きっと夢中にさせるから
傷付けてしまった…
でも、この気持ちだけは…
*******
屋上に1人残された私。
フェンスに右手を掛ければ、カシャンと音をたてて揺れる。グランドには、練習に励む野球部の姿が。
そういえば、さっきの彼は何部だったのだろう。
今日は部活なかったのかな…
私も今日は無いけど。
でも、すぐに帰る気にはなれなくて…。
やっぱり考えてしまうんだ。
あんな風に告白出来たらって。でも、振られるとわかっていて告白する勇気なんて無いから、結局何も出来ない。
思わず右手に力が入る。
悔しくて、辛くて、悲しくて。
ゆっくり空を見上げて、目を閉じる。
『…♪みーどーり〜、たなーびくー、並盛の〜♪』
今の私に出来ることは、あの人が好きなものを、私も好きになることくらい。
だから私は謳うんだ。
あの人の好きな歌。
右手をフェンスから離して指を振る。
誰もいない屋上は、私のオンステージ。
「君、ここでなにしてるの?」
だと思っていたのに。
丁度1番好きな三番を歌い終わった瞬間、うしろからのテノールは、間違いなく私の想い人。
『あ、えと、並盛を眺めたくなって…!』
「ふぅん…」
前を見据えたまま言う。
折角想い人である雲雀さんが、すぐ近くにいるというのに!
まあ、振り返りたいという思いよりも、恥ずかしいという気持ちが勝ったから仕方がないのだけれど。
我ながらかなり苦しい言い訳だと思うが、雲雀さんは特に気にした風もない。
「君は…みょうじは並中が好きかい?」
私のこと知ってる!?と思ったのは一瞬。
風紀委員長だもの。私のこと、ただの女子生徒としか見てないか…自分で言ってて悲しいが、それが事実だ。
今度こそ振り返り、雲雀さんの漆黒の双眼を見つめる。
その黒に、どこまでも飲み込まれてしまいそう。
一歩近いて、笑う。
雲雀さんが少し、目を見張ったように見えたけど、多分気のせい。
『好きです』
声が振るえるかと思っていたが、自分でもびっくりするくらい、ハッキリと言えた。
出来ることなら伝えたい言葉。
あなたが並中を好きなように、
私はあなたが好き。
きっと夢中にさせるから今はその言葉に、真意を隠させてください。
To be continue…
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