Please,don't kiss me !







私の一日の始まりは、彼氏である渚の笑顔からだ。

どんなに目覚めが悪い朝だって、一気に癒してくれる代物、なんだけど…。



それにはよく、オプションが付いてくる訳で…






「なまえちゃん、おはよう!」

『おはよう、渚…って、ちょっとぉ!?』

「ん?なに、どうしたの?」

『それ、こっちの台詞だからね!?何しようとしてるのかな…?』

「何って…












おはようのちゅーのこと?」






***







『はぁ…』

「なまえ先輩、大丈夫ですか?」

『…ありがと、コウちゃん』





私は今、悩んでいる。

あの朝の渚の…キスを強請る行為に。


渚とのキスが嫌なんじゃない。ただ、もう少し場所を考えて頂きたいのだ。


朝から学校でって…恥ずかしいことこの上ない!



しかも渚は、チャンス(というより、暇な時)さえあればいつでもどこでもキスをしようとしてくる…
二年のクラスに来た時は、本当に自重して欲しかった。まさかクラスメイトの目の前で強請られるなんて…公開処刑もいいとこだ。


同じクラスの頼れる真琴に相談したけど、笑って仕方ないの一点張り。
いや、仕方なくないし、笑ってる場合じゃないからね、本当に!!





『渚、どうにかなんないかなぁ…』

「もしかして、どこでもキスをしてくるってやつですか?」

『何でコウちゃんがそれを…!?』

「今や渚くんのその行為を見ていない生徒の数の方が少ないと思います…」






実は私も見ました…というコウちゃんの呟きは、どうかウソであって欲しい。






『どうにかしたいんだけど…コウちゃん、何かいいアイデアない?』

「あ、えっと…」






スポドリを準備する手を一旦止め、コウちゃんを見つめる。

メニュープリントを挟んだバインダーを顎に当てて考えるコウちゃんは、とても可愛い。


何かを思い出したらしいコウちゃんは、キラキラした目を私に向けた。






「確か、甘えたがりな男性は、女性の方から甘えられると幻滅して、自分からしなくなるらしいですよ」

『そうなの!?』

「は、はい!特に人前だと、より効果が期待されるそうです!なので、今直ぐどうでしょうか?私がバッチリ見てますから!」





効果大ですよ!と笑うコウちゃんに感謝したのを後悔するとは微塵も知らない私は、直ぐ様渚の元へと向かったのだった。






部室から出ると、プールサイドで怜くんと話しつつ、準備運動をする渚を発見。
コウちゃんに目配せすると、そのまま後ろから接近し、その腕に自分の腕を絡ませた。





『な・ぎ・さ!』

「なまえちゃん!?どうしたの、いきなり…」





普段私はこんな風に甘えたような仕草はあまり…というか、殆どしない。それに今は部活中だということも合わさって、私の行動に渚が驚くのは、至極当然なことだ。





『あのね、渚。私の話、聞いてくれる?』

「…うん、勿論だよ」

『渚はよく、私にいつでもどこでもキスをしようとしてるでしょ?』

「だって僕、なまえちゃんが大好きだから!」

『私だって、渚が好き…大好きだよ?だけど、少し考えて欲しいというか…』






疑問符を頭に浮かべたような渚の顔につい苦笑してしまう。


それは、私自身に対する嘲笑でもあって。



本当はハッキリ、私にキスしないで!と言えばいいのは分かっている。

でもそれが出来ないのは、渚が傷付くのが目に見えているから。だけど、むやみやたらとキスするのは控えて欲しい。


あまりに自分が我儘過ぎて、笑ってしまったのだ。



やっぱり何でも無いと、離れようかと腕の力を抜こうとした瞬間、渚はハッとしたような顔で私を見ると、次の瞬間にはくしゃっと悲しげな顔になった。

渚はよく喋る方だが、表情で語ることもしばしばある。






『もしかして渚…私の気持ち気付いてくれた?』

「うん。…そうだよね、ごめんねなまえちゃん…僕、全然なまえちゃんのこと考えてなかった」

『渚!』

「僕がちゅーしようとする時、なまえちゃん、よくさっきみたいな、嫌そうというか辛そうな顔をするのに…僕は…なまえちゃんの気持ち、考えてなかった。ちゃんと考えれば、分かること…凄く常識的なことだったのにね」






眉をハの字にして笑う渚に、胸がキュッとする。必要以上に自分を責めているであろう渚に対する罪悪感と、やっと分かってくれたという嬉しさから、つい渚に抱きつきてしまった。


コウちゃんにアドバイスを聞いてよかった!!


渚は、私の背中に手を回すと、顔を首筋に埋めてきた。くすぐったくて、首を捩ると、耳元に唇を寄せて渚は囁く。






「なまえちゃんだって、自分から甘えたかったんだよね?」

『……うん?』






その内容に、思考がフリーズする。






「なのに僕ってば、自分ばっかりなまえちゃんに甘えちゃって…」

『え、あの、もしもし渚くん…?』

「なまえちゃんだって、甘えたいよね?そりゃー、彼氏に甘えたくない彼女なんていないだろうし…本当、物凄く常識的なことだよね。なんで僕はそこ迄考えがいかなかったのかなぁ…」

『え、無視なのかな、渚くんやい…』

「けどもう大丈夫!」






気付けば背中に回されていたはずの手は、私の肩をしっかりと掴んでいた。






「これからはなまえちゃんからも、もっと僕に甘えてね!僕ももっと沢山甘えるけどっ」






ああ、何も大丈夫じゃないし!

恋人なのに…なのに何でここまで意思の疎通が出来てないの!!

渚の笑顔に、色々な意味でクラクラしたのだった。




Please,don't kiss me !

無理な話でした


(あれ、渚のなまえへのくっ付き具合、酷くなってない?)
(そ、そんなこと無いですよ!ちょっとなまえ先輩の甘える姿が見てみたくて、先輩にウソを教えたなんて事、無いですよ!)
((……なまえ、ドンマイ))

End
ーーーーーーー

甘えたがりの男性に女性から甘えると、もうその人から離れられなくなるそうです。

そういうものなんですかね?

2014.03.21

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