目の前の真実を受け入れて(1/2)
ワイワイと賑わうギルドの扉を開けば…
「ルーシィッ!」
桜色髪がルーシィ目掛けて全力で走り込んできた。咄嗟に身構える。さらにその後ろから…
「待ちやがれっ!」
「待つんだっ!」
黒髪上半身裸の男と、スーツ姿の金髪男が、必死の形相でナツを止めようとしているのが見えたと思った瞬間…
──チュッ……
ルーシィは、飛び込んできたその桜色に、キスされてしまった。
*******
──ドンッ!
「ぐぇっ!」
「な、なな、なっ!?」
なにすんのよ!という抗議の声すら出す余裕などなく、反射的にナツを突き飛ばし、目を見開いてフリーズしているルーシィ。
その前でやっと追い付いたグレイとロキにボコボコにされているナツ。
「何すんだよっ、テメェら!」
「それはこっちの台詞だ、クソ炎が!!」
「まさか本当にするとは思いもしなかったからね!!」
呆然とその光景を見ていたルーシィだが、ハッと我に返った途端にみるみると顔が朱に染まっていった。
「ナ、ナツに…キス、され……」
「ウフフッ」
「っ、ミ、ミラさん!」
ルーシィの隣に立ったミラジェーン。
いつも可愛らしい笑顔の彼女なのだが、今の彼女の笑顔には、何か黒いものがルーシィのみならず、他のギルドメンバーからも見て取ることができた。
「あらルーシィ、顔が真っ赤よ?」
「熱でもあんのか、ルーシィ?」
「っ!」
いつの間にか、ルーシィの顔を覗き込んでいるナツ。
あんたのせいよ!とは言えず、ただ固まるルーシィを余所に…
「なぁ、もっかいキスしてもいいか?」
「…はぃ?」
距離を詰めてくるナツ。
ちょっと待って。何が何なの?
と、ルーシィは頭に疑問しか浮かばず、目を彷徨わせる。もちろん、ナツからそれとなく距離を取ることは忘れてはいない。
「いい加減にしないかい?」
ナツをルーシィから引き離したロキ…だったが…
「ルーシィとキスするのは、僕だよね?」
ちょっと待ちなさいよ!
どこをどうしたらそーなるのよっ!
今度はロキが近いてくることに抗議しようかと考えた瞬間。
「ふざけんな!ルーシィはオレとチームなんだぞ!」
「ルーシィは僕のオーナーだよ。ある意味では、チームだと思うけど?」
ナツとロキの間で、ルーシィには全く持って理解しがたい、よく分からない論争が勃発した。
何故同じチームだと、キスをするという話なのか?
「(それだったら、あたしは…)」
気付けばルーシィの視界には、未だ上半身裸の男……
「(──って、あたしってば何考えて…!)ひゃっ!?」
突然、足が宙に浮いたことに驚いたのだが、銀色のネックレスと青い妖精の尻尾の紋章が目に入った。
「あ、えっ…グ、グレイ…」
「ちょっと静かにしてろよ」
「う、うん…」
黙っててもいいけど、あたしの心臓がかなりうるさいかも…
もしかして、見てたのがバレた?
などと混乱しているルーシィをお姫様抱っこして、グレイはギルドを後にした。
動物系二人は口論のさなかで気づかなかったが──
「ウフフッ、グレイってば、やっと動いたわね♪」
一人見ていた彼女は、天使のような笑顔を浮かべていた。
***
ルーシィがギルドに到着する数分前のこと──
『今日は、どうすっかなぁ〜』
《REQUEST BOARD》の前に立つナツの後ろに、忍び寄る陰が一つ。
『ねぇ、ナツ?』
『おわっ!?……んだよ、ミラか……』
『ウフフッ…今日何月何日か、知ってる?』
『…4月1日じゃねぇか?』
『そう…♪』
ニッコリと笑うミラと、不思議顔のナツ。
『じゃあ、何の日か知ってる?』
『なんかあんのか?』
『今日はね、《エイプリル・フール》よ♪』
『えい…り…ふ?んだそれ?』
『あらナツ、知らないの?それはね…《大切な仲間(チーム)の女の子に、キスをする日》なの♪』
『そうなのか?』
──ガタンッ
──バンッ
椅子から思わず落下する音と、机を思い切り叩いて立ち上がる音…
『ミラちゃん、いくらなんでもそれは無理があるだろ〜』
『そういや、エルザは仕事だろ?』
『ルーシィはまだきてねぇな』
…とギルド内がざわつく中、
『あ、ルーシィだ!』
青い猫が叫んだことにより、同時に3人の男はダッシュした。
***
「……ミラさんってば」
ナツは天然なんだから、信じちゃう……というか、エイプリル・フールを知らなかったのね。と、グレイから今朝の経緯を聞かされ、どこか納得顔のルーシィ。
つまり、ミラの言ったことは《嘘》ではあるものの、《今日》のことを踏まえれば、咎められる者はいないだろう。
ミラを咎めることの出来る者がいるかどうかは別の問題だが。
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