恋も学年も、進級します







丁度お風呂から上がって、髪を乾かしながらのんびりしていた時、携帯が鳴り響いた。

ディスプレイには二個下の後輩…越前リョーマの名前。


中学生の時に部活の後輩とマネージャーという関係の私たち。だから、電話なんて珍しいなと思いつつボタンを押した。






***







『学校見学?』

《そ。学校の宿題なんすけど…》

『ああ、そういえば私の時もあったなぁ…内部進学する子は凄く文句言ってたの覚えてる』






電話の内容は、いたってシンプル。
私の通う高校を見学したいというものだった。

そういえば、越前くんの知り合いの先輩で、外部進学したのは私ぐらいかもしれない。



中学三年生に義務として課せられる宿題の中に、「高校見学レポート」なるものがある。内部進学するかしないかに関わらず、高校を最低でも、二校は見学しなければならないという代物だ。

青春学園にはエスカレーターで進学する子が殆どだが、私はさっきも言ったように、高等部には進学せずに外部受験した。


実は結構ギリギリまで黙ってたから、菊丸くんにはかなり怒られた。桃くんには泣かれて、それをイラついた海堂くんが指摘したら喧嘩になって…

その様子を、あぁまたかって思いながら見てたら、超笑顔の不二くんにジリジリ迫りながら問い詰められて…

誰かに助けて欲しくって、周りを見たけど、大石くんと河村くんはオロオロしてるだけだし、乾くんは何かをノートに書き込んでて、手塚くんと越前くんに関しては、腕組みして睨んでくるだけだった。


あの時助けてくれなかった恨みはあるんだぞ、越前くん!

とは思ったけど、可愛い後輩のお願いなので、二つ返事で了解した。





『じゃあ、明日にでもする?善は急げって言うし…』

《いいんすか?みょうじ先輩の予定に合わせますけど…》




頼んでるのは俺の方だし…と言う越前くんに、つい笑ってしまう。




『後輩は先輩に頼ればいいんだよ!お姉さんに任せて!』

《……ウィっす》





どこかトーンの落ちた声に不思議に思ったけど、気にせず明日の予定を立て、おやすみと言って電話を切った。


越前くんも中3なのかー…なんて考えながら、私は眠りについた。






***






一応、駅から学校までの道のりは把握しているとは思ったが、念のため駅の改札口前で越前くんを待つことにした。中3で迷子になるとは考えづらいが、油断せずに行こう!の精神はいつも大切だと、私は思う訳で。





「みょうじ先輩」

『わ、越前くん!?』

「……何そんなに驚いてるんすか」

『ごめんね、背が伸びてて、一瞬わからなかった…』

「…それ、軽く失礼だと思うんですけど」

『ごめんなさい…い、行こうか?』

「…ッス」





隣に並んで歩くから、余計に強調されるが…

越前くん、本当に背が伸びてる!!男の子の成長期、恐るべし!!


テニス部に入部してきた頃は、私といい勝負(そのおかげで同い年だと思われた)だったのに、今や軽く見上げなくてはならない。


大きくなって……お母さん嬉しいっ!←





「何そいつ、みょうじの彼氏?」




なんてふざけたことを考えていたせいか、いつの間にやら学校門に差し掛かっていた。それに気付いたのと同時、ほぼ真横から声をかけられた。

声の主は、同じクラスの男子。何かと私に「お前には彼氏が出来ない」だの、「絶対売れ残る」だの言ってくる、天敵みたいな存在。

ふと、これは何時もの恨みを晴らすチャンスなんじゃないかと、頭の悪魔が囁いた。もちろん速攻でその手を取りました←





『うん、そうだよ!かっこいいでしょ?』





越前くんの腕に自分の腕を絡ませて、頭は肩にくっつける。


呆然とした顔で立ち尽くすクラスメイトに、いい気味!と心で大笑い。でもま、後日何か言われるのは嫌…というか、越前くんが困るだろうし…なんたって越前くんは私の大切で自慢の後輩だって教えてあげますか。





『ふふっ、なんて、冗だ…っ!?』





冗談だとは、ハッキリ言えなかった。何故かって?それは…






「…そうっす。なまえはオレの彼女なんで、手出さないでくださいね?」





私の唇が、越前くんの唇によって塞がれたから。

越前くんは唇が触れ合ったままクラスメイトにそう言うと、私の下唇を舐める。

ビクッと反応した私の肩に対してなのか、ニヤッと笑うと、越前くんは私の肩に腕をまわしてズンズン校舎へと進んでいった。






ねぇ、下駄箱こっちー?なんて呑気な声に漸く我に返る。

歩くのを止めると、越前くんもそれに続く。






『なんで…なんで…










公共の場でキスなんてしたの!』

「そこ?」





そこ以外に何処があるというのだろうか。

だって、学校門でだよ?

教育の場の真ん前ですよ?

そりゃ怒るに決まってるでしょ!?


と捲し立てると、越前くんにため息をつかれた。納得出来ない…!





「じゃあ……キスしたことを怒らないってことは、嫌じゃなかったってことでいいんでしょ、なまえ?」

『っ、そんなこと…』





ない?本当に?

なら何で私は、越前くんを突き飛ばしたりしてでも止めなかったの?

それは後輩だから?
それとも、テニスしてるから、傷をさせちゃいけないと思ったの?



……ううん、そうじゃない。

私は……




ぐるぐる考えていると、私の両手がキュッと握られた。







「俺ずっと、みょうじ先輩が…なまえが好きだよ」

『っ、越前、くん…』

「だから…俺のものになってよ」





真剣な越前くんの瞳は、まるでテニスの試合をしているくらい、強く光っていて。





『……はい、リョーマくん』






そんな瞳を見てたら、心に燻っていた言葉が、すんなりと出てきた。

越ぜ…リョーマくんは、少し驚いたように目を見開いたけど、クスッと笑うと、私を抱きしめてそっと囁いた。



恋も学年も、進級します

(片思いから両思い、後輩から恋人にね…)



End
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2014.03.18

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