ずるいから好きです
夕暮れに染まる校舎を一人で出る。
友人は私用らしく、一人きりで帰るのは随分と久しぶりだ。少し寂しく思っている自分に笑える。
早く帰ろうと足を速めようとした瞬間…
「やあ」
目の前の人物の登場により、完全に足と思考は止まった。
今日私は、一生分の運を使い果たしたみたいです。
***
『え、ひ、雲雀…さん』
「うん」
屋上での一件以来、彼の姿を見かけることはなく、淋しいような、ホッとしたような日々を過ごしていた。
思い人であり、ある意味醜態を晒した相手に、色々な意味で俯く。
『私に何か、用…ですか?』
絞り出した声は、本当に蚊の鳴くような大きさで…声楽部が聞いて呆れる!
恥ずかしさからドキドキして、もしかしたら知らず知らずの内に何かしたのでは!?という考えからビクビクしまくりで。
こんな私、雲雀さんの目にはどう映っているのか…まあ、どう考えたっていい印象ではないだろう。
「いいや。これと言って、特には。ただ…」
『ただ?』
「君と…みょうじさんと少し、話してみたいと思ってね」
『え…』
まさかの申し出に、ポカーンと空いた口が塞がらない。
用が無ければ話し掛けるな、をモットーにするというあの雲雀さんが…私との談笑を望んでいるのか…?
話って…世間話、とか…?
「今度、ゆっくりお茶でもしながらどうだい?」
『えっと、その…』
何ということか。
お茶のオプション付きとは。
これは是非とも受けたい。けれど…胸のざわつきがそれを容易には受け入れない。
どうして、雲雀さんが態々私なんかと…?
「ダメ…かな?」
『っ、』
どこかこちらを伺うかのような表情に、息を飲んだ。
相手が誰であろうと、挑戦的で自信に満ちた顔ばかり向けるような人が…
そのカオは…ズルい!
でも…
ずるいから好きです『…是非とも、お願いします』
このお誘い自体が、リボーンの入れ知恵だと知ったのはそう遠くない未来でした。
To be continue…
ーーーーーーー
紅茶ネタはコミックのあのイラストより。
2014.08.23
[ 6/11 ][*prev] [next#]
[ mokuji]
[しおりを挟む]