幼馴染とは厄介である







「なまえが羨ましいわ…イケメン幼馴染とか、何て乙女ゲ?」





友人ゆずきの言葉に、つい眉間にシワを寄せる。羨ましい?幼馴染なんて、辛いんだよ?

…なんて本音は、勿論心の中に留めておく。


この居心地の良い関係を壊したくなくて、告白するかかなり悩んだ。けど、やらずに後悔するくらいなら、やって後悔しようと決意した私は、幼馴染の真琴に告白した。


結果は、まさかのカップル成立。つい泣いてしまったことは、ゆずきにだって秘密だ。



けれど、幼馴染なんて関係は、やっぱり辛い。ゆずきの言う羨ましいは、ここにある。






「橘くんと七瀬くんの2ショット…はぁ、あんなの毎日近くで見られるなんて、本当羨ましい…」

『……』






わかっただろうと思うが、私の友人はかなり残念な人なのだ。真琴と遥は確かによく一緒にいる。今だって、彼女である私を放置するくらい。

でも、仕方ない。だって、幼馴染だから。


私だけ真琴を独り占めなんて、出来ないんだ…


そう思うけど、たまにはいいよね?今日は久々に水泳部がない日だと言ってたから、真琴と二人っきりで帰れるかもしれない。


思い立ったが吉日!

ゆずきにまた明日!と言って、帰りの支度が終わったらしい真琴に声をかける。






『真琴、帰ろう!』





二人で!という前に、真琴の言葉が被る。





「帰ろうか…ハル!」





ねぇ、何で?

どうして遥を呼ぶの?私より先に…





「……どうした、なまえ」

「え、あ…なまえ?具合でも悪い?」





しかも、私の異変に気付くのが、遥が先だなんて…


キッと真琴を睨みつけるけど、おかしいくらいボヤけてて。ああ、私泣いてるのか…と他人事みたいに思っていると、真琴の手が頬に近づいてきた。

反射的にその手を払い除けてしまう。酷く傷付いたような真琴の顔が見えても、今の私にはなんとも思えなかった。





『真琴のバカーーー!!!』





気付けば外にいた。

今自分がどこを歩いているのかすら、わかっていない。とりあえず、ぐしぐしと泣いて、酷い有様なんだろう。すれ違う人の大半が驚いた表情で二度見してくるから。

高校生といえば、それなりにいい年してると思う。なのに今の私は、相当滑稽だろう。

もう真琴に嫌われたー、めんどくさい女だって思われたー、と自己嫌悪に落ち入りながら俯いて歩いていたせいか、誰かとぶつかってしまった。その前方からの衝撃に堪えられなかった私は、大きくバランスを崩す。





『ひゃっ!?』





ヤバい、倒れる!

次にくるであろう衝撃に堪えようと目を瞑るも、なかなかその衝撃はこない。不思議に思って、そっと目を開くと、私を支える幼馴染の姿。






『凛!』

「どこ見て歩い…って、なまえお前…」





そっと凛は、私から離れると、涙を拭ってくれた。

そういえば、子供の頃にもこんなことあったかも。あの頃の原因は凛本人だったりするけど。





「何だ、真琴とケンカでもしたのか?」

『……』

「…図星かよ」





つい、何も言えなくなった。

これも私の子供の頃から変わらないこと。

自分が悪かったり、不利な状況になると、つい黙り込んでしまう。


凛はため息をつくと、優しく頭を撫でてくれた。あの頃よりも大きくなった手だけど、暖かさは同じ。

たったこれだけのことで絆される私は、相当単純。





『ケンカってほどじゃない。というか、私が一方的に拗ねてるだけなんだけど…真琴ってば、私と付き合ってるはずなのに、遥のことばっかりで……でも、真琴が遥のことを考えて行動するのは今に始まったことじゃないでしょ?』

「まぁ、あいつはそういうやつだろ」

『うん、私だって幼馴染だから、ちゃんと分かってる…仕方ないことだってことも…けど私、真琴と付き合えるようになってから、もっと!って思うようになっちゃった…欲張りになっちゃったんだよ』





またじわりじわりと涙が復活してきた。


でも、これ以上凛に情けない顔を見られなくなくて、必死に笑う。





『こんな私じゃ、嫌われちゃうね…』





凛を見上げたはずが、視界が真っ暗になった。それと同時に、凛の香りが私を包んでいて…





「ならオレにしろよ」

『り、ん…』





背中に回された腕の力が強くなる。

耳元で囁く凛。あの頃よりも低くて、重みのある声。






「なまえ…オレはお前が…」

「はい、そこまで」





凛が少し離れた。それでも唇が触れそうな距離だった。

それが、一気に後ろへ引っ張られ、視界が明るくなった。





「ダメだよ、凛?なまえを困らせちゃ」

『え、』

「っち







真琴…」





いつの間にか、私は真琴の腕の中にいた。





「舌打ちしないでくれよ」

「随分と余裕そうだな。ま、そんなのオレには関係ねぇ。時間の問題だろうからな」

「それはあり得ないよ、凛」

「…気が変わったらこいよ、なまえ。じゃあな」





真琴と凛の会話は、殆ど頭に入ってこなかった。

去って行く凛の背中を、ただ見つめることしか出来なくて。

兎に角、どうして、真琴が…





「…どうしてこんなところに?」

『わっ、かんない…』





真琴にしようとした質問が同じでびっくりした。

それと同時に、私にもわからない…というよりも、真琴の納得するような理由もないことに気付いた。





「じゃあ、何で先に教室出たんだ?

『……』

「なまえ?」





真琴は、私が黙り込んでしまう時は、自分が悪いと自覚している時だとわかっている。

遥や凛は、私が話すまで待ってくれる。

でも真琴は、よく切り込んでくる方だった。他の人からみれば、あの真琴が?と思うかもしれない。

これは、真琴だからこそだ。自分が溜め込んでいるものを、真琴は引き摺り出して、受け止めてくれる。





『だって、遥って呼んだから…。私ね…今日、真琴と二人で帰りたかったの。だけど、真琴は遥のことを呼んだから……二人で帰りたいのは私だけだったんだって思ったら…体が勝手に…』

「ここまで来てた?」

『うん』

「……確かに、遥のこと呼んだけど、それは今日は二人っきりで帰るって言いたかったからだよ」

『え…』





思わず振り返ると、優しい笑顔の真琴。

いつもの真琴がいた。





「オレだって、なまえと二人っきりになりたかった」





太陽みたいに暖かい笑顔は、だんだんと少し悲しげな表情になる。

そうさせたのは、私。

堪らなくなって、体を反転させると、ギュッと抱き付いた。腕が背中に回されたことに、凄く安心して、更に力を込める。





『ごめん、早とちりして』

「いいよ。嫉妬してくれたみたいだし…って言っても、相手がハルってのはなー」





どこか苦笑いの真琴につられて、私もクスクス笑う。

確かに、男の子…それも幼馴染に嫉妬する私って…





『明日、遥にも謝っとく』

「うん。じゃあ、行こうか…」





そう言って真琴は、私の手をキュッと握り締めると、歩き始めた。





『ま、真琴!どこに向って…!』

「このまま帰るなんてもったいないよ。デートしよう?」





爽やか笑顔に、顔が一気に熱くなった。


ああ、やっぱり…



幼馴染とは厄介である
((相変わらず真琴がイケメン過ぎるっ!))
((なまえを凛にとられる訳にはいかないな…))


End
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以上、私の押しメン、真琴くんでした。

うん、凛くんもいいですよねー。虎視眈々と狙ってそうで←


2014.04.07

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