人魚姫と呪い(1/2)




「ったく、どこまで続くんだよ…」





行く手を阻むかのように揺らめく海藻を払いながら、鬱陶し気に呟く。

あの色鮮やかな魚達がこいしく思えるほどに、洞窟の中は暗く、陰惨としている。






「こんなとこに住めんのは、
魔女ぐらいだろーな…」





さっさと人間の足を貰わねぇと…。

兎に角急いでルーシィの
元へ行かなくては…


先ほどから胸騒ぎが襲う。
ルーシィに何かあったのでは、とついつい考えてしまうのだ。



それは仲間としての心配だけではない。



ふるふると首を横に振って、雑念を追い出そうとするグレイ。



ふと、目の前から感じる気配。

一瞬警戒を強め、睨むように見つめる。

その人物も、グレイの存在に気付いたのか、ゆっくりと振り返る。





「お、まえ…」





振り返ったその人に、グレイは驚愕したように目を見張るのだった。



***









「お前…



ジュビア、か?」





腰辺りまである長い青い髪を靡かせている彼女…その容姿は、ギルドの仲間、ジュビアなのだが…




「其方は…誰だ?」

「え、っと、」

「我は深海の魔女。ジュビアという者ではない」

「お、おう。そうみたいだな…」





声に乗った威圧感、雰囲気、佇まい…色々とジュビアとは異なっている彼女こそが、深海の魔女。


それにしたって似ている。

そういえば、とルーシィの乗っていたという船の話を思い出すグレイ。
自分やナツ、エルザ(性別違い)に似たヤツらがいたという。

まぁ、世の中には似たヤツが3人いるという話は、あながち嘘じゃないみたいだな。






「それで…何が望みだ?」

「望み…」

「そうだ。態々こんな所に来て…我なんぞに会いに来る者は、この忌々しい魔女の力を望む者くらいだ」

「お前…何自分のこと卑下してるんだ?」




突然の言葉に、ポカンとした深海の魔女。




「こんな所だとか、忌々しいだとか…そこは素晴らしい、とでも言っとけよ」

「……」

「んな寂しそうな顔して人の望みを叶えてるのか?もっと、やってやった!…くらい思っていいんじゃねーの?」




魔女と聞いて、てっきりおどろおどろしいヤツかと思っていたのだ。しかし、目の前にいる彼女はあまりにもイメージしていた魔女像と違い過ぎていた。




「そ、そんな風に言ってきたのは、其方が初めてだ…」




ボソッと溢した言葉には、嬉しさと照れと、戸惑いとが、ごっちゃになっていた。

呆れたように笑う魔女。



「人魚のくせに、変なヤツだな…」

「そうか?俺はただ、思ったことを言っただけだぜ?それに…


お前のあんな顔、見たく無かっただけだ」




女に、あんな寂しそうな顔されっと、正直困る。

それがルーシィなら、なおのこと。



そんなグレイの心中を全くもって知らない魔女は…


「!?(まさか…わ、我のこと…!)」



と、顔を真っ赤に染め上げていた。




「そ、そうか…なら、仕切り直しだ」




顔を振って、一つ大きな咳払いをする。




「其方の望みを、この我が叶えてやろう。其方は何を望む?」




先ほどよりも堂々と、魔女らしい彼女に、今度こそグレイは自分の望みを答える。




「……欲しいもんがある」

「欲しいもの(まさか…世に聞く一目惚れで我が欲しいとか、そういう…!)」

「俺に人間の足をくれ」

「……人間の足、だと?」

「ああ」




恋する乙女のような顔をしていた魔女だったが、グレイの望みを知った途端、スッと表情が変わる。


それは凍てついたものだった。




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