仮面優等生C
あの後、どうやって帰ったのか、正直言って覚えていない。
『おまえってさ…なんつーか、見ててほっとけなくなるんだ』
『ルーシィの困った顔を見てっと、助けてぇって思っちまうんだ』
昨日のグレイの言葉が頭を支配する。
目を瞑ると、頭にのせられた暖かな感触と笑顔が蘇って、顔に熱が集まっては、グレイの力にあたしはなれないのか…と沈んではまた、グレイはあたしが好き?なんて…気持ちが上がったり下がったりを繰り返していた。
そんなこんなで、勿論授業の内容なんて頭に入ってくるはずもない。
何時の間にか授業終了のチャイムが鳴っていた。その事に気づいたのは、教室が昼休み特有のざわつきに包まれたからだった。ハッとなり、お弁当を持ってレビィちゃんのもとに行こうと席を立つと、クラスの入口辺りから女の子に声を掛けられた。
「ルーシィさん」
「え、えっと…?」
「お話したいんですけど、ちょっといいですか?」
「え、あ…うん」
お願いをされているはずなのに、その女の子の瞳には、有無を言わせないような、力強い意思が感じられた。
ついうなづいてしまったあたしは、机の上にお弁当を置くと、その子について教室を出た。
辿り着いた場所は、別棟に行く時に使う渡り廊下。特別授業や講習会などに多く利用される教室ばかりあるため、普段は人通りが少ない。呼び出しには最適な場所だろう。
もちろん、こんな場所に呼び出される理由なんて、あたしにはわからないけど…
女の子が立ち止まったため、あたしも止まる。
「いきなりすみません…でも、どうしても聞きたいことがあったので…」
「えっと…聞きたいこと?あたしに?」
「……ずっと気になってたんですけど…」
「?」
「ルーシィさんは、グレイ様と付き合ってるんですか?」
「……はい?」
え、何…様?
グレイ様って…
ある意味衝撃的過ぎる質問に戸惑っていると、女の子の視線が突き刺さってきた。
早く答えて
彼女からヒシヒシ伝わる訴えに、あたしは戸惑いながらも答える。
「…付き合ってない、けど」
「…そうですか、よかったです。それなら…
必要以上にグレイ様と仲良くしたり、近付いたりしないでください」
「え?」
女の子から解き放たれたその言葉に、あたしは絶句する。その子はそんなあたしなんてお構いなしに続ける。
「グレイ様がこの学園の大半の女子にとってどいうい存在か…私にとっても大きな存在なんです。だからルーシィさん、グレイ様に気持ちがないなら、近付いたりしないでください」
「そ、んな、こと…」
そんなこと、出来るはずがない。
確かにあたしはグレイとは付き合ってないし、ただのクラスメイト。
だけど、あたしにとって、グレイはもう、ただのクラスメイトの枠を越えている…特別な存在。
そんなあたしに、女の子はひとつ溜め息をつくと、淡々と話し始めた。
「何か勘違いしていませんか?」
「え?」
「あなたはグレイ様に対して…勘違いしているんじゃないですか?グレイ様があなたに優しく接するのは、何も特別なことではないというのに…」
「何よ、それ…?」
「初等部の時、そして中等部の時。私はグレイ様と同じクラスだったので、よくわかります。グレイ様は、誰にでも平等に優しい。勿論、私が困っている時も、何度も助けてくれました……この意味、わかりますよね?」
彼女の言葉に、息が詰まる。鼓動が早くなる。イヤな汗が背中を伝う。
そして彼女は、あたしに決定打のような言葉を投げつけた。
「ルーシィさん、貴女は高等部からこの学園に来たんですよね?だから、貴女は高等部でのグレイ様だけを見て、勘違いしているんじゃありませんか?」
「………っ、」
彼女の言葉は、きっと正しい。
そうハッキリ思った瞬間、手足が小刻みに震え出した。
『おまえってさ…なんつーか、見ててほっとけなくなるんだ』
あれはただ、あたしが頼りないだけ…
『ルーシィの困った顔を見てっと、助けてぇって思っちまうんだ』
あたしだけじゃない…誰かが困っていれば、つい手を差し伸べてしまうだけ…
全ては、グレイがもつ『優しさ』だった…?
そう思った途端、その場にしゃがみ込んでしまった。
「…わかってくださればいいんです。では、私はこれで…」
自分の取るべき行動…わかってますよね?
そう言い残すと、彼女は教室の方へと歩いて行った。
その場から立つことが出来ないあたしは、たた呆然としたまま俯いていた。
グレイを特別だなんて思ったのは、あたしだけ…
グレイにとって、あたしは特別かもしれないだなんて、情けない。
そう、あたしが情けないから、グレイは優しく接してくれてたんだ。
あたしは他の女の子達と同じ…
むしろ面倒な奴だと思われてるのかもしれない。
そんな考えがストンと胸に落ちてきたのと同時に、ポロポロと涙が溢れ出す。
ああ、あたしは、もう…
グレイに近付いちゃ、いけないんだ。
To be continue…
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〜2014.10.05
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