飴と鞭





※「暁高校生徒会室」続編





静かな図書館に設けられた学習スペースの机に広がるノートには、いくつかの数式と図形。それらと向き合っていた少女は、一つため息をつくと、握っていたシャーペンを置いた。どうやら問題を一つ解き終わったようだ。

その少女の姿…桜髪の可愛らしい格好…に、目がいくものの、図書館ということもあってか、声をかけることを断念した男がちらほら。

そんな男達に対する優越感を隠し持った男が一人…そっと彼女の耳元で呼びかける。




「サクラ」

「ひゃんっ!」




彼女…サクラにとって予想外の出来事に、予想以上の声量が周りの注目を集めたと思ったのだろう。サクラの顔は赤くなっていく。


…それ以前より、注目を集めていたのだが、当然サクラに知る由も無い。




「すまない。驚かせた上に、随分待たせただろう」

「だ、大丈夫です!」




何とかして平静を取り戻そうとするものの、恥ずかしさとは別のドキドキがサクラを襲う。



「(今のやり取り、ちょっと恋人っぽかった!メルヘンゲットー!)」




駄目元でテスト勉強会を頼んだかいがある、と過去の自分を褒めちぎっていた。

本来ならば、ナルトの勉強を幼馴染みのサスケと共に見ていたのだが…二人の努力も虚しく、前回のナルトは赤点を叩き出していた。

サクラとサスケに勉強を見てもらおうとしたナルトを捕まえたのは、イルカ先生だった。サクラとサスケの負担を減らす為だと言ってはいたが、ナルトの為に時間を割いているようにも見えた。

今回はサスケと二人だろうかと考えていたところ、サスケに伝える前にどこから聞きつけたのか、香燐が「サスケは私と!一応水月達…と勉強会をするからな!」とサクラに直接宣言してきたのだ。


香燐としては、サクラが渋ると思っていたのだが、思いの外あっさりとサクラが了承したために、拍子抜けしていた。

いつも幼馴染みに付き合って、クラスの付き合いを疎かにするのは良く無いと、サクラは常々考えていた。ナルトとサクラは同じA組、サスケは隣のB組なのだ。


一人で勉強をしても良いのだが、やはりつまずく所があるわけで。誰かを頼るにせよ、従兄弟であるサソリはなんか嫌で…


という、ここまでが建前。



サクラ本人ですらあまり覚えていないが、色々と回りくどいような説明やらを必死になって話し、それとなくを意識しながらイタチにお願いしたら、オッケーが貰えたのだ。


この日サクラは一旦ダッシュで帰宅して、前の週から考えに考え抜いた「お淑やかな大人を目指したコーディネート」に着替えて来るという気合いの入れようだった。

表情に出さないようにしつつも、胸中が狂喜乱舞の勢いなのは、誰にも咎められないだろう。




「なるほど…応用、特に引っ掛けに弱いのか…」

「もしかして、早速間違えてましたか?」

「残念ながらな」




隣の席に座って、スッと長い綺麗な指が問題集の上を滑る。


細められた真剣な眼差し、
かっこいい……って、いけない!今は解説に集中、集中……でもかっこいい…

と、ぐるぐる巡る邪念と戦いつつ、声はしっかり余すところなく聞き取る。


ついつい見惚れながらも、教わったことを直ぐ様吸収し、類似問題をこなして行くサクラは、流石クラスの優等生といったところか。




「少し休憩したらどうだ?」

「でも…」

「数学は量をこなすことだが…そもそも、人間の集中力はせいぜい15分程度。ダラダラ勉強するより、休憩を挟む方が効率が良い」




丁度頃合いだろう、と時計を確認するイタチ。



「それもそう、ですね。モチベーションを保ついい方法とか、ありませんか?」

「そうだな…とても単純ではあるが、飴と鞭、じゃないか」

「飴と鞭…」

「試しに一つ飴をあげようかな…目を瞑って」




にこりと笑いながら言うイタチに、サクラの表情は動揺のあまり笑顔で固まった。



「えー、何ですかー…」

「ほら、いいから」

「……」



軽い調子で返し、話をそらす作戦はあえなく失敗。有無を言わせ無いようなイタチに、もうなるようになれ!とサクラはギュッと瞼を閉じる。

何も見えない中で感じるのは、イタチの微かな動きと息遣い。


もしかして、もしかして…キ、キス…とか…いやいや待ってまって!


瞼の裏に影と気配を感じる。何となくイタチの手が近づいたのだと理解したからか、瞼がふるふると震えてしまう。そして手は更に上に行き…ポンとサクラの頭に乗せられたかと思うと、そのまま撫で始めた。


えっと…?


そぅっと目を開いたサクラ。

頭を撫で続けるイタチの顔はどこか嬉しそうで。




「頭を撫でられるのは嫌だったかな」

「嫌じゃないですっ、けど…」



変な期待をしていた私が悪いといいますか!嬉しい、けど…



この近い距離感に喜ぶと同時に、妹としてみてるからこその近さだと理解していた。


サクラ本人も、イタチは幼馴染みのサスケの兄…憧れのお兄ちゃんとして見ていたのも事実だった。


しかし、日に日にその想いは本人を無視して形を変えていく。
今にも溢れてしまいそうな気持ちだけれど、それを真っ直ぐに伝えられるほどの勇気は持ち合わせてはいなかった。

どうしたって、この居心地の良い距離感を壊すことに恐れを感じずにはいられないのだ。


イタチを見つめていたはずのサクラの視線がゆるゆると降下していく。それに合わせるかのように、イタチの手も離れていく。

妹扱いは嬉しくないが、離れていく温もりが惜しいと感じる。自分勝手な感情に、サクラは自嘲する他なかった…はずだった。




「サクラの髪は綺麗だから、つい触りたくなるんだ。これじゃ、オレへの褒美だな」

「え」

「こうしよう。今度のテストでいい点が取れたら、二人で何処か出かけないか?」

「は、はい!」



反射的に答えてしまったけれど、よくよく考えてみればこれは…

本当のデートのお誘いなのではないか?

いやまさか…と頭はぐるぐると回っていたが、表情と口だけは、冷静さを保つことに必死である。



「あ、でも…いい点って…」

「95以上ってところかな」

「95点より上…」

「飴と鞭だから、そうだな…鞭はちょっとしたオシオキにしようか」

「え?」



ニコニコしたままイタチは次の公式についての解説を始めた。


処理しきれないことが沢山あった。勉強とは別に聞きたいことも沢山あった。

しかし…



「この問題の場合だと、さっきの公式よりも…」

「……こっちに当て嵌めた方が早く解けますね」

「ああ。それに、こことここが…」



二人きりの勉強会に集中することを選択した。もう少しだけ、この距離感を保つことにしたのだ。


そのお陰なのか、後日行われたテストにおいて、いい点どころか、満点を叩き出したのは別のお話ーー。

飴と鞭
(オレにとっては飴と飴、だな)

End
ーーーーーーー
サクラが片想いだと思う中、イタチさんは両想いだと気付いている確信犯…みたいな?←
「自分の行動全てに反応するサクラが可愛いのが悪い」という思考回路。サクラの前だと、爽やかに黒いイメージ。
が、書きたかったのですが、表現出来てるのか…?

キリ番リクエストをしてくださった紫杏様に捧げます。

2018.2.10

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