苦い恋だと知ってても(2/3)







「もう、どうしたら…」





そして冒頭に戻る。

肩で息をし、その場にしゃがむようにして軽く項垂れていた。

ずっと辺りを警戒しながら廊下を走っていたために、体力、神経共にかなりすり減らされた状態である。さながら『逃○中』。


流石にここでじっとしていても仕方ないと思い、少し腰を上げた瞬間ーー





「っあ、ルーシィ!!」

「っ!?」




下からの声にルーシィは反射的に腰を上げて階段を駆け上がる。階段の先…廊下一番奥には、上への階段と別校舎へ通じる廊下がある。

どちらへ逃げてもまずい気がして、どうしようかと考えあぐねていると、突然後ろから伸びてきた腕に引っ張られた。
先ほどのジェラール同様、後ろからの引力にルーシィは驚き、目を見開く。


叫びそうになった瞬間、口を塞がれる。後ろに倒れそうな勢いで、階段傍の教室に入れられるかたちとなってしまった。






「んーー!?」





ついに捕まったがチョコを渡すことは出来ない。必死でジタバタと抵抗するも、ルーシィの力ではどうにもならなかった。一瞬のことだったので、誰に捕まったのかわわからなかったが、現状、男だということは想像に難くなかった。ここでも男女の差か!と余計ルーシィを暴れさせる要因となった。







「落ち着けよ…」

「っ」






しかし、耳元で小さく囁かれた声に、ルーシィはピタリと反抗をやめる。


廊下からはルーシィを探す声や足音。








「グレイ、先生…」

「ルーシィも逃げてんだな」

「先生も?」

「ああ」





ルーシィが落ち着き、廊下が静かになったのを見計らい外された手。教室へと引き込みルーシィを助けたのは、この学校の教師である、グレイであった。





「…どうして、グレイ先生が逃げてるんですか?」

「ん?そりゃ…受け止められねぇから…かな」

「え?」






引っ張り込まれた教室は、普段あまり使用しない空き教室だった。

机と椅子が少し埃を被り、教卓側とロッカー側とに寄せられている。ちょうど教室の中心辺りが空いている状態だ。

ルーシィとグレイは、向き合うようにして座る。椅子を出そうと思ったが、少しの音でも聞きつけて誰かが来るような気がしたのでやめた。それ程までに、恐ろしい追手なのだ。


疑問をグレイにぶつけたルーシィだったが、余計に分からなくなる。コテンと首を傾げるルーシィに困ったようにグレイは笑った。





「今日バレンタインだろ?義理とか、日頃のお礼とか言ってチョコを渡されるんだが、中にはどうも本命っぽいやつがあってな」






ルーシィは言葉を失う。

グレイが言わんとすることを悟ったのだ。






「確かにもらう分には嬉しいんだ。オレも男だしな。けど、オレには立場がある。だから、無暗に貰って期待を持たせるより、受け取らない…まあ、贈り物を拒否られて傷付いている顔を見たくねぇっつーオレのエゴもあるな。それと、好きと憧れを同一視してる奴もいる。そんな奴らの気持ちとチョコを、オレは受け止められねぇ。……その辺、ルーシィはしっかりしてそうだな」







ルーシィは膝に拳を置いて、俯きながら黙ってグレイの話しを聞いていた。

そっと顔を上げ、傍に置いていた紙袋を取る。





「もちろんです。なので、あたしのは受け取ってくれますか?」





ニコッと柔らかく笑うルーシィから紙袋を受け取ると、そっと中から容器を取り出した。

赤いリボンで飾られた容器はプラスチックで出来ており、中身が見えている。


明らかに手作りとわかるブラウニーとトリュフ、生チョコの詰め合わせだ。





「へぇ、手作りか…美味そうだな」

「当然です。だって…













あたしの本命チョコですから」

「っ!?」





グレイは息を飲んでルーシィを見やる。何処か切なげで熱っぽい瞳と、薄っすらと染る頬。年齢の割には艶やかな唇に目が行き、今度は唾を飲み込む。





「あたし、グレイ先生が好きです」





じっと見つめていた唇が、ゆっくり紡ぐ言葉に、グレイの瞳は大きく揺れた。





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