愛しい寝顔
授業が終わり、いそいそとお菓子の袋を開ける丸井に、なまえは思わず笑う。
…このだらしない顔、かなり無防備だなぁ。
ふとそう思うものの、考え直す。
『人間、一番無防備なのって、やっぱり寝顔…?』
「なんじゃみょうじ、突然藪から棒に」
「変なモンでも食ったかよぃ?」
「丸井じゃあるまいし、それはないぜよ」
「なんだと!?」
ただ思っていたことが口から出ていたことに、なまえは今の自分こそ無防備じゃないか、と苦笑する。
独り言をバッチリ聞いていた丸井と仁王は、わざわざ体ごと反転させなまえに向き合う。
「で、寝顔が何なんだ?」
『あ、いや。何となく、人間の無防備な姿って、寝顔かなって。そうなると、さ…
私、幸村くんの寝顔見たことないなぁって思ってさ』
苦笑いするなまえに、眉を顰める仁王。
「みょうじは、幸村の寝顔が見たいんか?」
『まぁ…何ていうか、こう。気になるなぁ…みないな?』
だって、二人の寝顔は授業中に見たことあるし。
でも、幸村くんは同じクラスになっても、授業中ウトウトする姿は見たことがない。
もしかしたら、ウトウトしてはいるけど、私が見たことないだけ?
なまえがぐるぐる考えていると、丸井が目を見開く。
「まさかみょうじ、お前…」
まさに驚愕!というような丸井に、何か変な勘違いしてないかと不安に駆られる。
疚しい気持ちなどなく、ただの興味本位で言ったためか、よくよく考えてみたら、結構大胆発言だったかもしれないと気付いたからだ。
しかし、そんななまえの心配と予想のはるか斜め上を丸井は行った。
「お前…
幸村くんの寝顔の写真でも売りさばくつもりなんじゃ…!?」
『そこまで死に急いでませんから!』
「けど、ファンには結構な額で売れそうなのは確かぜよ」
『仁王まで…』
「俺の寝顔が、まず、そう簡単に見れるとでも……?」
『そうだよ!そもそも私は、幸村くんの無防備な所ってあまり見ないよねって言い…たく、て…』
変に悪ノリを見せた仁王に叱責しようとした瞬間、それに被さる第三者の声。
聞き慣れた声だけあって、なまえ、丸井、仁王は、ピシッと固まる。
「そうだね。俺に死角はないからね」
ギギギギギ…という効果音が聞こえそうなほど、ゆっくりと振り返った先には…
『ゆ、ゆゆ、幸村くん!』
「やぁ、みょうじさん」
『えっと、あの…いつから、そこに?』
「うーん…みょうじさんが、人間の一番無防備な姿は寝顔だって言ったあたりからかな」
ああ、はい、分かります。
つまり最初からってことですね…!
先ほどから一切ぶれない笑顔の幸村に、言い知れない恐怖を感じる。
『あ、あのね!それは変な意味で言ったんじゃなくて…!』
「大丈夫。話を聞いてて、何となくみょうじさんの言いたいことは分かったし。それに…」
幸村はスッと体を屈めると、座っているなまえの耳元に口を近づけ、そっと囁く。
「そんなに俺の寝顔が見たければ、襲われる覚悟で覗きにおいで」
愛しい寝顔
拝めに行く勇気があるはずもなく…
(や、イイデス。間に合ってマス)
(ふふっ、そう?…残念だな)
((何が!?))
End
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…これ何て無理ゲー?
多分人によっては命がかかるかも…
タイトルは『秋桜』様よりお借りしました。
2015.8.2
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[ mokuji]
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