葉月渚の場合
「やったあ!やっと僕の番?」
『うん、お待たせしました』
「よーし、張り切って答えるね!」
目をキラキラさせた渚に、頬が緩むのを感じながら、なまえはシャーペンを握る手に力を入れた。
『最初の質問。起きて最初にすることは?』
「目覚ましは何個もあるんだけど、止めてまた寝ちゃうんだよね。だから最初にすることは二度寝かな?」
『遅刻しないように気をつけないとだね…はい、次。泳ぐこと以外で、休日の過ごし方は?』
「いろんな場所に出かけるよ!まだ行ったことのないところに行くのが好き。旅行も好き。探検、探検、楽しいよ♪」
『ふふ、どっかの誰かさんとは真逆だね。私達が連れ出してるみたいだし』
「…なまえ」
「なまえってば…」
どっかの誰かさん…遥はむすっとなまえを見るが、もちろん彼女はスルー。
そんな幼馴染に苦笑しかできない真琴。
『好みのファッションは?』
「動きやすくて明るい色の服が好きだよ♪なんかこう…元気が沸いてこない?」
キラキラした目で楽しく答える渚に、穏やかな気持ちになるなまえだが、やはりあの質問を見た瞬間、再び彼女はゴーゴンの石化の呪いにかかった。
と、同時に、質問を制作した友人に対する怒りが込み上げてくるのだった。
『うー…』
「なまえちゃん、どうしたの?」
どうしたの、なんて言っているが、妙ににやけている渚に、この確信犯め!と心で嘆くなまえ。
……やはり、質問するしかないのだ。
『……ずばり下着の種類、は?』
「トランクスだけど。それがどうかしたの?」
「「……」」
「今見てみる?」
『っ、いりません!』
「えぇー、ほら、記念にさぁ!」
『何の記念!?』
「大丈夫だよ!別に減る物でもない、っうわ!?」
「「「渚?/渚くん?」」」
涙ぐみ、顔を赤くするなまえに接近する渚。
もちろん、そんな彼を見過ごすはずも無く。
渚の肩に乗せられた手の先にいたのは、仏頂面の遥、眉間にシワを寄せた怜、そして無駄にいい笑顔の真琴だった。
『えっと、趣味はないの?だって』
「いろいろあるけどペンギングッズを集めることかな。この高校を選んだのも、名前がイワトビペンギンみたいで可愛いな〜って気に入っちゃったんだ♪」
「どんな理由ですか、全く…」
『渚らしいと言えば、渚らしいよね…えっと、部屋のインテリア、こだわりは?』
「枕元のおっきな星!」
『次、家族構成を教えて』
「お父さんとお母さんと、お姉ちゃんが3人。お姉ちゃんたちはすっごくうるさくて、もう大変なんだ〜…」
『確かに、渚は末っ子気質満載だと思う』
「そう?なまえちゃんみたいなお姉ちゃん…家族が欲しかったなぁ…」
『ありがとう。そう言ってくれると嬉しいよ!』
「本当!?じゃあ、僕のお嫁s「「渚!」」…そんな怖い顔しないでよ、ハルちゃん、マコちゃん」
「…いくらなんでも、“姉”から飛躍し過ぎでしょう」
「え、そうかなぁ?ちゃんと“家族”って言ったよ?」
『えっと、次、言ってもいい?…お昼ご飯はお弁当派?購買派?』
「いつもは購買部でパンを買って食べてるよ。僕のお気に入りは“イワトびっくりパン”!すっごくおいしいんだ〜♪」
『へぇ〜。好きな食べ物と苦手な食べ物は?』
「いちごのアイスとショートケーキが好き!苦手なのは納豆。においがダメなんだ〜」
『においが苦手…っと。次の質問!好きなジャンルの映画は?』
「何でも好きだけど、静かなヤツはすぐ眠くなっちゃうから苦手かも」
『ふふ、渚らしい。次、得意教科と苦手な教科は?』
「歴史が好きなんだ。苦手なのは数学…。なんでみんなあんなの解けちゃうの?分からなさ過ぎて、いつも怜ちゃんに教えてもらうよ」
『じゃあ、テストの勉強方法は?』
「一夜漬け!」
『一夜漬け…っと。ありがとう渚!これで全項目終了だよ!』
しっかり全項目をチェックし、お礼と労いの言葉をかけようと顔を上げた。きっと渚のことだ。疲れちゃったー、とか言うだろうというのがなまえの予想だったのだが…
「……」
『…渚?』
まさかのノーリアクションに、戸惑う。
しかし、次の瞬間、渚の頬がプクゥッと膨れた。なまえは思わず苦笑。
なるほど、そっちか…
「なまえちゃん、ちょっと短かくない?」
『そんなことないと思うけど…』
「本当に〜?僕もっと沢山答えたいのにー!」
「渚くん、好い加減にしたらどうですか?なまえ先輩を困らせて…それに次は僕の番なんですけど…」
『渚、ありがとうね。怜くんと交代!』
「……わかった」
本当に渋々、という表情で身を引く渚に、やはりなまえは笑うのだった。
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2015.11.28