





「……『《願いが叶う河》願いを笹船に乗せて河に流すと、願いが叶う』……?」

「そうよ♪」

「笹船?」

「『願いを書いて川に流すと、願いが叶う』」





そういっていのは、右手人差し指を上げた。
つられていのが指差す方向を見ると、笹の葉っぱに願いを書いて河に流す人たちの姿が見えた。

みんな、いろんな願いを一生懸命込めて書いてる……。





「離れ離れになって、再会するときの喜びは、あんたが一番良く知ってんでしょ」

「いの……」

「さ、行くわよ!」

「…うん!」

「(やっと笑った……)」

「どうしたの、いの?」

「別に。早く行くわよ!」






二人は、願いを流す人たちのもとへかけて行った。







***







「おっ、お嬢さんたちも、笹船流すかい?」

「「はいっ♪」」




はっぴを着たおじさんは、にっこり笑うと、私たちに笹の葉とペン、ピンク色の紙を渡した。





「はいよ。ここのは、本当に願いが叶うからなっ!」

「……おじさんもお願いしたいことあるの?」

「おうよ!バッチリ叶ったぞ!」

「えっ!?どんなお願い?」

「お、教えられねぇな。そ、そういう事は、ふ、普通、言わねぇんだよ…」





明らかに挙動不審になったおじさんの言動に、私といのは顔を見合わせて笑った。
大切な誰かを想っての願いなんだろうなぁ……。





「ところでおじさん」

「なんだい?」

「このピンク色の紙は何ですか?」





貰った紙をヒラヒラとさせて聞いてみると、おじさんは待ってました!と言わんばかりの笑顔で答えてくれた。





「そいつは、『帆』だよ。」

「「……『帆』?」」

「笹だけで上手いこと進む船をつくるのは、難しいからな。特にああいう子たちは」





おじさんの視線の先には──





「ねぇ、お願い書けた?」

「まだぁ!姉ちゃんはやいよぅ!」

「早くしてよ!」





きゃっきゃと楽しそうな5、6歳くらいの姉弟。





「なるほど」

「好きな形に切ってもいいぞ!」

「アンタは豚にでもしたら?」

「それはそっちでしょ、いのブタちゃ〜ん!」

「何ですって!?」

「お嬢さんたちは仲が良いなぁ!」





笹の葉っぱの裏には書く場所が少し。そのためか、何を書こうか迷っている人たちの唸り声が聞こえてきた。
でも、私は迷いなく書き込んだ。

私の願いは、たった一つ…





「書いたかい?」

「「はい」」

「何、書いたんだい?」

「教えませんよ」

「そういうのは言っちゃいけないんですよね」

「そうだったなぁ!」





いのはハートの、私は桜の形をした帆を携えた船をつくった。

もし、あなたが河で船を見つけたら……
私の願いを知ってほしいから……


でもまた──










『お前、ウザいよ。』











って、あなたは言うのかな……



空を見、河を見。

どちらにも輝く星を見ていると、自然と涙があふれてきた。

誰かに見られる前に、誰にも気づかれないように、すぐに涙を拭う。





「流そう、いの」

「うん」





もう一度、空の星を見上げながら笹船に願いを乗せて、手を放した……



『河』に乗った願い

貴方に届けばいいのに…

End
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2013.10.21修正
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