お礼なんていいんですよ








コツコツコツコツ…





あぁ、またか……






私を悩ませる靴の音が






今日もまた鳴り響く。



***




『ぅう〜……いい加減にしてよ…』






そうつぶやいて、歩くスピードを少し上げる。



街灯は元々少なく、月明りが雲によって遮られているため、いつも以上に暗い帰り道。

その暗さが私の恐怖心をさらに煽っていた。






コツコツ……ピタッ






数メートル後ろから響く足音。
私が止まれば、その音も止まるわけで…


つ、次の角を曲がったら、走ろう…!



そう心に決めて歩き出す。
当然後ろからの音も動き出す。


私の勘違いで終わってくれたらよかったのに!!



あと2メートル…角に差し掛かった瞬間、右足で強く地面を蹴った





『っひゃあ!!』

「おっと、」





ら、何かにぶつかった。というか、人にぶつかった。





「大丈夫ですか?」

『はい、大丈…』

「だから1人で残ってはいけないと言ったんですよ?」

『え、あの…』

「さあ、家まで送りますよ。彼氏ですからね」





人にぶつかったことと、後ろからの気配のせいでパニック寸前になった私の頭は、この人のせいで真っ白になった。
え、か、彼氏とかいないし、何よりこの人とは初対面の、はず…?

固まる私をよそに、ぶつかったこの人…オッドアイの綺麗な男の人は柔和な笑顔で私の腕を優しく引っ張る。






「ふぅ…あなたも、ずいぶんと変なものに好かれたみたいですね」





明るい大通りに出て彼は困ったような顔で話しかけてきた。何時の間にか腕は離されていたけど、やっぱり何が何だかわからない。





「ああゆう輩は気然とした態度で対処すべきですよ」





ああゆう輩…つまり、この人は私をあのストーカー(だと思う!)から、守ってくれたってこと?

こんな私なんかの彼氏のふりまでして?

それなのに私ってば、ずっとボケっとしてたってこと!?

それって…かなり失礼じゃない!!







『あ、ああ、あのっ!』

「何でしょう?…もしかして、家から逆に来てしまいましたか?」

『違います!』

「やはり、そうでしたか。僕としたことが…」

『え、そういう意味で言ったんではなくて、その、違うけど違くなくて…と、兎に角、助けてくださったお礼が言いたかっただけで…っ!!?』






家はこっち方向でむしろ合ってるし、だから違うんじゃないけど…あれ?もう、本当に何が何なの??

寂しそうな顔をされて焦った勢いでまくし立てたせいか、ポカンとしてしまった彼を見て、さらに1人勝手に混乱する私。

ふと頭に重みを感じて、視線を上げると、クスリと微笑む彼とバッチリ目が合うわけで。
は、恥ずかしい…っ!






「なまえの言いたいことはわかりましたから、大丈夫ですよ。安心して、落ち着きましょうか。それに…」




お礼なんていいんですよ






そう私の耳元で囁いた彼に、心が揺れた気がした。




End




ーーーーーー

タイトルは『(C)確かに恋だった』〜仮面紳士な彼〜から

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