七瀬遥の場合
「……俺?」
「えー、ハルちゃんからぁ〜?」
「こら渚、順番だろ?」
「ぶぅー!」
つまらなさそうにいじける渚に苦笑いを零しつつ、なまえは遥と向き合うと、シャーペンを片手にアンケート…基、簡易的取材を始めた。
『最初の質問。起きて最初にすることは?』
「朝風呂。朝は苦手じゃない」
『朝が大丈夫なんて、ほんと羨ましい…』
「でもそれで遅刻されてもね?」
クスクス笑いながら言う真琴に、遥は不機嫌そうに睨む。
『はい、次。泳ぐこと以外で、休日の過ごし方は?』
「あまり外出はしない。でも真琴となまえが来てよく外に連れ出される」
『連れ出されるって…』
確かに、水関係のことが無ければ、基本的に引きこもりやすい遥を外出させようとしている。
だからと言って、その言葉選びは何だか語弊があるような…と不服に感じるなまえなのだが、もちろん遥が気付くはずがなかった。
『えっと、趣味はないの?だって』
「特にない。泳げればそれでいい」
『流石…好みのファッションは?』
「ファッション…?めんどくさい服は嫌いだ。脱ぎにくい」
「今のハルちゃんの発言って、字面だけ追うと変態発言だよね…」
「ハルのことを知らないと、誤解されるかも…」
渚に続き、真琴の言葉に、確かに…と思うなまえ。
次の質問を見た瞬間、彼女はまるでゴーゴンの石化の呪いにかかったかのように固まった。
『う、えー…』
「……なまえ?」
訝し気に顔を向ける遥に、少々苦虫を噛み潰したような表情を見せるなまえだが、意を決して質問をする。
……質問するしかないのだ。
『…ず、ずばり…』
「ずばり…?」
『し、下着の種類、は?』
「……」
『……』
「……答えないといけないのか?」
『……答えなくて大丈夫だよ』
回答拒否、と書き込みながら、泣きたいと感じるなまえ。
たまたま真琴達が聞いていなかったのが不幸中の幸いか…いや、もし、真琴達の質問の中に同じコレが入っていたら?
幼馴染みでも、正直言って知らなくていい情報だ。
あの子は何て質問を入れてきたんだ!と今ここにいない質問制作者を心で罵ることしか、このもどかしい気持ちの発散方法をなまえは知らない。
『つ、次!寝るときはパジャマ派?スウェット派?』
「パジャマは着ない」
「やっぱり字面だけ追うと、」
「渚ストップ!」
それはアレか。裸族と言いたいのだろうか…
『部屋のインテリア、こだわりは?』
「インテリア?…昔から特にいじってない」
『次、家族構成を教えて!』
「父と母」
『次ー、自炊なの?』
「ああ。自分で作った方が都合がいいし、料理は嫌いじゃない。弁当も自分で作ってる」
「サバが過多な料理ですか…?」
「ハルちゃん=サバだし」
『うん、あの子もそう思ってるみたい。次の質問、サバ以外に好きな食べ物は?また苦手な食べ物は?だって』
「とくにない。腹が膨れれば何でもいい」
『…そんな、野生児みたいなコメント…はぁ、次行くね…いつも橘くんと分けて食べているアイスはソーダ味だけど、お気に入りなの?』
「べつに…。そんなことあまり考えたことがない」
…それより、あの子は何処まで見てるの…
やはり、友人の観察眼(?)の鋭さに、少々寒気を覚えるなまえであった。
『得意教科と苦手な教科は?』
「美術と技術家庭科。集団でやる授業は好きじゃない」
『テストの勉強方法は?』
「普通だろ。とりあえず暗記しとけばなんとかなる」
『それは私も同意かなぁ…次…岩鳶ちゃんが好きなの?』
「………別に」
『今の間は何…』
「エリカ様だ!」
『随分と懐かし過ぎるネタだね』
「あれはネタなんですか…」
「違うんじゃないかな…」
『細かいこと気にしなーい!はい、次の質問!初恋の相手は?』
「小学生のとき、近くの山に登りに行ったときに出会った滝だ」
『多分そういうのじゃないよね…』
「僕もそうだと思います…」
『だよね…えっと、水泳をはじめたきっかけは?』
「真琴が誘ってきた。小学生のころ」
『なんかやっと、まともな質問になった気がする…えっと、泳ぎとはどんな存在?だって』
「泳ぎたいから泳いでいるだけだ」
「ハルらしいね」
『あ、最後の質問だ。ライバル・松岡凛にこれだけは負けないというものは?』
「べつに。勝ち負けに興味はない」
「うっそだー!じゃあなまえちゃんのこt「渚…」
渚による発言を止めたのは、今まで真琴だったのに変わり、今度は遥自身が止めた。
『ん、渚、今呼んだ?』
といっても、書き込み作業に集中していたなまえに、聞こえる筈はなかったのだが。
「いやなまえの気のせいだ…それより書けたのか?」
『うん、バッチリ。ありがとうね、遥!次は…
真琴!』
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2015.9.26